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第204話 片道切符の花道

 西海を抜けてアルマーニ海に侵入したミトフェーラ魔王国のIS-1B。

機数は離陸時には80機であったが、大海原を長時間飛行することに慣れていない彼らのうちの一定数が飛行中に居眠りをして墜落、機数は68機まで減っていた。

そんな中でも残りの機は島に近づくにつれて海面スレスレの飛行に切り替える。


 『戦隊長、目標到達まで残り20分です』


『了解。予定通りこのままの状態で敵の島内に侵入、敵の飛行場付近に到達したら機体から脱出、放棄した機体を爆弾として敵の施設に命中させる。脱出した我々は地上戦闘員として死ぬまで白兵戦を行う。いいな?』


『分かっております。しかしこの作戦……生きて帰ることはできなさそうですね』


『当たり前だ。そもそも片道切符の飛行なんだ、その時点でもう帰ることはできんよ。それこそが我がソード部隊だ』


 ミトフェーラ魔王国独立第1飛行隊『剣部隊』。

義烈空挺隊による地上戦闘を主目的として編成された特殊部隊だ。

彼らは飛行のウデは今ひとつだが、白兵戦は非常に得意であった。


『戦隊長! 朝日が! 島も見えます!』


『いよいよだぞ……全員覚悟はできているな?』


『もちろんです。どうせ散るなら最後に華麗に散ってみせますよ』


『……私は本当はこんな作戦に君たちを連れてきたくなかったのだがな。だが上官の命令は絶対だ……最近上官が狂って見えるが……』


 彼はそう思いながらも機体を操る。





 ウォォ―――ォオン ウォォ―――ォオン……


「なんのサイレンだこれは! 防空演習をするなど聞いていないぞ!」


「防空演習ではありません、これは敵襲です! 敵機が迫ってきているんです!」


「何だって!? 一体どこから出てきたというのだ!」


 イレーネ島の空軍省では、突然現れた敵機に慌てふためいていた。

だが彼らが慌てるのも無理はない、島のレーダーサイトで捉えられていなかったからだ。

飛来してきているIS-1Bは初期型で全木製であるためレーダーに映りにくく、さらに低空飛行していることも相まって思いがけないステルス効果を生み出していた。


「爆撃機かもしれん! 住民は家に備え付けられている地下室に避難するよう指示を!」


「もうやっています!」


 そんな事をしている間にIS-1Bはイレーネ湾の上空に侵入した。

海面5mというスレスレの高度を飛び去っていく彼らに対し、停泊していた艦船は攻撃を開始した。

だが数が多すぎて全部はさばききれず、11機の侵入を許した。


『飛行場です! あそこなら最悪着陸もできますし、狙う獲物もたんまりあります!』


『でかした! 全機突入開始!』


『本国に最後に魔信を送ります!『ワレテキヒコウジョウニトツゲキス』送り終えました!』


『皆よく付いてきてくれた。目標は決まったな? 脱出するぞ!』


 戦隊長含め残った各機は機体から脱出する。

脱出してコントロールを失ったIS-1Bは、そのまま格納庫や庁舎に突入した。

機体はそのまま目標に命中し、黒煙と破片を吹き上げて爆発する。


 機体に積まれた爆弾の炸裂により、格納庫の屋根と外壁が吹き飛んだ。

また中に駐機していた2機のB-36も屋根の崩壊に巻き込まれて破壊された。

残った機体も庁舎の外壁を引き飛ばしたり、滑走路に大穴を開けたりした。


「ハッハッハ! 燃え上がっているぞ! 攻撃成功だ!」


「戦隊長もうまく脱出できたようですね」


「さて……白兵戦だぞ」


 彼らは脱出シートに括りつけられながら胸元のナイフに手を当てる。

ナイフを取り出した彼らはシートベルトを切り落とし、そのままジャンプした。

地面にうまく着地した彼らはそのままナイフを構えて1つに固まる。


「……戦隊長、もう無理みたいですね」


「そのようだな……」


 着地した彼らの周りを飛行場の警備兵が取り囲む。

警備兵は無慈悲にH&K MP5A3の銃口を突きつけた。

最後の力を振り絞って戦隊長は雄叫びを上げながら走り出す。


「突撃じゃあー!! 華々しく散れーい!!」


「「「「オォー!!!!」」」」


 彼らは最後にナイフを構えて突撃する。

だがそんな攻撃が効くはずもなく、警備兵たちは冷静にMP5を発射する。

放たれた銃弾によって突撃してくる義烈空挺兵は1人、また1人と倒れた。


 彼らは10mと進まないところで全員無力化され、その死体は滑走路上に散らばった。

唯一まだ息のあった戦隊長はゆっくりと頭を上げて後ろで倒れた仲間を見渡す。

そして彼は静かに微笑んでいった。


「仲間たちよ……地獄でまた会おう」


 その瞬間、彼の頭を銃弾が貫通した。

彼は頭から血を吹き出して倒れる。

これにより独立第1飛行中隊は玉砕した。





「被害はどれほどだ!?」


「はい、我が方の被害としては格納庫1基および内部のB-362機大破、滑走路小破、あとは司令塔が……」


 ルーデル大将は空軍省内で緊急会議を行っていた。

先程の襲撃による被害が全て洗い出され、まとめて報告される。

B-36の消失以外は大した被害がなくて彼は安心した。


「このままやられっぱなしというわけにもいきません。報復爆撃を提案します」


「私もそのつもりだ。だがあれがどこから飛来したのかが分からん」


「それに関しては問題ございません。これを見てください」


 ルーデル大将の部下はバスタール大陸全体の地図を広げる。

そして彼はイレーネ島の部分にコンパスの針を当てた。

距離を合わせた後、彼は地図上にシュッと線を引く。


「これは?」


「件の機体に搭載できる魔石から逆算した航続距離です。調査の結果魔石がほとんど使い切られていることが判明しましたので、この攻撃はもともと片道切符承知の上でのものと思われます」


「片道切符……そうだったのか。で、この中では円の内側にはいっているミトフェーラ魔王国領がいくらかあるが、この内のどこにあるのか分かるのか?」


「えぇ。偵察の結果ミトフェーラ魔王国の円内にはいっている大陸部には飛行場がないことが確認されています。よって必然的にこの2つの島に絞られるかと」


 部下はノルン島とゾルン島にピンを差し込む。

敵の位置がわかったとなれば後は簡単だ。

ルーデル大将は指示を出す。


「帝国空軍の全爆撃隊に通達。『積めるだけの爆弾を積んで報復爆撃を』とな。出し惜しみはなしだ、焼夷弾でもクラスター弾でも構わん。とにかく焼き尽くせ!」


「了解!」


 応急的に滑走路の修繕を行った後、イレーネ本島からはクラスター弾を満載したB-1B15機とB-52H10機、1000ポンド爆弾を満載したB-52Hが20機、ブルネイ泊地の飛行場からはまだ改造が施されずのこっていたB-36と爆撃モジュールへの胴体の再換装が終わっていたB-36計40機がナパームBを炸薬とする焼夷弾を満載して出撃した。


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