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第200話 押し戻される戦線

 ささやかなパーティーの翌日の朝。

フロリアン・ガイエル軍団の兵たちは気持ちを切り替えて陣地の守りについていた。

彼らはMP44を手に持ってじっと遠くを監視している。


 すると遠くに何やら土煙が上がっているのが見えた。

兵士たちは不思議に思い双眼鏡でその土煙を観察する。

そしてその中にあったものを見た兵たちは皆叫んだ。


「敵襲ー! 敵襲ー!」


 その声を聞いた他の兵たちはしっかりとMP44を手に握って土煙を睨みつける。

土煙を上げながらやってくるのは、ミトフェーラ魔王国の第二装甲戦闘師団であった。

これはイーデ獣王国に侵入した部隊よりも遥かに多くの装甲オークを有した部隊であった。


「何だあれは、いかにも硬そうな装甲を身に着けているが……」


 装甲オークを視認したロンメル大将もまたその姿に困惑していた。

だがそれよりも彼は敵の数の多さに驚いていた。

そして彼な頭の中を一抹の不安がよぎる。


「まずいぞ……こちらは5000、きっとあの数には対応できない。となると……」


 ロンメル大将はしばらく考え、結論を出す。

彼は見張りに付いている全兵士に一度集まるように言う。

集まった兵士たちは、敵が迫ってきていることに少々怯えながらロンメル大将の話を聞く。


「諸君、見ての通りであるが敵の大部隊がこちらへと進撃しつつある。こちらの部隊はあちらの部隊に対して圧倒的に数で劣っている。そこで私は一度撤退しようと思う」


「「「「え、撤退ですか!? 戦うんじゃなくて!?」」」」


「そうだ、撤退だ。死に物狂いで撤退だ」


 突然の撤退命令に、戦う気満々であった兵たちは驚く。

だがロンメル大将の命令は絶対なので、彼らは急いで陣地の撤収作業を開始した。

素早く陣地の撤収を済ませた彼らはそのまま装甲車に乗り込む。


「では出発せよ。私たちは殿を務めることとする。君たちは学生だ。こういう時は私たち大人に任せなさい」


「それでは大将が危険にさらされるのでは!?」


「大丈夫だ。我々は長年戦ってきた戦士、こんなことでは死なんよ。どうしても戦いたいというのであれば要塞の使えそうな兵器の復旧を行っておいてくれ。授業で習ったことを実践すれば良い。分かったならば早く行きなさい」


「――わかりました。ご武運を」


 こうして義勇軍の中の学生たちは後方へと避難し始めた。

残った、スキルによって召喚された兵士たちは自分の武器を取り、敵の方を見る。

敵はどんどん近づいてきていた。


「……さて、ドイツ軍の意地を見せてやろうではないか」


 ロンメル大将はティーガーⅡに乗り込み、丘陵の上に部隊を動かす。

これによって敵の部隊は戦車隊に上から撃ち下ろされる格好となった。

そして戦車などに乗らない兵士はパンツァーファウストを持ちながら敵を待つ。


「よーし、やるぞ!」


 兵士の中のひとりがそう言う。

だが兵士たちはその声を聞くとあたりを見回し始める。

そして中、1人の兵士に全員の視線が注がれる。


「あ、お前! ゲオルグじゃないか! なぜ逃げなかった!?」


「私もこの部隊の一員です。みなさんを残して逃げるわけには行きません」


「……まったく仕方のないやつだ。だが死ぬなよ?」


「分かっています。死ぬのはゴメンです」


 そういうゲオルグの背中にはどんどんとパンツァーファウストが載せられ、気がつけば彼は一度に5本のパンツァーファウストを持たされていた。

これを使って撃破しろということか、ということに気がついた彼は前面を歩くオークが近づいてくることをずっと待っていた。

そして彼らはそのまま戦闘に突入するのであった。





 イーデ獣王国王都郊外。

数々の戦線でイーデ獣王国軍を破ったミトフェーラ魔王国装甲部隊はそのままの勢いで王都まで進軍してきていた。

だが獣王国の王都は防御力が高いことで知られており、彼らは取り敢えず包囲するだけで攻撃はまだ加えていなかった。


 イーデ獣王国側もまた自分たちから反撃に出るのは危険だと判断し、籠城に徹していた。

彼らは来ると言われている援軍だけを頼みに武器を持っている。

そんな味方と敵をアウグストスは王城から見下ろしていた。


「もう今までに20万の兵力を喪失した……これもひとえに私のミトフェーラに対する認識の甘さゆえのものだ。だが今更後悔しても遅い、今はどうして援軍が到着するまで耐えきるかを考えなければ」


