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第199話 エーリヒ・プラン

「報告します。現在我が軍はイーデ獣王国方面にて敵の防衛線を突破、敵国の首都に向けて侵攻中であるとのことです」


 松明の火があたりを照らす部屋の中。

伝令兵がこの部屋で作戦会議をしているユグナーたちに戦況の伝達を行う。

ユグナーは顔を伝令兵の方に向け聞いた。


「イーデ獣王国方面の戦況は分かった。他の方面はどうなのだ?」


「はい、フリーデン連立王朝方面では木々生い茂る森に邪魔され進撃の速度は遅いですが着実に前には進んでいるとのことです。そしてヴェルデンブラント方面ですが……」


「ヴェルデンブラント方面がどうした? まさか敗れているとでも言うのか?」


「はい……どうやらライヒシュタッツ線を構成する要塞の1つを敵軍が突破、領土内に敵が流れ込んできていると……」


 伝令兵がそういった瞬間、ユグナーは机を思いっきり叩いた。

その衝撃で置いてあった赤ワインが机の上の地図の上にこぼれる。

そんなことも気にせずユグナーは大きな声で伝令兵に向かって怒鳴り散らした。


「何をやっているのだ現地の指揮官は!『イーデ獣王国に苦戦しています』出会ったならまだ許そう、だがヴェルデンブラントだと!? あんな戦争に負けてボロボロの国家になぜ負けているというのだ!?」


「陛下、どうか落ち着いてください。現地の生存兵の証言によると『見たことのない鋼鉄の魔物が出現した』であったり『地面から何かが飛び出したと思ったら空中で爆発し、周りの味方が全員死んだ』『城門が何かで爆発されて容易に侵入経路を確保された』などと言われています。また、『あれはヴェルデンブラントの鎧ではなかった、何処か別の国の部隊だ』と証言するものもおります」


「……つまりヴェルデンブラントの軍ではない別の国の軍に敗北したと?」


「はい、現地兵の言葉をそのまま飲み込むとそうなるかと……」


 ユグナーは一旦怒りを抑え、冷静になって物事を考え始める。

だがその裏には隠しきれないほどの怒りがあった。

そんな彼に隣りに座っていたエーリヒが声を掛ける。


「十中八九イレーネの部隊だろうねぇー。あの国の技術力ならやりかねないよぉ」


「お前はいつも呑気だな。で、そのイレーネが敵だったとしてお前ならどう対処する?」


「そうだねぇー……伝令兵さん、敵はどのぐらいの規模なのか分かる?」


「は、およそ5000人ほどであると現地で偵察していたものから報告が上がっています」


 随分と少ないのだな、とユグナーは思った。

そして彼はワインがこぼれた地図の乗っている舞台を表すコマを1つ動かした。

その動かし方を見てエーリヒは頷く。


「お前も俺と同じく数で押す作戦か」


「そうだねぇー、いくら精鋭であろうと所詮は人、5000人に10万の部隊をぶつければ勝敗は目に見えているよぉ」


「ここで勝たねば困るのだ、それはエーリヒ・プランを提唱したお前が一番良く分かっているだろう?」


 エーリヒはにひっと笑い、倒れたワイングラスを立て直した。

こぼれた赤ワインはミトフェーラ魔王国を中心に大陸中をワイン色に染め上げる。

エーリヒはそれを見て言った。


「エーリヒ・プランは全国家への同時攻撃作戦。成功すればこのワインのように全国家をミトフェーラ色に染め上げることができるようになっているんだぁ」


「お前の作戦が正しく、そして緻密であることは分かっている。だがこのワインのように単純に染め上がるわけではないところが戦争の難しいところだ」


「必死の抵抗があるからねぇ。でもきっと大丈夫、成功させてみせるよぉ!」


「頼りしているぞ」


 ユグナーはエーリヒの肩に手を置き、そして立ち上がった。

彼は伝令兵に部隊への伝令を伝え、伝令兵はそれを受け取った後部屋を退出した。

彼は地図を見ながらほくそ笑むのであった。





 同日、要塞線の突破口から60km前進したところにある丘陵地帯。

ロンメル大将はここにて一時的に陣地を構築し、進軍の手を止めていた。

というのも本国から『イレーネ=ドイツ軍』と合流するようにとの指示が出たからだ。


「ア゙ーッ、あったけぇーっ!」


 フライコーア参加者の1人、ゲオルグは陣地で沸かしたコーヒーを飲んでいた。

彼は最初コーヒーを見て飲み物かと疑問をいだいていたが、いざ飲んでみるとハマっていた。

手に持ったパンと、そこら辺で狩ってきた魔物の肉も一緒に食べて栄養を取っていた。


「やぁゲオルグくん、食事は楽しいかね?」


 ゲオルグはそう話しかけられて声の下方を振り向いた。

するとそこには、笑みを浮かべながら立つロンメル大将の姿があった。

ゲオルグは驚き喉にパンをつまらせそうになりながらも立ち上がり、ロンメル大将に敬礼する。


「た、大将……私になにか御用でしょうか……?」


「そう焦らんでも良いぞ、別に怒りに来たのではないのだからな」


「で、では何を……?」


 ゲオルグは不思議そうな顔でロンメル大将に聞く。

そんな彼の表情が面白かったのか、ロンメル大将は少し笑った。

そして彼は手に持っていた紙きれをゲオルグに渡す。


「皇帝陛下から勲章を授けられることになった。良かったな」


「え、勲章ですか!? 私に!?」


「そうだ。今回の要塞線突破に関しての記録をまとめていると、君が多大なる貢献をしているという証言が外の兵から出てね、全員の証言が一致していたので君の戦功を本国に通達したところ、君には受賞資格があるということで勲章が授与されることとなった」


 ゲオルグは信じられないという顔で周りにいる仲間を見渡した。

彼らは皆目線が合うと彼に親指を立ててニカッと笑う。

それでも信じられないという風に彼は渡された紙を見るが、そこにはきちんと『一般突撃章授与』という言葉と彼の名前、そしてロンメル大将のサインが入っていた。


「これは大いに誇るべき功績だ。他の者達も彼を見習うように」


 ロンメル大将がそう言うと、周りの兵たちは皆手を叩いてゲオルグを祝福した。

彼は恥ずかしいやら何やらで頭を掻いた。

後日勲章は渡されるとロンメル大将は言い、彼の元を去った。


 その夜、フロリアン・ガイエルの兵たちは夜中にささやかながらも彼の受勲を祝うパーティーを開いた。

そこで兵たちは少しだが久しぶりに酒を飲み、陽気な気分で眠りについた。

酒を飲まなかった、召喚された兵たちは歩哨に立つ。


 そんな彼らのもとに敵が段々と忍び寄ってきていた。


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