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第255話 予算の取り合い

 テネシー級戦艦が引き渡されたは良いものの、乗員の訓練は全くと言っていいほど行われておらず、また港湾の整備も済んでいなかった。

そのため一時的にテネシー級戦艦の2隻は連合艦隊へと編入され、各国からやってきた海兵たちに訓練を施すこととなった。

テネシー級戦艦の2隻は追加配備されたミズーリ、ウィスコンシンを含むアイオワ級4隻を引き連れてアルマーニ海に展開する。


「まずは艦をまっすぐに操艦することからだ。絶対に当てるなよ?」


「は、はいっ!」


「あとそこ、ぼさっとしないで働け!」


「「「「イ、イエッサー!」」」」


 機関、操艦、砲塔動作、伝令……様々なことを同時に行っている2隻の艦内はてんやわんやしていた。

特に操艦はひどく、艦隊行動に支障をきたすレベルであった。

そのためアイオワ級の4隻は陣形を解き、テネシー級の左右に展開した。


「なんだかフラフラしていますね〜」


「操艦が初心者だからな。あと機関の扱いにも慣れていないから速力が出ていない」


「仕方がないでしょう。まだ動いているだけマシですよ」


「こりゃあ砲撃訓練がまともにできるまでどれだけかかるかな……」


 だが彼らとて、帆船時代は立派な船乗りであっただけあり、数度出向を重ねるにつれて操艦にも慣れてきたようだ。

機関部も少しは動かせるようになり、出力も安定してくる。

完全な熟練には数年かかるだろうが、ひとまず砲撃訓練に移っても大丈夫だと判断された。


 そうして訓練を重ねること1ヶ月、ルクスタントとイーデ獣王国の両方で港湾施設が完成したため、テネシー級の2隻は連合艦隊を除籍、各国の海軍へと再編入された。

再編入に伴い、艦の乗員はイレーネ派遣員が五割、各国兵員が残り五割の割合で乗艦し、段階に応じて派遣兵の割合を減らして最後には各国兵員だけにする予定だ。


 テネシー級の就役に次いでボルチモア級、クリーブランド級が就役、少し遅れてフレッチャー級とジョンCバトラー級が就役した。

ボルチモア級、クリーブランド級には高性能ソナーと高性能電探が増設され、フレッチャー級とジョンCバトラー級は主砲の一部と魚雷発射管を下ろしてウェポン・アルファ、短魚雷発射管が増設された。


 ルクスタントに売却されたカサブランカ級については乗員の育成が全く追いついていないため、引き渡されたあとも艦載機は搭載されていない状態が続いていた。

だが発着艦に乗員が慣れないといけないため、大鳳搭載の零戦62型、流星が訓練にあたっている。


「次来るぞ! 機体の収容にあたっている者は注意しろー!」


「了解……ってあれ? あの機体なんか変じゃないですか? さっきまでとは違うような……」


「あぁ、あれが本来の艦載機のF4U-4コルセアだ」


「コルセア……あれが載るんですね!」


 コルセアは着艦信号士官の誘導に従い、適切に着艦する。

カサブランカ級には着艦誘導装置が増設されていたが、彼らはそれを使う文化がなかったため身振りで着艦方法を伝える必要があった。

着艦してきたコルセアに興味を持ったルクスタントの船員は、駐機したコルセアによってくる。


「おぉ……これが本来の艦載機」


「こんな物を運用できるようになるのか……何だか時代が変わったな。ちょっと前まで帆船の戦闘艦に乗っていたのが嘘みたいだ」


「ゼーブリックの鹵獲品を見た時は驚いたもんなんだがな、これに比べれば大した事なかったなぁ」


「それだけの技術格差があるってことよ」


 テネシーなどが就役したルクスタント海軍では、前まで運用されていた鹵獲艦『カイザー』などを順次退役させていく方針を決定していた。

そんなふうに急速に近代化が進む各国海軍であったが、一方のルクスタント陸軍の司令部では……


「海軍さんは新型艦を続々購入しているらしいですね。うらやましいことです」


「それに比べて陸軍は……今だ槍と剣、弓矢が主体の兵装だ……」


「仕方がないじゃないですか。海軍は練度が必要なだけに常備軍であるのに対して、一部以外の陸軍は有事の際に農民をかき集めて戦争する軍隊なんですから。そもそも根底から違いますよ」


