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第197話 フロリアン・ガイエルの黒軍

 『ライヒシュッツ線』――それははるか昔のミトフェーラ魔王国の魔王が、国土防衛のために建設した、現在の国境線全てをカバーすることのできる長大な要塞群だ。

この要塞戦は建設からかなりの月日が経っているが、歴代魔王による改築を重ね、常に最大の防御力を発揮できるように維持、整備されている。


 特に最近は火砲などの近代的兵器が開発、実戦配備されたことにより要塞の防衛性能は飛躍的に上昇した。

防壁の上部には多くの火砲が国境部を睨んで鎮座している。

そこの一点をロンメル将軍は突破しようと考えていた。


「防衛線は隙間なく、上部には巨大な砲門が据え付けられている。だがきっと突破できる道があるはずだ」


 ロンメル大将は双眼鏡を覗き込み、城壁の上の砲をみる。

彼らが今いる場所は要塞線の中でも比較的強固な部位で、その分火器も多く配置されていた。

特に一部の防御壁の上部に据え付けられた30cm加農砲は、ミトフェーラの新型戦艦に搭載されている砲の原型となった砲であり、絶大な威力を有していた。


 この要塞線に対して真正面から戦いを挑むのは自殺しに行くことと等しいので、フロリアン・ガイエル軍団は一度森の中に身を潜めていた。

そのおかげもあって追いかけてきた敵部隊はフロリアン・ガイエル軍団を見つけられずにいた。

彼らはそのまま夜になるまで息を潜めて潜伏していた。





 日が沈み、夜がやってきた。

空には月が輝き、要塞線は監視のための光でまた輝いていた。

闇夜に浮かび上がった要塞線はまさに格好の目標であった。


 フロリアン・ガイエル軍団はロンメル大将の指示の元、森の中に陣地を構築していた。

そこは要塞線からは木に隠れて見えず、逆にこちら側からは榴弾砲の射線が要塞線に通る絶妙な場所であった。

照準を要塞線に合わせるために榴弾砲は砲の仰角を上げる。


「よし、狙うは敵要塞の上部に設置されている火砲類だ。徹底的に叩くように」


「「「「了解」」」」


「よし……てぇーっ!」


 ロンメル大将の号令とともに、一斉に砲弾が放たれた。

放たれた砲弾は放物線を描きながら落下していき、見事敵陣地内に着弾した。

そのうち1発は壁の上部に命中し、置かれていた15cm加農砲を破壊した。


 要塞内の兵は爆発音に驚き、急いで配置につこうと走り始めた。

だが多くの兵が一度に動こうとしたため階段がつまり、動線は混乱した。

その間にも次々に砲弾が打ち込まれていく。


 敵は砲撃されていることは理解しているのだが、如何せんどこから攻撃が加えられているのか判別できず、迎撃は困難を極めた。

一方のロンメル大将は森の少し高いところにたち、暗視ゴーグルを見ながら弾着を観測している。

すると当たりどころが良かったのか、大爆発の閃光が確認できた。


 その閃光はフンメル自走砲の放った砲弾が要塞内の火薬庫を突き破ったことにより起きたものであった。

それにより要塞内では大火災が発生し、兵たちはより混乱することとなった。

自走砲は攻撃の手を緩めることなく砲弾を撃ち込んでいく。


 しばらくしていると要塞兵たちは近くの野原を進軍する部隊を発見した。

それはフロリアン・ガイエル軍団を追って引き返してきた味方の軍であったが、混乱していた彼らはそれを敵軍であると誤認して攻撃を始めた。

突然友軍から砲撃を加えられた彼らもまた混乱する。


 そんな事をしている間に自走砲は砲弾が尽きたので一旦砲撃を止めた。

攻撃が止まったことを要塞兵たちは自分たちが正確に攻撃をしているからだと解釈し、これに壊滅の一撃を与えんとさらに砲弾を打ち込む。

これにより追手部隊は壊滅した。


 自走砲の給弾作業を行っている間、ロンメル大将の作戦は次のフェーズへと移行した。

少数の歩兵で構成されたパンツァーファウスト兵が闇夜に紛れて要塞の城門へと近づく。

彼らは80mほどの距離でパンツァーファウスト100を構え、そして発射した。


 ドォォォォン!


 放たれたパンツァーファウストは城門に見事命中し、城門は音を立てて崩れ落ちた。

城門の破壊を確認したパンツァーファウスト兵は素早く自陣へと戻っていく。

彼らが森に戻った後に要塞の兵士たちは下へと降りてきて彼らを探し始めた。


「おい、どこにもいないぞ」


「さっき攻撃されたばかりだ、まだどこかにはいるはずだ。探すぞ!」


「おそらく森だろう。四人一組になって森を捜索するぞ!」


「「「「おう!」」」」


 彼らは手に松明を持ち、グループを組んで森へと入っていく。

そんな様子を見ていたロンメル大将は、フロリアン・ガイエル軍団を左から回って森を抜けるよう指示した。

戦車は前照灯を消し、なるべく音を立てないようゆっくりと移動する。


 そうしてフロリアン・ガイエル軍団が森を抜け出したころ、捜索に出てきていた兵士たちはようやく先程まで部隊がいた場所にたどり着いた。

そこは陣地を構築した関係上多少開けており、それを怪しいと判断した彼らはそこへと踏み込んだ。

その瞬間、地面から何かが飛び出してくる。


「なんだ、なにか飛び出してきたぞ!」


 彼らは飛び出してきた謎の物体を警戒する。

そしてその飛び出した物体が1.2mの高さに達した時……


 ドンッ!


 破裂音が響き渡り、広範囲に破片が撒き散らされた。

その飛び出したものこそS-マイン、跳躍対人地雷である。

今爆発したものの他にも無数のS-マインがあたりに埋められており、慌てて逃げ出そうとした兵たちが次々と地雷を踏んで跳躍、爆発した。


「うわぁぁぁぁ! 顔が! 目が!」


「いだぃぃぃ! 助けてくれぇぇ!!」


 S-マインの爆発により多数の兵士が被弾、その場は叫ぶ味方と埋まる地雷の2つの恐怖に包まれた。

その後も逃げようとする兵がまだ残っていたS-マインを踏み抜き、また爆発する。

そしてそれに怯えたものがさらに踏み抜き、と、負のループに陥った。


 その間に要塞線の近くまで接近したフロリアン・ガイエル軍団は城門への突入の機会を伺っていた。

彼らは追加の捜索隊が城門から出て、森に入っていったときを好機と捉えた。

フロリアン・ガイエル軍団の全戦闘車は門内への突入を開始した。


「行け、行け! 攻め落とせ!」


「敵は寝ているものであろうと容赦なく殺せ! 死にたくなければな!」


「あっちに宿舎があるぞ! 手榴弾を投げ入れろ!」


 装甲車に乗っていた兵士たちはぞろぞろと車から降り、手に持ったMP44を乱射しながら要塞内へと突入した。

いくらか応戦しようとマスケット銃を手に取るものもいたが、機関銃の前には無力であった。

また建てられている建物は手当たり次第にティーガーたちの主砲で撃ち抜かれて破壊されていく。


 こうして完璧に思われた防衛戦の一角はなすすべなく占領された。

要塞を占領したフロリアン・ガイエル軍団は要塞に自分たちの部隊の旗を掲げた。

だが彼らが占領したのはあくまでも一部、まだまだ要塞の戦闘能力は健在であった。


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