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第209話 XDWPー01 ”ADAM”

 イレーネ島より南西に100kmほど先、アルマーニ海の上空6000m。

敵がいるわけでもないのに数十機のF-15CとF-16Cが編隊を組んで飛行していた。

そしてその間を駆け抜けてゆく大柄の機体があった。


『エルケーニヒ! エルケーニヒ! それは実験機です。あまり無理な運動をすると……』


『まぁそう言うなガルム隊の1番機さんよ。久しぶりにこんな機体に乗れてうれしいのだよ』


『そうは言いましても……スツーカから流星、その次にいきなりその機体ですよ? 大丈夫なんですか?』


『この前にそのF-15Cをちょっとパチって練習したから大丈夫さ!』


 ガルム1はそう言って笑うルーデル大将にドン引きしていた。

彼が今乗っている機体は『XDWP-01 ADAM』という名の新型実験機だ。

『XDWP-01』とは『Doomsday Weapon Plan』、『終末兵器計画』に基づいて作られた1番目のXプレーンであるということだ。


 この機体は航続距離を延ばすことと、この機のみに装備されている最新兵装の関係で大型化している。

また主翼はかなり大型であり、艦載にはあまり向いていない。

初めから艦載の可能性を排除したためにこれほどの機体の大型化が実現したのだ。


『さて、こいつの真骨頂を試すとするか』


 ルーデル大将はそう言うと、モニターの左隣に備え付けられている緑のボタンを押した。

すると主翼につながっているストレーキが展開し、カナードとなった。

続いて翼端が伸長し、翼の形状が前進翼から後退翼へと変化した。


『可変翼機……完成しなかったがMe P1101の流れを組んだ子供か。だがこんなものでは終わらないだろう? アダムよ』


 ルーデル大将はそう言って先ほど押したボタンの下にあるアクリルカバーを外す。

露出した赤いボタンへと彼は手を伸ばし、カチッと押した。

すると搭載された2基のP&W F119ターボファンエンジンの推力変更ノズル間が開裂、3つ目のノズルが姿を現した。


 その次に2つのエアインテークの下からもう2つのエアインテークが現れ、中央に搭載されたエンジンへと空気を供給し始める。

その空気によって中央のエンジンは少しずつ始動し始めた。

エンジンが始動したことにより、ノズルからは青色の炎が噴き出された。


 XDWP-01 ADAMの機体中央に搭載された3基目のエンジン。

それは魔石の研究時に偶然発見された事象を利用したもので、恐ろしいぐらいの出力を生むものだ。

工廠内ではひそかにこのエンジンが『チェレンコフ1』と呼ばれていた。


 どうしてそうなるのかは分からないが、トマスが遊びで魔石同士をデーモンコアのようにマイナスドライバーでくっつけかけたり、離したりしているときにそれはおこった。

突然魔石と魔石の間から青白い光が放たれ、衝撃波がトマスを襲う。

あまりの衝撃にトマスは吹き飛び、間にあったドライバーが抜けたことにより魔石同士が抵触した。


 だが速度がついていないため魔石が爆発することはなく、何事もなかったかのように光は収まった。

壁に打ち付けられたトマスはその現象を起こした魔石を呆然と見つめた。

彼の中ではその光がデーモンコアの事故時のチェレンコフ光に見たのだ。


「はぁ……はぁ……死ぬかと思った。だがあの爆発的な力の原因はなんだ?」


 トマスは死ぬ思いをしたというのに、技術者、研究者としての好奇心が勝ってしまった。

彼は仲間の工廠員とともに解析へと入った。

その時には彼は天山や流星の開発、修正の仕事に追われていたが、それらは全て他の工廠員に丸投げした。


 まず彼らは当然と言えば当然だが、魔石の持っている魔力にこれが関係していると推測した。

だが正確に魔力を図りとる機械を持っていなかったため、まずはそれの開発から行うことにした。

ただこれ自体の開発は、魔力が金属部を通った際に微弱な電気が流れることを利用してすぐに終わったが、後々この発明は他の物の発明でも多用されることになる。


 その計器を使って魔石の反応を調べようとしたところ、思わぬ発見があった。

それは魔石自身が常に極小ではあるが魔力を放っているということだ。

その放つ魔力は魔石の大きさを乗算したものに比例して大きくなる。


 そして魔石を近づけたときには、その放たれる魔力同士が反発し、地場のようなものを作り上げていることも判明した。

その磁場を避けて通るように魔力が移動するため、膨大な力が一気に放たれるというわけだ。

再び衝撃波で吹き飛ばされた彼らは、なんだかうれしそうに笑っていた。


「これは使えるぞ! 早速何か作ってみよう!」


「魔石の在庫なら倉庫にたっぷりあるからな! なにせ大陸のダンジョンから無限に供給されるからな」


「一時は島の魔物がいなくなるなんてどうしようかと考えたが、むしろ島には魔物がいなくなって安全になったし、魔石の供給は安定するしでメリットしかないな」


 そう言いながら彼らは魔石の保管庫へと向かい、中にある大量の木箱から1つずつ持って運ぶ。

その中にはいい感じのサイズにカットされた魔石が1つ入っている。

複数を入れたり、木箱に入れずに保管するともし何かの衝撃で爆発したら困るからということでこういう保管の仕方をされていた。


 彼らは早速戻って同じ状況で実験してみるも、先ほどとは違いどれほど近づけても衝撃波も光も発生することはなかった。

彼らは不思議に思うが、その理由は至極単純であった。

先程使ったものよりも小さいためそれほどの出力を得られなかったのだ。


 それを念頭に置いて彼らはエンジンを設計することにした。

数々の失敗を重ね、彼らは何度も吹き飛ばされた。

また長時間近づけたままでいると熱で魔石が溶け出し、床が大変なことになることもあった。


 そんな中ついに完成したエンジンがXDWP-01 ADAMに搭載された通称『チェレンコフ1』だ。

特徴は発せられる独特の青い炎で、推力は通常エンジンと比べ物にならないほど大きい。

また魔石のもつ魔力を直接取り出しているわけではなくあくまでも自然放出分に少しだけ蓄積された分を使用しているため従来の魔石タービンエンジンよりもはるかに長く魔石を使用できるようになった。


『さて、少し肩慣らしといこうか』


 ルーデル大将はそう言い、周りにいたF-15Cたちを置いて高空へと飛び上がった。


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