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第207話 勲章好きの兵士たち

 イレーネ帝国軍本隊が陸でも海でも空でも圧勝している頃。

ミトフェーラ=ヴェルデンブラント間の戦線は膠着していた。

あの後殿を務めた部隊も無事に離脱に成功、先に離脱した部隊と合流していた。


 戻ってきた殿隊は攻め落としたライヒシュタット線を利用して持久戦を展開していた。

皮肉なことにもミトフェーラは、自身の建設した要塞に苦戦させられていた。

フロリアン・ガイエル軍団はひたすら援軍の到着を待っていた。


「また今日も突撃してきているぞ。もう何日も連続でよくやるよ」


「それは我々もだろう? もう何日連続で防衛戦を行っていると思っているんだ」


「3日からはもう覚えていない。同じく殺した敵の数もな」


「俺もだ。だが死んだ味方の人数は覚えているぞ。なんせ0名だからな!」


 彼らはそんな事を言いながら城壁の上の砲を発射する。

他の砲から放たれた砲弾も合わせて突撃してくる敵兵を無慈悲に叩き潰す。

それでも迫ってくる敵はティーガーや歩兵隊のMP40が蹴散らしていた。


 だが圧倒的な数で押してくるミトフェーラ軍を留めることはできても押し返すことはできていない。

召喚された兵士は疲れを感じることはないが、生身の人間はかなり疲弊していた。

ロンメル大将はそんな状況を憂慮する。


「イレーネ=ドイツ軍団の到着が遅れている……この要塞自体が落とされることはないが、兵員たちの士気は下がる一方だ」


 ロンメル大将はイレーネ=ドイツ軍に早く戦場に到達するよう要請していたが、彼らはゼーブリック王国に駐留していた第1武装義勇軍『ヴァーキング』の戦線進出を支援をしながらやってきているため進行速度が遅かった。

押しも押されもしない1日がまた終わりを告げる。


 コンコン


「ロンメル大将、ゲオルグです」


「どうぞ」


 ゲオルグは要塞内の一室、原型を保っていた部屋に設置されたフロリアン・ガイエル軍団の司令部にいるロンメル大将の元を訪れる。

ロンメル大将もゲオルグを暖かく迎え入れ、彼に椅子に座るよう促した。

だがゲオルグは遠慮し座らず、ロンメル大将もそれを見てまた立ったまま話す。


「なにか用か?」


「はい、外に出て狩りをする許可を頂きに参りました」


「狩り……もうこの前取ってきた食料がなくなったのか」


 食料の調達を行うため、彼らはしばしば夜中に狩りに出かけていた。

だがそれでも獲ってくることのできる量は限られていた。

そのため、別に食べる必要のないロンメル大将たちは食事を抜いていた。


「私たちは満足するまで食べさせてもらっていますが、司令はもう何日も食事を抜いておられるのでしょう? 兵の中にもそのようなものがおります。今回はたくさん獲ってきますのでぜひ待っていてください」


「それは楽しみだな。期待しているぞ」


 それだけを言ってゲオルグは部屋を出た。

彼の肩には中尉を表す肩章が、袖には装甲オーク撃破章として転用された戦車撃破章が3つ付いている。

彼は撤退戦においての功績を認められ、数々の勲章を短期間に受勲していた。


 ゲオルグは装備を整え、背負った背嚢に水と少量の弾薬を詰め、予備のパンツァーファウストを背嚢の横に括りつけて仲間数人と共に出発した。

基本的に銃で狩りをすると音で気づかれてしまうので、支給されたダガーで戦闘を行う。

彼らは小さいめの魔物を次々と狩り、一箇所に集められた魔物の死体は山積みになった。


「後1匹2匹ぐらい獲ったら帰ろうか。これ以上獲っても持って帰れないし」


「そうだな。最後にはデカいめの魔物を獲って帰ろう」


 そう言って彼らは最後の獲物を探して森の中をウロウロする。

そして彼らは大きな獲物の気配を感じたため、そちらの方向に向かっていった。

するとそこにいたのは――


「そ、装甲オーク……なぜここに……」


 彼らが見たのは、爆睡している装甲オークの姿であった。

幸いにも爆睡しているので、彼らはそぉーっとその場から立ち去ることにした。

だが立ち去るときに、彼らの中の1人が落ちていた枝を踏んでしまう。


 パキッ


「「「「あっ」」」」


 彼らはバッと寝ている装甲オークの方を見る。

装甲オークは音で目を覚ましてしまい、ゆっくりと立ち上がった。

それは立っているゲオルグたちを視認し、雄叫びを上げて彼らに襲いかかった。


「まずい、逃げるぞ!」


 ゲオルグは味方に逃げるよう促した。

彼らは走って逃げるが、如何せん森なので木が邪魔でまっすぐ走れない。

一方の装甲オークは木々をなぎ倒しながら彼らを追った。


「一か八かだが……抜けてくれ!」


 ゲオルグは背中を弄ってパンツァーファウストを取り出そうとする。

だが走りながらではうまく掴めず、彼の賭けは失敗に終わったかのように思われた。

そんな時、横にいた彼の仲間が自分の分のパンツァーファウストを渡してくれた。


「助かった!」


 彼はそう言って渡されたパンツァーファウストを受け取り、狙いを定める。

そして彼は後ろに誰もいないことを確認したらパンツァーファウストを発射した。

放たれた弾道は装甲オークの装甲を貫通し、吹き飛ばす。


「やったなぁゲオルグ! また撃破章が増えるな!」


「これはお前がパンツァーファウストを渡してくれたおかげだ。お前の戦果として大将には報告しよう」


「良いのか!? これで俺も勲章持ちかー!」


 フロリアン・ガイエル軍団の中では勲章を持つことが流行っていた。

特に多くの勲章を持っているゲオルグはその中はスターであった。

全員が一番多くの勲章を得ようと躍起になっている。


「今の爆発音で敵が気づいたかもしれない。狩った魔物を回収してすぐに退散するぞ!」


「「「「おう!」」」」





「なんだ、敵襲か!」


「分かりませんがあの音……敵が撤退していったときに使っていた珍妙な兵器の音と似ています」


「なら敵じゃないか! でもこの闇での行動は難しい……明日の朝には総攻撃をかけるぞ!」


「それいつも言っている気がしますが……」


 そんな事を言いながら、着々とミトフェーラ軍は準備を進める。




 一方のイレーネ=ドイツ軍団は暗闇の中ついに要塞に入城した。

要塞内のフライコーアたちからの万歳三唱を受けて行進する。

特に装備されているレオパルト2A6が兵士たちの目を引いた。


 その後には続いて第1武装義勇軍『ヴァーキング』も合流し、戦力は11万まで膨れ上がった。

合流したヴァーキング軍団をフロリアン・ガイエル軍団の兵士たちがねぎらい、先程ゲオルグたちが獲ってきた魔物が振る舞われた。

彼らもまた反転攻勢に向けて準備を整えるのであった。


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