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第360話 神の意向、神の威光

 ジリリリリ!!


 武蔵の艦長室に響き渡る、電話のベルの音。

ソファーに座っていた俺は、立ち上がって電話を取りに行った。

黒電話の受話器を上げると、そこからは聞き慣れた声が聞こえてきた。


「ルフレイ、今大丈夫かのう?」


「ああ。何か問題でもあったのか?」


「いや、講和自体は結べたのじゃが、そこでひとつ約束をしてな」


「約束? 一体何の約束だ?」


 受話器から聞こえてくるのは、講和を無事に結びきったベアトリーチェの声であった。

少し疲れているのか、いつもよりも心なし元気がないような気がする。

……にしても、約束とはなんであろうか?


 ベアトリーチェは魔族の王の家系、そんなに変な約束はしないはずだ。

きっと俺、もしくは国家にとって有益だからしたのだろうが。

内容によっては、少し検討する必要があるかもしれないがな。


「ヴェストフリート王国の王の娘、王女だったサーシャじゃが、四肢を失っておったじゃろう?」


「そうだな。それがどうしたんだ?」


「その四肢を元に戻してみせるという条件を元に、彼女をイレーネ帝国に滞在させ続けるという約束をしたのじゃよ。彼女があの状態ではどう扱われるかわからない以上、そうするのが最善じゃと考えたのじゃよ」


「……なるほど、これは少しむずかしい約束だな。少し考えさせてくれ」


 俺は一旦受話器を置き、室内を歩き回る。

俺の力でも、イレーネ帝国の技術でも、癒やしの葉を使おうと、四肢を再生させることは出来ない。

よくて義手義足にモーターを付け神経と接続させて駆動させるかぐらいだ。


 そうなると、四肢を完全に再生させるにはイズンの力を借りる他ない。

……だが彼女がそれを承諾してくれるであろうか?

彼女はあまり、この世界には直接介入する気はないように見受けられるが……。


 だが、これを成功させれば、俺とイレーネ帝国の神権性は高まることになる。

そうすれば、戦後のフリーデンの統治にも良い影響を及ぼすであろう。

成功すればの話だが。


「……そう思わないか、イズン?」


「そうね。あなたの思っていることは間違いないと思うわよ」


「……どこから入ってきたんだ? 扉が開く音はしていなかったが?」


「神は常にそこにいて、そこにはいない存在よ。あなたがいると思えばいるし、いないと思えばいない。あなたが私が今ここにいることを望んだのでしょう?」


 後ろを振り返ると、哲学のような内容を言っているイズンがソファーに座っていた。

まあ確かに彼女の言う通り、俺はさっきそこに彼女がいることを望んだんだ、文句はない。

俺は彼女の反対側のソファーに座り直し、彼女を見つめる。


「……言いたいことは分かっているわよ。四肢の再生でしょう?」


「そうだ。これができれば、大陸における俺とイレーネ帝国の神権性は強化されるだろう。そうすれば、理想とする世界に近づくはずだ」


「神権政治……人類はやはり、上に何か超越した存在を置くと、それに対して従順になるのね。古代から今までもずっとそう、兵器の力よりも見えざる神の力のほうが強い、不思議じゃないかしら?」


「そういうものだろう。人間というのは複雑そうで案外単純な生き物だからな」


 俺とイズンは、本題からは大きくかけ離れた内容について話していた。

彼女は時折、こうしたレベルの高い会話を投げ込んでくることがある。

……神の世界には、何が見えているのであろうか?


「……今回に関しては手伝ってあげるわよ。それが私の思う世界にも、あなたの作ろうとしている世界にも合致しているからね」


「そうか。それは助かる」


「でも、今後はあまり私の名前は出さないことね。あまり神に頼ると、本当の人間からの信頼を失うわよ?  分かったなら、その子を連れてきなさい」


「……分かった。すぐに連れてくるように言っておこう」


 俺はすぐにその場でベアトリーチェに連絡し、サーシャを連れてくるように言った。

彼女はすぐに出発する用意ができていると言い、早速王都に向けてヘリが派遣された。

ベアトリーチェとサーシャ、それにシュトラスブルガーを乗せたヘリは、北方海域に滞在している武蔵へとやってきた。





 しっかりと軍服に身を包み、俺はベアトリーチェらの到着を待った。

海の上であるが雪が降り続けているため、後部甲板では兵士がヘリの着陸に向けて雪かきをしていた。

俺は主砲の第三砲塔の上で、雪を肩にのせながら空を見上げる。


「……到着したようだな」


 空に響く、ヘリのローターが空気を切り裂く音。

それはだんだんと近づいてきて、やがて武蔵の後部甲板に着艦した。

ヘリからはベアトリーチェたちが降りてきて、こちらへとやってきた。


 彼女らは兵士に案内され、こちらへとやってくる。

第三砲塔の上に立っている俺を発見したベアトリーチェは、こちらに向かって手を振ってきた。

それを見たサーシャとシュトラスブルガーも、俺に気づいたようだ。


 俺は砲塔から降り、彼女らを艦内へと迎え入れた。

艦内は空調が効いているので、外よりもかなり温かかった。

俺は彼女らを応接室に案内し、そこで腰を落ち着けた。


「……はじめまして、だな。俺はルフレイ=フォン=チェスター=エスターライヒ。イレーネ=ミトフェーラ二重帝国の共同統治者だ。よろしく頼む」


「私はヴェストフリート王国の国王、シュトラスブルガー=イル=イラストリアスと申します。少し前までは戦争をしていた仲ですが、これからはお互い仲良くいきましょう」


「そうだな。では早速だが、サーシャの四肢を復元させようか。すまないが、シュトラスブルガー殿は外に出ていておくれ。神を降臨させるんだ、最低限の人数でやりたい」


「もうですか! かなり早いのですね。ではどうぞ、よろしくお願いします」


 そう言い、シュトラスブルガーは部屋から一旦出ていった。

ベアトリーチェを監視役として彼に付け、俺は内側から部屋の鍵を締めた。

……さて、では始めるとしようか。


「……後は頼んだぞ、イズン」


「任されたわ。期待していて頂戴」


 サーシャは、この部屋にいるはずのない3人目の声が聞こえてきた衝撃で顔を右左に向かせていた。

そして彼女がちょうど後ろを見たとき、彼女の目には白く輝く人型のなにかが映った。

だがそれを認識すると同時に、彼女の意識は遠のいていった。


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