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第254話 大海軍時代

「司令、こちらを見ていただけますか?」


「おやハルゼー大将……いや、今は元帥だったな」


「なんだか自分でも実感が湧きませんな。こんな物を持っているというのに」


 対ミトフェーラ魔王国戦の戦果により、3人の大将は元帥へと昇進した。

元帥になった彼らには元帥杖の所持が認められており、ハルゼー元帥も手に持っている。

また俺と同じく金の加飾の入った元帥刀も帯刀している。


「はは、俺だって最初はそうだったさ。で、どれを見れば良いのかな?」


「そうでした。こちらの手紙なのですが……」


 ハルゼー元帥は、持参した複数枚の手紙を渡してくる。

既に封は切られており、一度目は通されているようだ。

俺は中身を確認する。


「……なるほど。艦艇の購入の打診か」


「えぇ。今お渡ししたものはルクスタントからのものですが、他の国からもたくさん届いております。ですが全て目を通されるのは面倒でしょうので、各国の要件をまとめておきました」


「おぉ、それは助かる。サンキュー」


 俺はハルゼー元帥の作成したリストに目を通す。

どうやらルクスタントを含む複数国から打診が来ているな。

しかし困った……一部は引き受けるにしてもドックはそんなに空いていないぞ。


 現在イレーネ島のドックには実験的に建造中の新型艦、機関に不調をきたした出雲、小規模改装のためのミッドウェイ、その他駆逐艦が入渠しており、またブルネイの泊地では戦艦扶桑、山城、伊勢、日向がそれぞれ最新鋭航空機を運用できる多用途航空戦艦への改装工事を、追加召喚された飛鷹、隼鷹、大鷹、雲鷹、冲鷹が貨客船への再改造を受けており、空きが少ない。


 特に扶桑型、伊勢型の改装は大規模なものであった。

扶桑型は3、4、5、6番砲塔を撤去、煙突を前方へ移動、伊勢型は3番、4番砲塔を撤去し、その部位まで航空甲板と格納庫を増設、F-35Bを一隻当たり最大6機搭載できるように大改造されている。


 また余剰戦力となっている赤城、加賀の戦艦への再改装案や、天山などの新鋭機搭載案もあったがいずれにせよ実現していない。

とにかく今の造船所は新規に建造している余裕などないのだ。

だがそんなことはハルゼー元帥が一番よく理解している。


「新造は現在のところは不可能に近いです。そこで既存艦艇を改装して売却するのはいかがでしょうか?」


「既存艦艇って……今の帝国海軍の艦船をか?」


「いえ、今帝国海軍に就役している艦船ではなく新たに召喚した艦船です。具体的にはまとまった数が用意できるフレッチャー級などを少し改装して売却するのが良いかと」


「成る程、たしかにそれならば何とでもなりそうだな」


 それに各国家に売却する艦船が同じ規格であれば、整備もしやすくなる。

艦艇を売れば賠償金の肩代わり分の補填にもなるし、かなり美味しい仕事かもしれない。

そう思っていると、ハルゼー元帥がさらに資料を持ってきた。


「これは?」


「私なりにまとめた売却艦艇案です。一度目を通していただけたらと」


「分かった。少し待っていてくれ」


◯艦艇売却案(仮)


・三冠王国(ルクスタント王国)

 要求内容:戦艦、巡洋艦、空母など

・案

 テネシー級戦艦 1隻

 ボルチモア級重巡洋艦 1隻

 クリーブランド級軽巡洋艦 2隻

 ギアリング級(嚮導)駆逐艦 5隻

 フレッチャー級駆逐艦 20隻

 ジョンCバトラー級駆逐艦(フリゲート) 20隻

 カサブランカ級護衛空母(F4Uー4セット) 2隻

 計:51隻


・三冠王国(ゼーブリック王国)

 要求内容:戦艦、巡洋艦、空母など

・案

 ボルチモア級重巡洋艦 2隻

 クリーブランド級軽巡洋艦 2隻

 ギアリング級(嚮導)駆逐艦 2隻

 フレッチャー級駆逐艦 10隻

 ジョンCバトラー級駆逐艦(フリゲート)10隻

 カサブランカ級護衛空母(F4Uー4セット) 1隻

 計:27隻


・イーデ獣王国

 要求内容:デカい船

・案

 テネシー級戦艦 1隻

 ボルチモア級重巡洋艦 1隻

 クリーブランド級軽巡洋艦 2隻

 ギアリング級(嚮導)駆逐艦 2隻

 フレッチャー級駆逐艦 10隻

 ジョンCバトラー級駆逐艦(フリゲート)10隻

 計:26隻


「これだと全部で100隻ほど売却することになるのか。一隻から大金貨20枚取れば全部で2000枚、ふふふふ」


「司令、なんだか悪い顔をしています」


「そ、そんなことはないと思うぞ?」


「……まぁ良いでしょう。これらの艦艇には砲撃能力を削り落として対潜能力を向上させる改造をするつもりです。クラーケンのようなやつがいるのでね」


 クラーケン、そう言えば前に一度遭遇したことがあったな。

あの時は結局何とかなってそれ以来見ていないが、もしかするといつかまた来るかもしれないからな。

それを考えると、シーレーンをクラーケンから防衛するためにも対潜装備は必要だろう。


「ゼーブリックに売る分は若干削減しよう。この前のグレースの一件に対する制裁だ。他はこのままで構わないだろう」


「畏まりました。ではそのように返答してきますので、司令は必要な分だけ召喚しておいてもらえますか?」


「任せておけ。だが港がパンパンになる予感しかしない……」


「とりあえずはルクスタントの分からでどうでしょうか。同盟関係にありますし」


 結局、改装の時間の兼ね合いも考えてテネシー級戦艦の2隻を先に供給することにした。

召喚された2隻のテネシー級は浮きドックに入渠し、艤装工事を受ける。

ただ戦艦である2隻に対潜能力を与える改装は行われず、艤装の点検が主になる。


 その後、ハルゼー元帥の提案した案は各国に受け入れられて売却が決定し、残りの艦の改装も順次進められることとなった。

またそれに伴って港湾施設の整備も必要になり、それも受注することとなった。

軍艦には興味を示さなかったフリーデン連立王朝も民間船舶には興味を示しており、先立って港湾の整備が行われることとなった。


 各国はこれにより海での結びつきは強めることとなった。

ルクスタント、イーデ獣王国にテネシー級戦艦の2隻が最初に嫁入りし、同海軍の旗艦となった。

世界は、各国が自国のシーパワーを誇示する大海軍時代へと突入していく。


―――――

本来は本日外伝を投稿予定でしたが、内容に少し変更を加えたいので明日とさせていただきます。

ご迷惑をおかけします。


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