出撃から2時間後、アルマーニ海上空で合流したイレーネの爆撃隊とブルネイの爆撃隊は変針、一路ノルン島へと向かった。
総勢70機にもなる報復爆撃隊は飛行機雲を引いて高度1万の空を飛行する。
その姿は悪魔のようであった。
「北から友軍機。あれは……護衛任務に付くミッドウェイ搭載の……」
「テンザンとレップウ、それにトウカイだな」
「えぇ。にしても機数がすごいですね。全部あがってきているんじゃないでしょうか」
「機数もそうだが、高度1万を飛行する彼らのウデもまたすごいよ」
空母ミッドウェイを発艦した烈風、天山隊は爆撃機隊と合流、共にノルン島を目指す。
護衛にあがってきているのは空母の直掩機を除いた、烈風20機と天山70機だ。
計160機にまで膨れ上がった報復攻撃隊は大編隊を組んで飛行する。
◇
離陸から飛行すること約9時間。
イレーネ本島からはるばる6000km離れたノルン島へと爆撃機隊は侵入しようとしていた。
B-52HとB-36Dはそのままの高度を維持、B-1Bは単独で低空飛行へと移った。
「いよいよ攻撃のときだ。敵さん震え上がるぞ」
「ナパームを投下されて震え上がらん敵などいないだろう」
「ナパームはガソリンの匂いが立ち込めていいぞー。勝利を確信する」
「いくらヤシ林を焼いても戦争には勝てなかったがな」
彼の一言でB-36D内は静まり返る。
そしてそのまま誰も喋らずに爆撃目標が近づいてき、B-36Dは爆弾倉を開放した。
爆弾倉からは満載された焼夷弾が姿をあらわにする。
その時、地上部で大爆発が起こった。
今の爆発は、先に侵入していたB-1Bのばらまいたクラスター弾の子弾の爆発であった。
滑走路を目標に攻撃が行われ、一瞬にして滑走路は使用不可能な状態に陥った。
「一番槍はB-1Bに取られてしまいましたね」
死んだ空気の機内をどうにか戻そうと1人が話をふる。
さっきマジレスをしてしまった人も今度はちゃんと会話に入ることができ、機内に活気が戻った。
そんな時、1人がボケた。
「B-1B”ランサー”だけに一番”槍”ってことか! ハハハ」
「……ハハッ」
機内の空気が今度は凍りついた。
操縦手はあのしょうもないギャグを言ったやつにナパームを投下してやろうかと思った。
だがそんな事をしている暇はなく、爆撃に集中しなくてはいけない。
「今だ! 投下!投下!」
「了解! 全弾投下します!」
爆弾倉から焼夷弾が続々と落ちていく。
他の機もそれぞれの搭載する爆弾を全弾投下した。
爆弾の雨がノルン島へと降り注ぐ。
ドドドドドドドド!!!!
まず島に1000ポンド爆弾が島中に満遍なく命中、黒煙を吹き上げた。
次にクラスター弾が島中で炸裂、残っている島中の建物を徹底的に破壊し尽くした。
そこにダメ押しのように命中した焼夷弾が島中の森、道、何もかもを激しい炎で包み込み大火災を発生させる。
焼夷弾の発生させた炎は、島の森林を全て焼き尽くさんと燃え広がる。
島に駐在していたミトフェーラの軍人もまた1000度近いナパームBの炎に焼かれて黒焦げになって死んでいく。
この時の爆撃隊およびイレーネの誰もが知らなかったのだが、島に住んでいた民間人300名もナパームに焼かれ、島に人間は誰ひとりいなくなった。
「なんだ、ノルン島が燃えているぞ!」
「敵襲です! この前の空挺隊のお礼参りにやってきたんでしょう!」
隣のゾルン島の海軍司令官は燃え上がるノルン島を見て度肝を抜かす。
彼の目にはナパームの火が地獄の業火に見えていた。
それと同時に自分のいるゾルン島に攻撃をかけられていないことに安堵していた。
「こっちの島はただの港があるだけだ。軍艦が停泊しているなら攻撃されただろうが、さっき出撃して今は停泊していないからな、攻撃する価値もない」
彼はそんなことをぶつくさ言いながらなんとか自分の頭からゾルン島が爆撃されるという考えを消そうとしていた。
だがそんなゾルン島に配備された対空砲は放たれる音を聞き、彼は現実を見る。
空を見上げると、急降下してくる天山の姿があった。
「司令、敵機です! すぐに避難を!」
「ちゃんと最初から迎撃をやらんか! なぜ撃てるのに撃たなかったんだ!」
「魔探も捉えられていない高高度を飛んでいたようですし、それに魔探が届いていてもどちらにせよ対空砲の射程が届きません!」
「ちっくしょー!!」
翼下には護衛用にガンポッドを装備した天山であったが、胴体内の爆弾倉にはMk.842000ポンド爆弾が搭載されていた。
爆弾倉を開けて急降下する天山は軍港の重要施設を狙って攻撃を始めた。
特に弾薬庫と機関用魔石の貯められた倉庫らしき建物が重点的に狙われた。
ドォォン!
そのうちの1発が見事弾薬庫を引き当て、弾薬庫は大きな爆発音とともに屋根を吹き飛ばして炸裂した。
その他の爆弾も倉庫や司令部、湾のクレーンや桟橋などとにかく目に付く物は全て破壊した。
結局ゾルン島もノルン島ほどではないがかなりのダメージを受け、軍港としての機能を8割は失った。
一方迎撃機もあがってこずやることの無くなった烈風隊は天山隊と合流して機銃掃射を逃げ惑う軍港の作業員に対して無差別に加えた。
一通り撃つと帰りの分の弾薬を残して烈風、天山隊は爆撃隊の護衛に戻る。
ミトフェーラ本土の部隊がゾルン島からの報告を受けて緊急発進した頃には爆撃機隊は空域を離脱していた。
帰りに低空に降りて哨戒を行っていた烈風は眼下に大艦隊を発見した。
それは報復爆撃のつい数時間前まで軍港に停泊していた艦隊であった。
この大発見を烈風は母艦に報告、触接を続けるとともにミッドウェイからは触接を交代するために東海が発艦した。
この発見を受け連合艦隊は探し求めていた敵大艦隊の撃滅に動くことを決定した。
大和を中心とした帝国海軍の戦艦12隻と機動部隊所属のアイオワを主体とした戦艦を中心とした部隊による艦隊決戦を行う方針で艦隊は動き出した。
各艦の主砲担当は久方ぶりの砲撃を行えることを喜んでいた。
一方の母艦に着艦した烈風、天山隊は補給を終えるとすぐに発艦させられた。
これに一航戦のF/A18E.Fが加わり敵艦隊上空の絶対的制空権の確保に動き出す。
世紀の大海戦が今ここに勃発しようとしていた。