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第212話 ゾルン島攻防戦

「何だと! ゾルン島の守備隊が全軍降伏しただと!?」


「はい、どうやらその通りのようです」


 ミトフェーラ魔王国魔王城玉座の間。

ここに座ったユグナーは貴族たちから聞かされる数々な悲惨な戦績に驚愕していた。

彼、そしてロキは怒りに任せてそれらの指揮官を遠隔で殺害した。


 エーリヒの提唱していた侵攻計画『エーリヒ=プラン』は、イレーネ帝国軍の前には刃が立たなかった。

そのため彼はユグナーから苛立ちの対象として見られていた。

彼は横に立っているエーリヒの方を見て言う。


「なぁ我が弟よ、貴様の提唱したプランと実際の結果が食い違っているように見えるが?」


「……すみません」


「すみませんで済む話ではないだろうが!」


 ユグナーは怒りに身を任せて手に持っていたグラスをエーリヒに投げつけた。

彼の頭にそのグラスが当たり、粉々に砕けた後に彼の額から血が垂れる。

そんな中でユグナーはエーリヒに命令した。


「この失敗の責任はもちろん現場指揮官にもあるが、元を言えばお前のいいかげんな作戦のせいだ! よってエーリヒ、貴様には山奥で建設中の工場での強制労働を命じる!」


「……わ、分かりました」


 エーリヒは強制労働の件を聞いてうなだれる。

今は王都北方に広がる山岳地帯のうちの1つの山をくり抜いて秘密工場を建設中だが、その労働に携われというのだ。

その後、さらにユグナーは無茶な事を言いだした。


「加えて海軍の残存勢力を結集してゾルン島の敵部隊への反攻作戦を実施する!」


「し、しかしゾルン島の艦隊が壊滅した今、もう残っている艦艇なんて……」


「あるではないか。セクター軍港に秘密裏に建設されているブンカー内に」


「!」


 セクター軍港内には、鉄筋コンクリート製の不思議な建造物が無数に建造されていた。

それらには空からの目をごまかすため、屋根の上には大量の砂が撒かれて偽装されていたり、雑草を生やしたりしていた。

事実ずっとこのあたりを飛行していた偵察機型B-36もその存在に気づくことはできなかった。


「あれは軍港に敵艦艇が接近した際に切り札的に使うものであって、艦隊決戦に使うものでは……」


「そんな事を言っていられないのが現状だろう。分かったならばさっさと出撃の準備をしたまえ」


「……はい」



「オーライ! オーライ! よし、そこで止めろ!」


「転車台を回せ! どこにもぶつけるなよ!」


 セクター軍港では、ブンカー内に隠されていた艦艇群の出撃準備が行われていた。

帆船を改造した2000tクラスの戦闘艦は陸上のブンカーに1隻ずつ格納されており、移動台車に積載されて1隻ずつ海面上へと移動させられた。

それよりも大型な新造型戦闘艦、戦艦は洋上に建造されたブンカー内に入っており、ブンカーのシャッターを開けて1隻ずつ海面へと踊りだしてきた。


 格納されていたのは改造型戦闘艦が24隻、新造戦闘艦、戦艦計12隻、合計36隻だ。

迅速に展開した各艦は出撃準備を開始、追加の食料や水を艦内へと積載した。

物資を積載した各艦は本格的に機関を始動し、湾内を滑るように出撃した。





 同日午後11時、編隊を組んだB-36J20機がミトフェーラのライヒシュタッツ線上空に飛来、初の本土空襲を行った。

目標はライヒシュタッツ線の攻略を行おうと画策している地上のイレーネ=ドイツ及びソビエト軍団の援護だ。


 ヒュルルルル……


 爆弾倉からは無数の1000ポンド爆弾が投下される。

着弾した爆弾は要塞付近で炸裂、大爆発を巻き起こした。

いくら堅牢な防御力と巨砲を持っていようと、空からの攻撃には無力であった。


 着弾した1000ポンド爆弾は爆発とともに多数のコンクリート片をばら撒いてあたりにいた兵士を殺傷した。

この世界に鉄筋コンクリート打設の技法はないので、コンクリートは思ったよりも脆い。

壁の一部には既に大きな亀裂がはいっており、あと1発でも命中すれば瓦解するという所まで来た。


 そんな壁にとどめを刺すべく最後の1000ポンド爆弾が降り注ぐ。

見事に亀裂に食い込んだ爆弾は亀裂内で爆発、大きな破壊を伴いながら爆発した。

これによりなんとか崩壊を免れていた壁も、ついに一部が崩落した。


「おお、壁が崩れたぞ! 爆撃もやんだ今のうちだ、突撃するぞ!」


「「「「おう!」」」」


 ライヒシュタット線の崩壊時に中にいた兵士の士気は下がっているだろうと判断したイレーネ=ソビエト軍団のいち戦車乗りは今こそが絶好の突入チャンスであると考え、突撃を開始した。

B-36が穴を開けたとはいえど狭いので、T-90Aは穴の表面を砲弾でふき飛ばしながら前進する。


 そんなライヒシュタット線へと侵入を許したミトフェーラの守備隊は、すぐに襲ってくるイレーネ軍に対処すると思われていたが、間抜けなことに爆撃が決定打となって彼らは絶望し、諦めていたため戦闘は起こらなかった。





 一方その頃のゾルン島の向かい、ノルン島では、急ピッチで滑走路の復旧が行われていた。

燃え盛っていた火も空から消火剤をばら撒くことで鎮火に成功している。

ゾルン島では艦艇群が休養のために停泊、乗員は島で運動したり、寝たりしていた。


 そんな中、停泊している秋月の対空電探が、島に接近してくる航空機群を捉えた。

それはユグナーの命令によって組織された、ゾルン島への第二次義烈空挺部隊であった。

もはや双発のIS-2Bは残っていないので、単発のIS-1Aで特攻を仕掛けてきている。


 イレーネ島での反省から、常に迎撃をできるように防空部隊のみは残っていたのですぐに艦載機の発艦に取り掛かった。

だがそれよりも速くそれらの編隊へと攻撃を仕掛ける1機の機体がいた。

それはLDEWの正式な試験用に飛行していたXDWP-02のような機体であった。


『Auto Aiming機能、目標への偏差を終了。射撃位置につき次第攻撃を開始します』


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