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第202話 ワタリガラスの急襲

『ムニン、もうすぐで接敵だ。やれるな?』


『誰に聞いているんだフギン。お前こそ堕とされないだろうな』


『その言葉、そっくりそのままお返しするよ』


 烈風隊の下から襲いかかる2機のIS-1A。

これらに乗っているのはフギンとムニンと呼ばれる、テスト及び訓練で抜群の成績を残した2人のパイロットであった。

彼らは5ヶ月毎日ほとんど睡眠を取らず飛行し、驚異的な精神力でその腕を磨き続けた。


 そんなフギンとムニンの2機はほぼ同時に操縦桿を引き、機首を急角度で上げた。

フギンとムニンの操るIS-1Aは少し特殊な機体であった。

それらはなんと機体の全てがミスリルでできていた。


 ミスリルとは魔力を通しやすい金属であり、魔道具の外装として使うには不向きと考えられていた。

だがミスリルと魔道具とを絶縁体である磁器で覆うことによりミスリルに魔力を通さないようにした。

これによって軽量かつ強度の高い機体を作ることに成功した。


 だがミスリルは高価、希少であるためこの2機しか制作されなかった。

そんな2機を操る彼らはまさにエース中のエースであった。

彼らは烈風隊へと襲いかかる。


『下方より敵機、突っ込んでくるぞ!』


『回避行動を取れ! 死にたくなくばな!』


 烈風隊は突き上げてくるフギンとムニンを左右にロールして交わす。

その時に彼らはフギンとムニンから銃弾が発射されていることに気がついた。

機銃を搭載していることを警戒しながら残弾の残っている機は撃墜しようと動き出す。


IS-1Aは烈風よりも低速ではあるが、先程まで戦っていたガーゴイルよりは遥かに高速であり、パイロットたちはその差を意識しながら攻撃をしなければいけなかった。

そんな中、烈風がフギンの後ろを取ることに成功し、残っている僅かな残弾を発射する。

だが銃弾は左へと大きくそれてしまった。


 その後も数度攻撃を試みるが結果は変わらず、命中することはなかった。

結局残弾切れになった烈風は離脱、戦線を離れる。

それを見ていた他の機も試すが、なぜか命中せずいたずらに銃弾を消費するだけであった。


『あ、あいつよく見たら横滑りしているぞ!』


 その内1人が目標の機体が横滑りをしているという事実に気がつく。

本来横滑りは新人が犯すミス、だが彼らが新人だからこそ意図せずにプラスに働いた。

だがそんな彼の後ろからムニンが接近してきていた。


『十三番機、回避しろ!』


『まじか! 回避、回避!』


 張り付いていた十三番機のパイロットは急いで左に旋回してよけようとする。

だがそれよりも早くムニンは発砲、銃弾が十三番機めがけて放たれた。

そのうちの数発は翼に命中し、穴を開ける。


『しまった、被弾した! 戦線を離脱する』


『眼の前の敵にばっかり気を取られているからそうなるんだ。帰りは気をつけろよ』


『了解』


 こうして残弾を残しながら十三番機は戦線を離脱した。

それを阻止しようとムニンは追跡を行おうとするが、パイロットはあることに気がついた。

それは最初よりもはるか高空にいたということである。


 IS-1Aの限度硬度は約5000m〜ぐらいであり、もうすぐでエンジンが凍りつくという高さまで来ていた。

これ以上高空にとどまるのは得策ではないため、フギンとムニンは降下しようとする。

そこに残弾の残っている一番機が襲いかかった。


『おらぁ! 落ちろ!』


 十一番機は残っている30mm機関砲をフギンに向けて発射した。

放たれた機関砲弾はフギンのコックピットに命中、中のパイロットごと機体を貫通した。

制御不能に陥ったフギンのIS-1Aはそのまま墜落していく。


『よし、1機撃墜だ!』


 一番機はそのままムニンにも攻撃を加えようとする。

だが発射ボタンを押しても30mm機関砲弾は発射されない。

球切れに気がついたパイロットは兵装選択を機関砲ポッドに切り替えた。


 幸いなことに機関砲ポッドには数発の弾丸が残っていた。

彼は残った銃弾をムニンへと放つ。

だがすぐに残弾は切れてしまった。


 そんな彼の放った銃弾はムニンのエンジン付近に命中、エンジンから黒煙を吹き出した。

火災にたまらなくなったムニンのパイロットは急降下で火を消そうと試みる。

その間に烈風隊は戦闘空域を離脱することに成功した。





 艦砲射撃の生んだ黒煙を見たミトフェーラ装甲部隊は、攻撃を仕掛ける決心をした。

きれいに陣形を組んだあと野営地を出発し、包囲網を段々と縮小していく。

そんな彼らに対しイーデ獣王国の王都守備隊は城壁の上に据え付けられているバリスタと投石機での反撃を開始した。


 それらの兵器は次々とミトフェーラの兵士を倒していくが、敵の数が多すぎて一向に数が減らなかった。

だが彼らはそんなことは気にせずどんどんと次弾を装填、攻撃を行う。

次々とミトフェーラの兵は倒れるが、気にせずに彼らは進軍を続ける。


「まずいんじゃないかこれ、もうすぐで敵が壁の下にたどり着くぞ」


「歩兵隊は何をしているんだ、さっさと城壁の外に出て戦闘をしないのか!」


「そのための歩兵隊は全て城壁の上に配置され、給弾作業を手伝っているよ。俺みたいにね」


 そんな事を彼らは言いながらもバリスタに次弾を装填する。

その時、彼らの少し横にミトフェーラ艦隊の放った砲弾が命中した。

壁はガラガラと崩れ、上にあったバリスタの作業員が全員落下した。


「あの攻撃も何なんだ、遥か水平線の先から届いているぞ!」


「もう援軍が来ても勝てないぞこれは」


「援軍などまだまだこないだろう。そんな事を言っている暇があれは次弾を装填しろ」


 そう言いながら彼らは必死にバリスタに給弾を続ける。

だが給弾をしていた内の1人が、遠くに砂煙が上がっていることに気がつく。

新たな敵の増援か、と考えた彼らは深い絶望に陥った。


「敵の増援……もう終わりだ、終わりなんだ……」


 バリスタを糾弾していた内の1人がそう言って装填する槍を落とし、頭を抱える。

そんな彼を励ましながら、残りの作業員は槍を拾いながら次弾を装填する。

その時、土煙の中から何かが一斉に放たれた。


「なんだ、敵の攻撃か!」


 彼らは自分たちの方に向かってくるそれを見て、取り敢えず頭を抱えて地面にうずくまった。

彼らはそれが自分たちの上に降り注ぐと思っていたが、実際は異なった。

飛んできていた何かは自分たちよりも手前、ミトフェーラ装甲部隊のいる場所に着弾した。


 この着弾したものこそBM-21グラートの発射したロケット弾であった。

着弾したロケット弾は広範囲の敵兵を殲滅し、一気にバリスタの何百倍もの敵を消し飛ばした。

その光景を作業員たちは歓喜した。


「援軍だ、援軍が到着したんだ!」


「あの攻撃を見たか! 俺達は助かるぞ! ひゃっほー!」


 彼らはロケット弾の爆発を見て大喜びした。

そんな中、土煙を突っ切って200両ものT-90Aが姿を表した。

イレーネ=ソビエト軍のT-90Aは丘陵を飛び降り、ミトフェーラの部隊へと突進する。


――――

おまけ

本日の国章は『イーデ獣王国』のものです。

近況ノートをぜひご覧ください。


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