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第206話 西海沖海戦

 西海沖を航行するミトフェーラ第一、四、五任務部隊。

搭載されている魔探が上空に張り付いている烈風を捕捉したため、イレーネ艦隊が近くにいると判断した。

また交代でやってきた東海の輝点から、大まかな艦隊の位置の把握に成功した。


「司令、あの上空の敵機どうします? 落とします?」


「いや、あの機はおそらく攻撃してくる気はないのだろう。放っておいて構わない。それよりも弾薬を温存するほうが大事だ」


「わかりました。では放っておきます」


 各任務部隊はイレーネ艦隊の方向へと変針した。

上空の東海はミッドウェイに、ミトフェーラ艦隊が変針した旨を打電した。

イレーネ艦隊もまたそれに合わせて戦闘体制へと移行する。





 6月30日午前8時10分。

アイオワに搭載されている対空レーダーがガーゴイルの大編隊を捕捉した。

これは烈風隊が到着する以前に発艦した部隊であり、東海は最初捕捉していたものの遠ざかると捕捉できず見失っていた部隊であった。


 戦艦部隊は今機動部隊とは別行動しており、所属している空母は大鳳のみであった。

だが今回全艦に対地砲撃用にも使えるとして対空砲弾を多量に搭載しているので、対空には困らない。

大和と武蔵は砲身を最大仰角まで上げ、敵部隊が射程に入るまで待機する。


「敵部隊、射程内に入りました! いつでも撃てます!」


「よし! 全門一斉射、てぇーっ!」


 大和と武蔵はその巨砲を放ち、その衝撃で海面が沈降する。

放たれたのは新型対空弾のマ号弾、魔石爆弾の開発時に「同じ原理で対空弾作れば強くね?」という思想から生まれたものである。

対ドラゴン戦で活躍した試製460mm広範囲対空噴進弾は、大和型用のマ号弾の弾頭に推進装置を付けたものだ。


 18発のマ号弾は空を切り裂いてガーゴイルの編隊に接近する。

そしてガーゴイルの編隊の少し前で時限信管が作動、大爆発を起こした。

激しい光と熱とともに大爆発が起き、ガーゴイルとパイロットは文字通り融解した。


「マ号弾の炸裂、および敵編隊の消滅を確認。文字通り消滅です!」


「凄まじい威力だな。どこぞの◯号弾とかヘ◯オスとかを思い出すよ」


「そんな紺碧的な艦隊やアーセナル的な鳥の使うものよりかは威力は下でしょうがね……」


 まぁとにかくマ号弾の絶大な威力が分かったので良しとしよう。

この砲弾はきっと対地砲撃でも活躍してくれるだろう。

意外と魔石爆弾、作ってみてよかったな。


「東海から通信です。『烈風隊は敵艦隊上空の制空権を確保せり。また先程の爆発で一時レーダーが使用不能になった旨報告ス』とのことです」


「レーダーが使用不能に? 爆風にでもやられたのか……?」


「それの原因究明はまた後でにしましょう。それよりも今は敵艦隊の撃滅です」


「そうだな。初めてのまともな艦隊決戦だ、胸が鳴るよ」


 艦隊は陣形を大和先頭の単縦陣へと移行し、艦隊決戦に備える。

だがまだ敵艦隊までは距離があるのでそのまましばらく何も起きない時間が続く。

そして遂に敵艦隊が射程内へと入った。


「敵艦隊まで距離30000、全艦準備できています」


「目標敵ミトフェーラ艦隊、撃ちー方ー始め!」


「撃ちー方ー始め!」


 合計14隻の戦艦から計109発のマ号弾が放たれた。

本来マ号弾は対空、対地用途の砲弾なのだが、俺たちは対艦にも使用できると考えていた。

というのも通常の徹甲弾では過貫通してしまうので、マ号弾の熱と爆風で乗員を吹き飛ばしたほうが効率よく艦の運用能力を喪失させることができると考えたのだ。


 マ号弾は敵艦隊の上空へと到達し時限信管が作動する。

上空で同時に炸裂した109発の砲弾は強烈な光と熱、爆風を生み出してミトフェーラの艦隊を攻撃する。

強烈な熱により艦のマストはぐにゃりと溶け、砲身は曲がり、装甲は歪みを生じた。


「うわぁーっ! 光で目が! 熱で皮膚が!」


「目が焼けて何も見えない! どうなっているんだ!」


「のどが渇いた! 水をくれ! 頼むから!」


 甲板上で作業していた兵士の被害は凄まじく、熱で皮膚が溶けたり失明したりした。

そして体中の水分が蒸発したので全員が喉の渇きを訴えた。

海面を見た兵士は喉の乾きを潤せると信じ込んで海に飛び込み、そのまま死んだ。


「……何とか視界が回復したが……ってこれは!? 一体何が起こったというのだ!」


 艦橋で指揮を取っていた艦隊司令は、甲板上に無数に転がる溶けた兵士の残骸を見て驚愕した。

もはやそれはかつて人であったものには見えなかった。

彼はその光景を見ておもわず吐きそうになる。


「いかんいかん、今は吐いている場合ではない……被害確認を……」


 彼は艦橋の歪んだ扉を蹴飛ばして外に出る。

甲板に降りるべくラッタルに足を下ろすと、それの持った熱で靴底が溶けた。

靴がくっつかないように気を付けて階段を降り、彼は甲板に立つ。


「なんだ、煙たいな……そうか、煙突が折れ曲がっているから排煙が……」


 煙突が熱で折れ曲がったことにより排煙が斜めに漏れ出していた。

漏れ出た排煙は甲板を汚しながら日本空母のように海面で冷やされる。

艦隊司令は顔を煤で黒くしながら前部へと移動する。


「主砲身を変形してもう撃てない……機関は健在だがもう戦闘力はないな。大人しく母港に帰投しようか」


 彼はこれ以上の作戦行動は不可能と判断、ゾルン島の母港へと帰港することにした。

他の艦も同じく激しく損傷しており、同じ判断を下した。

そんな時、彼は空に輝点を見つける。


「あれはまさか……!」


 彼が甲板上に伏せると同時に、第二射のマ号弾が炸裂した。

再び艦隊は激しい光と熱に襲われ、艦隊司令の体は融解する。

この第二射であらかたの艦の艦上構造物がひしゃげ、原型を保っていなかった。


「艦隊司令が死んだぞ! 俺たちはこれからどうすれば良いのだ!?」


「取り敢えず退避だ! 誰が何を言おうと退避だ!」


 生存者は各自の判断で逃げようと針路を変更する。

これによって突然変針した前方の艦に後続の艦が衝突するなど、大混乱がおきた。

そんな艦隊にさらなる絶望が襲いかかる。


「敵艦隊を視認! 急速で接近中!」


 生き残った乗組員の1人が双眼鏡で迫りくるイレーネ艦隊を視認した。

だが彼が視認したのは本隊の戦艦戦隊ではなく、先行していた水雷戦隊であった。

矢矧を先頭として水雷戦隊は、混乱したミトフェーラ艦隊に接近する。


 接近した水雷戦隊はミトフェーラ艦隊にむけて魚雷を発射した後に反転した。

放たれた魚雷になすすべなくミトフェーラの艦艇は被雷し、水面下に大穴を開ける。

そこから海水が侵入し、あれ程いた艦隊は全滅した。


 結果的にミトフェーラ側の生存者はゼロであった。

完全勝利を収めたイレーネ艦隊はゾルン島へと針路を取る。

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