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第266話 増援

 眼の前に突然現れたコウテイモグラに困惑しつつも戦闘態勢を整えるイーデ獣王国冒険者たち。

貴族もまた長槍を構え、コウテイモグラに睨みをきかせる。

だがコウテイモグラはそんな視線を気にすることはなく、嬉しそうに砂の上を暴れまわっていた。


「あの口……血がついている」


「飲み込まれたのか……あの口に……」


「どんなバケモンなんだよ……」


 コウテイモグラの口から垂れる血。

それは偵察のために先行隊として先に進んでいた者たちの血であった。

冒険者たちは自身の武器を強く握りしめる。


「……あいつに仲間がやられたんだ。俺たちがその敵をっ!」


「「「「討つべし!」」」」


 冒険者たちは一致団結して声を上げる。

そんな冒険者を見たコウテイモグラは飛び上がり、砂漠へとダイブした。

砂漠の表面はコウテイモグラの動きどおりに紋様を描きながら、彼らに近づいてきた。


 ガバァッ!!


 砂漠の中から大口を開けたコウテイモグラが姿を表し、冒険者たちの一角を飲み込んだ。

冒険者たちは必死に抵抗するが、コウテイモグラの顎の力は強く、どんどんと口が迫っていく。

そして遂に口が閉まった。


 メシメシ……ゴキッ、バキバキバキバキッッ!!


『『『『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!』』』』


 骨の砕ける音とともに断末魔が響き渡り、コウテイモグラの口の縁から血が滴り落ちる。

1人だけが腰から下が砕けた状態で口に挟まれており、まだ息があった。

それだけでも助けるべく生き残った冒険者たちは駆け出していくが……


「畜生! あいつ地下に逃げやがった!」


「だれか対抗できる技を持っているやつはいないのか!」


「そんな都合のいいやつがいるわけがないだろう!」


 そう言う間にもコウテイモグラは地中を這いずり回り、生き残った冒険者も飲み込む。

再び彼らの前に姿を表したコウテイモグラは、ニタリと笑うように口角をあげた。

その顔の不気味さに冒険者たちは固まる。


「無理だろあんなの……倒せるわけないじゃないか……」


「息子よ、娘よ、そして妻よ。すまない……父さんはもう……」


「まだ諦めるな! 生きて帰るぞ! 死んでいったの分も生きるんだ!」


「そ、そうだな……」


 その言葉を聞いたアウグストスもまた、自身の妻に思いを馳せていた。

彼自身が父になるということを聞かされたため、そう簡単に生きることを諦めるわけにはいかなかった。

彼は長槍をぐっとに握り直し、じっとコウテイモグラを睨む。


 ヒュルルルル……ズドン!


「「「「!」」」」


 どこからともなく高速で風を切る音が聞こえてきて、何かがコウテイモグラの腹を貫通する。

何かが貫通した瞬間にコウテイモグラの顔が歪み、貫通痕から血が吹き出す。

奇声を上げてコウテイモグラは地面へと潜り、少し距離を取った。


「なんだ、何が起きたんだ!」


 アウグストスたちは揃って何かが飛んできた方向を見る。

砂煙が巻き起こっており中の様子は見えなかったが、何かが近づいてきていることには気がついた。

その砂煙の中にいたのは――


『むむ、心臓を外したようです』


『仕方があるまい。諸元を合わせて、次こそは当てるぞ』


『言われなくとも。アハト・アハトに貫けぬものなどありません!』


 砂漠の丘から姿を表したアハト・アハトの砲身。

砂を掻き上げながら姿を表したのはエレファント重駆逐戦車であった。

エレファントに続いてⅢ、Ⅳ、Ⅴ、Ⅵ号戦車やⅢ号突撃砲、フンメルやナースホルンが姿を表す。


「あれは、友軍か!」


「機甲師団……西から来ているということはミトフェーラ駐在のイレーネ軍か!」


 アウグストスの察した通り、それはロンメル元帥に指揮された『フロリアン・ガイエル』『ヴィーキング』の各機甲師団であった。

かつては義勇軍として合計5000人が所属するに過ぎなかったが、ミトフェーラ統治に当たり兵力が本土部隊と同レベルの10万人まで引き上げられていた。


 車体は北アフリカ戦線のものと同じく砂色で全車両が塗装されている。

また彼らはイレーネ本土軍が『United Nations』の頭文字の『UN』を車体側面に描いているのに対し、彼らは『Unser Rommel』の頭文字の『UR』とヤシの木を描いていた。


『元帥、敵が潜ってしまいましたがいかがしますか?』


『そのうちまた姿を表すはずだ。その瞬間に心臓を撃ち抜く。各車散解してどこからでも砲撃をできるように準備を!』


『了解! 全車散解、どこからでも敵を砲撃できる位置につけ!』


 全車隊列を解いて散解し、地下に潜っているコウテイモグラを囲うように動く。

段々と包囲網に囲まれたコウテイモグラは焦りだし、地面に這い上がろうとしてきた。

そして少し頭が出たところで砲撃ができる車両から順次発砲、頭を吹き飛ばした。


 ギエエエエエエエエエエ!!!!


 すごい声を上げてコウテイモグラは地上に姿を表し、頭を手で抑えようとする。

だが先程射撃していなかった砲が今度は火を吹き、とっさに展開した防御魔法もやすやすと貫通してコウテイモグラの体に大きな風穴を開ける。


『おい、あいつまだ逃げる気だぞ!』


『絶対に逃がすな! 何としてもこのタイミングで仕留めろ!』


 だが装填に時間がかかるため砲が撃てず、危うくコウテイモグラを取り逃がしかけた。

しかしそこでⅠ号、Ⅱ号戦車が機関砲を発射しながらコウテイモグラへと肉薄していく。

そして車長は天蓋から体を出し、車体側面にくくりつけられているパンツァーファウストを手に取る。


「これでも喰らいやがれ!」


 彼らは狙いを付けると同時にパンツァーファウストを発射、直ぐに発射管を廃棄して2本めに手を掛けた。

だが戦車をも屠ることが出来る兵器でモグラが倒せないわけがなく、コウテイモグラは胴で真っ二つに割れた。


『元帥、倒せたようです!』


『それは良かった。では我々は進撃を続けるとしよう』


『彼らとは話さなくてもいいのですか?』


『じゃあせめて各車の車長は車外に半身乗り出して彼らに敬礼するように』


 ロンメル元帥はそう指示したが、大半の車長はこういう時にどんな敬礼をすれば良いのか分からなかった。

そこで彼らは仕方がなく、もっとも身にしみたナチス式敬礼をしながらアウグストスたちの前を通り過ぎる。

お礼を言う間もなく去っていった彼らを、アウグストスたちはただ呆然と見ているしかなかった。


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