「常備軍ねぇ……そう言えばゼーブリックとヴェルデンブラントは近代兵装の常備軍を編成したとか聞いたぞ」


「「「「えっ!?」」」」


 その話を聞いた、その場にいた全員が声を上げて驚く。

常備軍ということにも驚いたが、装備しているものが近代兵装であるという点に驚いていた。

このままでは三冠王国の盟主たるルクスタントの陸軍戦力が一番弱くなると考えたのだ。


「あとはイーデ獣王国とフリーデン連立王朝も戦後賠償の兵器で常備軍を創設するらしい。ゼーブリック達のは人数5000人ぐらいの特殊部隊のような位置づけらしいが、イーデ獣王国達は本気で数万規模の陸軍を設立させるつもりらしい」


「イーデ獣王国とフリーデン連立王朝は陸軍もそうだが、取得した航空機で空軍も創設させるらしいぞ。航空機相手に翼竜では歯がたたん」


「海軍が入手するとは言え、陸軍でも航空戦力を持ちたいものだな……あと近代兵装も」


「背に腹は変えられん。カール陛下と軍務卿殿に直訴してみよう。どうにか予算を取り付けて近代兵装をイレーネより輸入するしかない」


 そんな事を言っても予算は海軍が食っていることは誰もが承知していた。

だがこの場にいる陸軍の上層部は皆貴族である。

彼らは自分たちの私有財産を資金に当てることを思いついた。


「仕方がない。我々の身銭を切るしか……」


「うーむ、住民から募金と言って金を募ればいくらかは集まるかもしれないが、これ以上支出を増やさせるようなことは避けたいしな……」


「どこかに金になりそうなものが落ちていれば良いんだが、そんなものはないしな……」


「「「「はぁ〜〜」」」」


 結局いくらか私有財産を出しても軍の近代化は必要だと判断した。

そのうえで彼らは直訴に行き、必死の思いでカールと軍務卿を説得した。

その結果彼らは陸軍への補正予算と武器の購入交渉を認めた。


「しかし、どんどんと金が食われていきますな……」


「軍の強化のためには仕方がないね。でもゼーブリックやヴェルデンブラントはそんな軍を常備で維持できるのかな?」


「あちらは少数というのもあるでしょうが、何よりも一連の復興計画の結果莫大な利益を上げておりその分の余裕があるのでしょう。こちらにはそんなものはないので……非課税のマルセイ商会へ課税を行うぐらいしか資金調達源がありませんね」


「え、逆に今まで非課税だったの!?」


 カールは、マルセイ商会が課税対象ではなかったことに驚く。

当時王国内で営業している店は就役のいくらかを税として国に収める必要があったのだ。

それは大小関係なく行われていたことであり、例外がある方が珍しかったのだ。


「えぇ。本店が我が国にあるとは言えあまりにも多国籍すぎるので、どの国家にも属していないものとして扱われている節があります。だから誰も課税できないのですよ。ですが苦肉の策として税を取れば莫大な収益が見込めるでしょう」


「うちが課税すると他の国も課税し始めて大変なことになる気がするけれども、それによって得られる収益が大きすぎるからなぁ。ここはマルセイ商会に一肌脱いでもらわないといけないかもね」


「とりあえずこの件については我々だけでは決められないので、フランハイムにて休養されているグレース陛下にも書簡にて意見を求めましょう」


「そうだね。じゃあ文章の作成は頼んだよ」


 こうして送られた書簡だが、その内容をマルセイ商会は特殊な情報筋からすぐに入手した。

今まで非課税でウハウハやってきていたマルセイ商会にとって、突然の課税は予想外であった。

そのためフローラ含む商会の幹部たちは、課税されたとしても収益が維持できるように作戦を練るのであった。


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