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第203話 ソビエトの熊

「いやっほーい! ミトフェーラの連中に革命を教えてやろう!」


「遠慮はいらん、そのまま押し潰せ!」


 王都の北側から回ってきたイレーネ=ソビエト軍のT-90Aは丘をジャンプしながらミトフェーラ装甲部隊に接近していく。

彼らは砲撃を行うことはなくそのまま踏み潰そうとしていた。

それを見つけたミトフェーラ装甲部隊もまた迎撃せんと装甲オークをT-90Aの前面に並べる。


「なんかデカブツが出てきたな……撃っちまおう」


「よーし! 革命砲だ、存分に喰らえ!」


 T-90Aは搭載されている125mm滑腔砲からHEAT弾を一斉に発射する。

放たれたHEAT弾は寸分の狂いもなくオークの装甲を貫通し、爆発で体を吹き飛ばした。

周りに控えていた戦列歩兵はオークの血を全身に浴び、その生臭さに悶える。


「このまま轢き潰してしまえ。銃弾すら不要だ」


「了解、そのまま踏み潰します」


 T-90Aは止まることなく戦列歩兵の陣地へと突撃していく。

歩兵たちは迫りくる戦車に恐怖し我先に逃げんとするのを、隊長が何とかとどめてマスケット銃を放つよう命令する。

何とかその場に留まった兵たちは銃弾を放ったものの、全く効果はなかった。


 ドォォン!


「何だ、艦砲射撃か?」


 T-90Aの乗員は突然飛んできた砲弾に警戒する。

だが砲弾は全てミトフェーラ装甲部隊のいる地点に着弾しており、ソビエト軍に被害はない。

そのとき、無線が飛んできた。


「あの砲撃はどうやらM109によるもののようだ」


「M109、アメリカの連中も追いついたというのか。だが獲物は渡さん!」


「ドリフトだドリフト! 敵を踏み潰してしまえ!」


 まっすぐに進んでいたT-90Aは密集する戦列歩兵に対しドリフト走行をお見舞いした。

兵士たちはそのドリフトに巻き込まれ、キャタピラで踏み潰される。

その死体はぐちゃぐちゃと潰れていた。


「初弾命中、続いて第二射を……いえ、ソビエト軍が突撃しています。ここは砲撃を辞めるべきかと」


「ソビエト軍がいるのはまだ北側だけだろう? 南側にも敵兵はまだまだいる。M109A6とHIMARSの同時斉射でそっちを狙うぞ」


「わかりました。M109A6、HIMARSの諸元修正……いつでも撃てます」


「よし、撃てぇーッ!」


 号令とともにM109A6とHIMARSが同時に放たれる。

放たれた砲弾とロケット弾は20km飛翔し、目標に着弾した。

グラートのときのような大爆発が起き、着弾地点付近にいた兵士は吹き飛ばされた。


「い、一旦退却! 退却だ!」


 陣地の後方にいた装甲部隊の司令官はあまりの惨状に退却を命令した。

その言葉を聞いた兵士たちは、隊列など関係なく我先にと退却を始めた。

彼らは死んだ仲間の死体を踏み、それらに足を取られてコケたものは後から来た兵士に踏まれ……と酷い有様であった。


 中には果敢に抵抗しようとする者もいたが、皆T-90Aに踏み潰されて死体と化した。

T-90Aは積み重なった死体の上に乗り上げ、そこから逃げる装甲部隊に対し砲撃を加える。

だが数か多いこともあり、逃走中の部隊を壊滅に至らしめるというわけにはいかなかった。


 この戦闘においてミトフェーラ装甲部隊の死者数は全体の50%以上に昇る5万人となった。

残った部隊は散り散りになって身を隠しているため、追跡は難しい。

だがこれにて一旦王都は救われたのであった。





 西海を西へと進む帝国海軍連合艦隊。

輪形陣の中心に居座っている大和の艦橋に俺は立っていた。

先行させておいていたミッドウェイの攻撃が成功したという知らせを聞き、俺は安堵した。


 現在我が艦隊は道中で合流したルクスタントの艦隊を護衛しつつ、目標であるセクター軍港の攻撃へと向かっていた。

大和ら戦艦部隊は新型の対空砲弾を満載し、対地砲撃に備えている。

ルクスタントの船の速力が遅いせいもあり、艦隊は10ノットで航行していた。


 パチ、パチ……


「司令、今度のセクター軍港強襲に関してなのですが……9六香打」


「なにか作戦に問題でもあったのかい?……9六桂」


「えぇ、というのもですね、どうやらU-2の偵察情報によると、軍港内に敵の艦船の姿が見えないようです……9六歩」


「敵の艦船が見えない、ということは全部出払っているということか……5三桂」


 山下大佐は先ほど受け取っていた電報の紙を俺に渡す。

たしかにそこには『ワレテキノスガタヲミズ』と書かれている。

全艦出撃しているのであればどこかしらで接敵することもあろう、注意を払わないとな。


 ちなみにミッドウェイ搭載の天山隊が沈めた敵艦の数は62隻だが、本国にはもっと巨大な艦隊があると推測されている。

というのも、ミトフェーラはどうやら既存の帆船にも無理やり装甲と機関を付けて運用しているらしい。

これによって隻数が大幅に増えている。


「9五金打、詰みですね司令」


「また負けたー! これで何回目だ!」


「4連敗ですね司令。私に勝とうなど100年早いですよ」


「ちっくしょー!」


 俺の悔しがる姿を見て、艦橋の全員が笑うのであった。





 セクター軍港より南に位置するノルン島とゾルン島という2つの小さな島。

ここにはミトフェーラ魔王国軍の秘匿基地が建設されていた。

セクター軍港出港したミトフェーラ第一、四、五任務部隊はゾルン島の泊地に入港、補給を受けていた。


 向かいのノルン島には大規模な飛行場が建設されていた。

そこにはIS-1Bが最優先で配置され、その数は80機にも上った。

パイロットは短期間だが経験のあるもので構成されており、一応飛ぶことはできる。


 そんな80機のIS-1Bの胴体下部には未加工の魔石を利用した爆弾が搭載されていた。

だがこれらは2つをぶつけるという類のものではなく、ただ単純に魔石自体の爆発力に依存した爆弾だ。

それらを搭載した機体は滑走路へと向かってタキシングを始める。


『いいか、今回の攻撃目標は――』


 IS-1B部隊の指揮官が魔法通信で他の機体に語りかける。

指揮官機の前に滑走路に到着した機体は離陸を始めた。

そして指揮官機が離陸しようという時、彼は言った。


『イレーネ島本島だ』


 彼らは飛行場を飛び立ち、イレーネ島へと機首を向けた。


――――

国章シリーズ第4弾はミトフェーラ魔王国

近況ノートにあげています。


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