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第201話 絶対的制空権

 ビーッ! ビーッ!


「電探に感あり、敵襲だ! 繰り返す、電探に感あり、敵襲だ!」


 ミトフェーラ第一艦隊旗艦、戦艦シュナイザーの艦橋内。

鳴り響く警報音を聞いた乗組員たちは各自の持ち場に付き、敵機を撃墜せんと試みる。

だがそんな間でも艦砲射撃は止まっておらず、艦は激しく動揺していた。


「ア゙ー! 揺れるからまともに照準ができない!」


「仕方がないだろう、主砲撃ってるんだから」


「主砲は防盾があっていいよな! こちとら防盾なんてものはなく常に外気にさらされた状態での射撃だからな!」


 対空砲要員は感が揺れまくることに文句を言いながらも射撃準備に入る。

だが雲が低いせいもあり敵機の視認が難しい天候であった。

そんな中でも彼らは目を凝らして敵機を探す。


 一方の天山部隊は東海とのデータリンクにより各自の敵の割り振りが行われ、あとは投下するだけという状態になっていた。

天山は高度5m以下というスレスレの高さを飛行しながら魚雷を投下する準備を整える。

十分に距離を詰めたと判断した一番機のパイロットは、全機に魚雷を投下するよう指示した。


 その指示に従って各機は魚雷を次々に投下、投下し終えた機体は高度を上げた。

今回攻撃に参加した機体は30機、それらから合計60発の魚雷が投下された。

投下された魚雷は白い尾を引きながらあらかじめ設定された目標へと向かっていく。





「! 何かが迫ってきます! 白い尾を引いた何かが!」


「何だあれは! 敵の攻撃か!」


「取り敢えず回避だ! おもーかーじ一杯! 最大戦速で逃げろ!」


「了解、おもーかーじ一杯! 最大戦速に移行!」


 ミトフェーラの艦隊は魚雷への動揺で艦を回頭させる。

だが他の艦には独自の判断で先に回避行動を取っているものもあり、一気に陣形が崩れた。

もともと縦に密集していた艦たちは、蜘蛛の子を散らすように逃げていく。


「まずい! 前から戦艦が!」


「こっちは帆船に装甲と機関を搭載しただけの改造戦列艦だ、ぶつかられたら沈没するぞ!」


「そうはいっても回避が間に合いません! う、うわぁー!!」


 ゴォォォン!


 回避しようとしていたミトフェーラの艦同士が衝突事故をおこし、どちらも身動きが取れなくなる。

そんな彼らの横腹に放たれたMk.48魚雷が命中、大爆発を起こした。

巨大な水柱が立ったと思うと、次の瞬間に艦は海の底に沈み始めていた。


 他の艦もその様子を見て真っ青になって回避を急ぐ。

だがそんな彼らにも容赦なく魚雷は襲いかかった。

次々と水柱が立ち上がり、立ち上がった水柱の数だけ艦が沈没した。


「旗艦シュナイザー轟沈! 残っている艦は我がヴェーゼと装甲戦闘艦のフォルゼだけです!」


「一体何が起こったというのだ!」


「敵機直上! 突っ込んできます!」


「えぇーい! 何が何でも撃墜しろ!」


 ヴェーゼの艦内は阿鼻叫喚となる。

何とか降下してくる天山を撃墜しようと対空砲を放つも、当たることはなかった。

そのまま天山は翼下にぶら下げた2発のMk.83無誘導爆弾を投下した。


 ドォォン!


 2発のMk.83は狂いなく命中し、1発がヴェーゼの増設された煙突内へ侵入、艦内で大爆発を起こした。

これが致命傷となりヴェーゼは中央から真っ二つに割れて轟沈した。

もう1つの生き残りであるフォルゼも同じく撃沈され、あっという間にミトフェーラ艦隊は全滅した。





 一方の烈風隊はそのままイーデ獣王国の上空に侵入、先に飛来していたガーゴイル部隊を発見した。

ガーゴイル部隊もまた烈風隊の接近を確認し、そちらへと針路を変えた。

そして彼らは組んでいた正方形の陣形を解き、2騎1組のチームを無数に作り上げた。


 これは以前の演習にて零戦62型と対決した彼らが編み出した新戦法であった。

火炎の一斉射が通用しないと理解した彼らは複数騎で敵を叩く作戦を考案した。

一方の騎が囮となり、その隙にもう1騎が撃墜するという方法である。


 この戦法は本国のIS-1A.Bを用いて試験が行われており、良好な戦績を残していた。

その後も訓練を重ねて技術を磨いていき、彼らは自身の戦術に自身を持っていた。

彼らは一斉に烈風隊に襲いかかる。


「作戦通りに、だ。焦るんじゃないぞ」


「了解!」


 烈風隊は聞いていた炎の一斉射を警戒して飛行していたが、別の戦法を取ってきたことに少し驚いていた。

だがそれでも冷静に彼らはガーゴイルの後ろを取りに行く。

そして一機がガーゴイルの後ろを取って攻撃をしようというときだった。


『五番機、ケツに敵機が付いているぞ』


 仲間からの無線で五番機のパイロットは自分の後ろを取られていることに気がついた。

そして後ろに付いているガーゴイルは口に炎を溜め始めていた。

それを見た五番機はすぐさま下へと急降下する。


「アチャ! ちょっと、危ないじゃないか!」


「すまん、まさかあの状態から急降下するとは」


「IS-1A.Bでやれば間違いなく翼が吹き飛ぶ機動だが……難なくこなしていたな」


「敵の機体は想定以上に高性能かもしれん」


 そんな事を話していると、左斜め後ろからエンジン音が近づいてくる。

ガーゴイルのパイロットは急いで避けようとしたが時既に遅く、30mm機関砲に撃ち抜かれた。

体の原型もわからないほど破壊された状態でガーゴイルとパイロットは落ちていく。


 ケツに付かれると厄介だと感じた烈風隊のパイロットたちは、真面目にケツを取ることをやめた。

彼らは斜め上から襲いかかり、撃ったあとすぐに離脱し、その後再度襲いかかる戦法に変更した。

速度も機動性も劣っているガーゴイルはその動きについていけなくなってきた。


「あぁ、早すぎて狙いが全く定まらん! どこを――」


 彼らは必死に抵抗しようとするが、ガンポッドを付けた烈風隊の弾幕から逃れることはできなかった。

次々と機関砲弾が彼らを襲い、そのたびに誰かが落ちる。

気がつくと上空に山ほどいたガーゴイルは1匹も残っていなかった。


 逆に烈風隊も弾薬を使い果たし、これ以上の戦闘は不可能であった。

母艦へと一時帰投するために彼らは針路を南へと取る。

その時、東海のレーダーに反応があった。


『西より新たな敵の反応! 近いぞ!』


 東海のレーダーに引っかかった敵機はどんどん近づいてくる。

彼らは低空をずっと飛んでいたためレーダーに引っかかりづらかったのだ。

だが弾薬の切れている烈風では何もできない。


『おいお前、弾薬は残っているか?』


『50発なら。お前は?』


『もうゼロだ。これ以上の戦闘は不可能』


 弾薬を打ち切ってしまったパイロットたちは戦闘が不可能であり、帰投という選択肢しか取る得なかった。

まだ残弾のある機は、敵の撃滅のために弾薬の切れた味方を護衛しながら飛行する。

そんな彼らにダズル迷彩を施された2機のIS-1Aが襲いかかろうとしていた。


――――

おまけ:国章シリーズ第二弾 〜ルクスタント王国〜

近況ノートにあげています。

是非ご覧になってください。


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