 王都は石を積み上げて作られた高い三重の城壁で守られているため、正面突破は難しい。

イーデ獣王国軍は三重の壁の最内殻に部隊を集中的に配備しているため、外側は相対的に守りが薄い。

だが人数が限られている中で守るにはそうするしかなかった。


「陛下、大変です!」


 バタバタと音がしたかと思うと、近衛兵の1人が走りながらやってきた。

なにかと思いアウグストスは顔を彼の方に向ける。

息を整えた近衛兵は言った。


「至急電です! 西海沖合に展開していた我が方の海軍部隊が敵艦隊と接敵、交戦の上に全艦撃沈されたとのことです!」


「何だって!? それで敵はどこに!?」


「現在敵部隊は西海を北上、まっすぐこちらに近づいてきています!」



 ――西海上、第一、二任務部隊。

イーデ獣王国の艦隊をいとも容易く破ったミトフェーラのその艦隊は王都へと接近してきていた。

各艦は単縦陣でまっすぐ北上し、射程に入ったところで右に回頭する。


「艦長、全艦射程に入りました! いつでも撃てます!」


「よし、目標敵王都。撃てぇ―!」


 ドォォン! ドォォン!


 王都を射程に収めた第一、二任務部隊の各艦は主砲を発射した。

後続しているガーゴイル母艦からはガーゴイルが全力出撃し、王都めがけて飛び始める。

ミトフェーラ魔王国の王都への攻勢が今始まった。


「いいぞ、撃て! 撃って撃って撃ちまくれ!」


 ミトフェーラの艦隊司令は次々と砲弾を吹き出す砲を見てそう叫ぶ。

放たれた砲弾は次々と王都内に着弾し、そのうちの一部は壁に、もう一部は城そのものに着弾する。

砲弾の命中により王都内の各地では炎が上がり始めた。


「くそっ、もう攻撃が始まったか! これでは援軍が到着するまで持たないぞ!」


 アウグストスは窓のふちを叩きながら言った。

その瞬間、城に砲弾が着弾したことにより城は大きく揺れる。

だが彼は何とか抵抗をしようと部隊を動かす決意を固めるのであった。





『あー、あー、マイクチェック・ワン・ツー』


『うるさい、無線で遊ぶな』


 西海上空を飛行する、ミッドウェー所属の第801航空隊。

彼らはイーデ獣王国救出のために急いで飛んでいた。

そんな時、東海が海上にいる敵艦の存在に気がつく。


『どうやら敵艦がいるようだ。数は62、大艦隊だな』


『ちょうどいい獲物じゃないか、せっかく魚雷も2本抱いてきたことだし』


『積み過ぎだと思ったが……まぁ結果オーライか』


『よし、一気に叩くぞ!』


 天山部隊は敵艦隊撃滅を企図して降下、烈風隊は飛行しているであろうガーゴイルを求めてそのままの針路を飛んでいく。

そのころ陸上では……


「どうやら王都は包囲されているらしいぞ」


「急いで助けに行かねばな、まぁこのエイブラムスの敵ではないと思うが」


「それもそうだが。あ、あとソ連の連中に手柄を取られないようにしないとな。あいつらも王都に向かっているらしいから」


「ソ連と共闘か……実は俺T-90Aのほうが好みなんだよね。何かの間違いであっちに配属されないかな」


「「「え」」」


 はるばる西へと進撃していた『イレーネ=アメリカ軍』と『イレーネ=ソビエト軍』は王都へと接近していた。

アメリカ軍はソ連に負けじと進撃速度を早める。

一方のソビエト軍はと言うと……


『Выходила на берег Катюша, На высокий берег, на крутой!』


 競争などそっちのけで歌を歌っていた。



――――


近況ノートにイレーネ帝国の国章を載せています。

是非ご覧になってください。


――――

本日でめでたく200話達成となります。

5月7日に初めて投稿してからここまで続けてこれたのは、毎日読んでくださる皆様のおかげです。

本当に感謝しています。

物語はまだまだ続いていきます。

どうか最後まで、物語が終わる瞬間までお付き合いしていただけると嬉しいです。


最後になりますが、もし宜しければ♡、☆評価、ブックマーク等して下さると非常に嬉しいです。

この200話という節目を迎えることができたこと、改めて皆様にお礼申し上げます。


著者:あるてみす


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