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第211話 チハの上陸

 ルーデル大将がLDEWを勝手に撃った件でトマスに説教されている頃。

西海上をゾルン島に向けて進撃していた帝国海軍戦艦部隊には、洋上で召喚された第一〇一号輸送艦系列の戦車揚陸艦計6隻が新たに加わっていた。

洋上、さらに船からの展開であったため少し不安はあったもののうまくいって安堵している。


 これらの揚陸艦の内4隻には新砲塔九七式中戦車が計52両、その他2隻には陸戦隊が合計で400名乗艦し、揚陸の時を待っていた。

航海を続けていると遂に島影が見えてき、彼らの興奮は高まった。

島への上陸支援のために艦隊の護衛についている夕雲型が分離、砲撃を加えに先行する。


 戦艦による対地砲撃でなく駆逐艦による砲撃にしたことにはもちろん意図がある。

その意図とは、このゾルン島を占領して前線基地としたいということだ。

そのために島に壊滅的な被害を与えてしまうであろうマ号弾よりも駆逐艦の12.7cm砲のほうがよいということになったのだ。


 対地攻撃の任を受けた駆逐艦隊は島へと単縦陣で急速接近する。

そして主砲の射程内へ入った途端、思いっきり主砲を放った。

放たれた砲弾はゾルン島に着弾、島からは黒煙が立ち上った。


 突然の艦砲射撃にゾルン島の守備隊は驚き、急いでその場にあった対空砲を駆逐艦隊に向かって放つ。

だが全くと行っていいほど効果はなく、ただ海面に着弾するだけであった。

しかしそれらの火器を危険だと判断した俺は、随伴している大鳳の流星隊に発艦を求めた。


 元から暖機運転して待機していた流星隊はすぐさま発艦、敵砲台の破壊へと向かった。

ゾルン島上空に飛来した流星隊は爆弾倉を開けて250キロ爆弾を露出させ、そのままの状態で降下する。

駆逐艦への砲撃に夢中になっていた対空砲群は上空にいる流星への対処が間に合わず、なすすべなく撃破された。


 元から少数しか配備されていなかった対空砲を片付けた流星隊は大鳳へと帰還する。

その時に彼らは衝撃的なものを見つけた。

向かいのノルン島の裏側では未だに焼夷弾による火災が続いていたのであった。


 それを見ながら流星が帰投した後は揚陸艦の本領発揮だ。

揚陸艦たちは敵のいなくなったビーチへと突撃、そこに乗り上げた。

艦首のランプが開き、そこからは続々と陸戦隊、チハが降りてくる。


 ゾルン島への揚陸に成功した彼らは一気に島の中の建物の占拠を始めた。

中にいたミトフェーラの兵士たちは皆手を上げて次々と投降する。

30分もかからないうちに島中の建物の占拠に成功した。


「司令、この島の指揮官を捕まえてまいりました」


 そう言って縄で縛られた状態で連れてこられた、立派な軍服を着た男。

この男こそがゾルン島の海軍司令官であった。

彼は憂鬱そうな顔をしたまま俺の方を見上げる。


「名前を聞かせてもらおうか」


「……エリック=ミラー海軍少将だ」


「ミラー少将、本国と通信できる魔法通信珠は持っているか?」


「あ、あぁ……あの海軍本部にあると思うが」


 ミラー少将はそう言って海軍本部の建物を顎で示す。

それを確認した陸戦隊は魔法通信珠の確保へと向かった。

見事確保して戻ってきた陸戦隊は、その魔法通信珠をミラー少将の前に置く。


「これを持ってきてどうすると? 本国に脅しでもかけるのですか?」


「いや、これで貴官には『降伏しました』と本国に伝えてもらう」


 そう俺が言った瞬間、ミラー少将の顔が真っ青になった。

そして彼は言葉なのかどうかもわからない奇声をあげて暴れようとする。

なんとか陸戦隊が彼を上から抑え込み、落ち着かせることに成功した。


「別に殺すと言っているんじゃないんだ。ただ本国に一言『降伏しました』とだけ伝えれば良いんだ。そうすれば貴官も他の兵たちも助けると約束しよう」


「ですが……そんな事を伝えると殺されてしまいます」


「殺される? 別にここには殺し屋はいないし、俺たちも貴官が拒否しない限りは殺しはしないぞ?」


「そういう問題ではないのです……でもどちらにせよ言わなければ殺される。万事休すですか」


 ミラー少将はそう言ってうなだれた。

何だか先程から会話が食い違っている気がするが気のせいであろうか。

だが彼もようやく話すことを決心したようで、魔法通信珠の前に顔を持ってきた。


『こちらリヴェイラ。何か用かね、ミラーくん?』


「リヴェイラ中将。その……悪い知らせなのですが……」


『悪い知らせだぁ!? ノルン島の飛行場壊滅に艦隊の全滅。これ以上に何の悪い知らせがあるというのだ!! お前が唯一成功させた作戦はあの空挺作戦だけではないか! それもノルン島の飛行場の破壊により不可能になったがな!』


 魔法通信珠の向こう側からは激しい怒鳴り声が聞こえてくる。

その言葉にミラー少将はただ我慢し続けるしかなかった。

少し静かになったところを見計らって彼は言った。


「……ゾルン島が先程攻撃を受け、私含めて島の守備隊全員が敵の捕虜になりました」


「……は? も、もう一回」


「ですので、我々はイレーネ軍との交戦の末、降伏という選択肢を取らざるを得なかったということです」


「ふざけるなお前は!! 何を簡単に敵に降伏しているのだ! 追い詰められたときは機密書類、建物、インフラなどは全て破壊してから死ぬまで戦わんかい!」


 そのまま数十分は彼を説教する時間が続いた。

その間彼はしっかりと説教の嵐に耐えていた。

そして最後にリヴェイラ中将はこう言い残す。


『この件はユグナー様に報告させてもらう。死を覚悟しておくことだな』


 そう言ってリヴェイラ中将は通信を切った。

さんざん怒鳴り散らかせられたミラー少将は精神がまいっているようだ。

彼はこちらを見ながら言う。


「おわりました……報告も、私も。もう余命は長くないでしょう」


「大丈夫だ。俺は絶対にお前を殺さないと誓おう」


「そうしてくれるとありがたいですがね……」


 そうしてゾルン島は占領され、捕虜たちは収容室へと入れられた。

ゾルン島では、破壊された海軍本部を急ピッチで再建していた。

その途中、不自然な死をミラー少将は人知れず遂げていた。


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