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第210話 究極の浪漫砲

 西海上に展開する帝国海軍第一、二機動部隊。

これらの艦隊は同時に航行してきたルクスタントの艦隊が無事にイーデ獣王国の港への入港、および兵士の上陸を行えるように支援を行っていた。

だが敵艦、および敵機が現れることはなく少し気が抜けていた。


 そんな時、随伴艦の『スタウト』のレーダーが接近しつつある不明機をとらえた。

その機体が東側から侵入してくるので彼らは味方機だろうと判断したが、一応確認のために戦闘機をあげることにした。

ジョン・C・ステニスから2機のF/A18Eが発艦し、不明機との接触を試みる。


『なぁ、あの不明機俺たちよりも早くないか?』


『あぁ。しかもこの機の限界高度よりも上を飛んでいる気がするのだが……』


『追いつきようがないぞ。十中八九味方機だとは思うがもしも敵機だった場合……』


『その時はAMRAAMを頼るしかないな』


 結局F/A18Eは空を飛んでいる不明機の元へはたどり着けず、下から指をくわえて見ているしかなかった。

その機体は後部から青い炎を噴き出してる。

不明機とは、ルーデル大将が乗るXDWP-01であった。


「うん? 何かが下にいるな」


 XDWP-01にはF-35のようなヘッドマウントディスプレイでの360°視界が確保されているため、ルーデル大将は下を飛ぶF/A18Eの存在を視認することができた。

彼は高度を17000mからF/A18Eのいる高度15000mまで落とした。

突然高度を落としてくるXDWP-01にF/A18Eのパイロットは驚いて間隔をあけ、その間にXDWP-01はスッと収まる。


 ルーデル大将はチェレンコフ1を停止して通常のP&W F119エンジンへと切り替える。

それと同時にカナードと主翼翼端は元の位置へと戻った。

彼はコックピットの紫外線避け用のスモークを外し、ヘルメットのバイザーを外して手を振る。


『ル、ルーデル大将!? 何でこんなところにいるんですか!?』


『ちょっとトマスに実験機の試験飛行を頼まれてね。今こうして試験中ってわけさ』


『試験飛行は構いませんけど……ここ戦場ですよ?』


『戦場ねぇ。まぁこの機の高速性能と高高度性能、そして”特殊兵装”がある限り襲われても逃げ切れるさ』


 そういってルーデル大将は翼を左右に振った後、再びチェレンコフ1を作動させて急角度で上昇していった。

その光景を呆然と2機のF/A18Eのパイロットは眺めているしかなかった。

帰投した後彼らは『空の魔王が飛んでいた』と報告し、艦内は一瞬大騒ぎになった。





「この機に搭載されている特殊兵装……トマスから散々使うなと言われていたがそれほど禁止されたら逆に使いたくなるな」


 ルーデル大将は右手で操縦桿を持ちながら、左手はチェレンコフ1のスタートボタンに手が伸びている。

実はこのボタンにはつまみがついており、ひねることができるようになっていた。

彼はこれをひねるかどうかで迷っていた。


「最悪のことがあってもその時はその時だ。使って実際に試験してみたほうが良いだろう」


 ルーデル大将はそう言うと、イレーネ島へと無線を飛ばす。


『大将! 今どこにいるんですか!? 速すぎて誰も追いつけず心配していたんですから!』


『悪い悪い、私は元気だ。それよりもアレ、使わせてもらうぞ?』


『無事なのは良いですがアレはダメです! もしものことがあったときに空中で何が起きるか……』


『その時は根性で脱出するさ。では』


 そういってルーデル大将は無線を切った。

彼はつまんでいたつまみを180°右へと回す。

すると機内に赤色灯が灯りチェレンコフ1は停止、P&W F119へと切り替わった。


 エンジンが切り替わるとともにチェレンコフ1がモジュールごと下に展開した。

エンジンは前方へと砲身を展開し、レーザーキャノンへと姿を変える。

ルーデル大将は展開を確認した後、満足そうに前方を向いた。


 前方にはこの特殊兵装『遠距離指向性エネルギー兵器』『Long-range Directed Energy Weapon』、通称LDEW用の射撃用照準環が投影されていた。

本来は少量の魔力を魔石より抽出するが、このLDEWの発射時には大量の魔力が消費される。

チェレンコフ1本体が青く輝き、射撃準備が整った。


『後方に味方機なし、前方にもなし。射撃準備は整った。行くぞ!』


 ルーデル大将は安全を確認した後、操縦桿に取り付けられた発射ボタンを押した。

それと同時にチェレンコフ1の前後から膨大な出力のエネルギー波が放出される。

ちなみに前後に発射されるのは、片方だけに撃つとXDWP-01自体が反動で推力を失ってしまい、墜落するからだ。


 放たれたエネルギー波は周囲の空間を切り裂きながら5秒間照射された。

照射し終えた後チェレンコフ1は元の位置に戻り、推進装置もP&W F119からチェレンコフ1へと再び切り替えられる。

ヘッドマウントディスプレイ上には魔石の魔力残量とLDEWの発射可能回数が更新されて表示された。


「これがLDEW……素晴らしい威力だな」


 ルーデル大将はその威力に感服していた。

ディスプレイ上に映し出されている発射可能残り回数は14発、これは帰還用の魔力を温存したうえでの発射可能回数が計算されて表示されている。

彼はこの回数が多いことにも好感をもっていた。


「この機体は速くて、高く登り、遠くまで飛ぶ素晴らしい戦闘機だ。だが機体中央に搭載されているエンジンのせいで通常のミサイルを1発も搭載できないことが玉に瑕だな」


 中央はチェレンコフ1およびそのモジュールが大半を占めているせいでウェポンベイを作ることができず、主翼下部は主翼が動く関係上ミサイルの搭載は不可能だ。

この機には一応自衛用としてマウザーBk.27 27mm機関砲が機体の胴体左右に1門ずつ配置されているがあまり期待することはできず、実質的な兵装は15発のLDEWだけであった。


 これは実験機であるので今後どうなっていくかはわからない。

だがきっと素晴らしい戦闘機になるのであろうとルーデル大将は心躍らせながら基地へと帰還した。


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