6月22日午前3時、ミトフェーラ魔王国は大陸の全国家に対し宣戦を布告した。
夜ということもあり俺は眠りについていたが、報告を受けて飛び起き、すぐに宮殿内に設置された大本営へと移動した。
俺は大陸地図を見ながら現状を確認する。
「ミトフェーラ魔王国は本日午前3時丁度に宣戦を全国家に対し布告、既にイーデ獣王国など隣接する国家に対して侵攻を始めているとのことです」
「部隊の規模は分かっているか?」
「はい、現状偵察機型B-36の観測によると想定兵力は陸軍戦力で150万ほどであるとされています。大してイーデ獣王国は120万、ルクスタント王国が80万、フリーデン連立王朝が50万、我がイレーネ帝国が30万、後はフライコーアが5000人ずつヴェルデンブラント王国、ゼーブリック王国に展開しています」
「数では勝っているが時間が時間だ……かなり初戦は押されそうだな」
俺は部屋の壁にかけられている時計を見る。
時計の針は深夜の03:15を指していた。
この時間はちょうど守備隊の兵も寝ているはずだ。
「とりあえずルクスタント付近に展開している30万の我軍は3部隊に別れて進撃を開始してくれ。イレーネ=アメリカ軍は海岸沿いを、イレーネ=ソビエト軍はイーデ獣王国の中央を通って、イレーネ=ドイツ軍はイーデ獣王国の上を通って『フロリアン・ガイエル』と合流してくれ」
「わかりました、そのように通告いたします。海軍はどのように?」
「あらかじめ展開していた第一、二機動部隊を西海に派遣、制海権の確保を行ってもらう。大和ら戦艦部隊は絶対的制海権の中セクター軍港に砲撃を加えさせるつもりなのでしばらく待機だ」
「第一、二機動部隊ですね、すぐに無線を飛ばします」
さて、俺も出撃の準備を整えようとしようか。
一旦着替えるために俺は大本営の設置された部屋を離れ、自室に戻ろうとした。
そうして廊下を歩いていると、寝間着姿のベアトリーチェと遭遇する。
「なんじゃ、騒々しいが……まさか、戦争でも始まったか?」
ベアトリーチェは寝ぼけ眼をこすりながら聞いてくる。
彼女に現実を伝えるのは残酷であるが……致し方がないだろう。
「あぁ」
「どこ対どこじゃ?」
「……ミトフェーラ魔王国対その他全国家だ」
「……そうか」
ベアトリーチェはそう言うと、よろよろと歩いていった。
俺はそんな彼女の背中を一瞬見つめた後、自室へと歩いていった。
寝間着から軍服へと着替えた俺は、出撃に備えて準備を済ませる。
◇
ヴェルデンブラント=ミトフェーラ国境部。
突如本国から届いた開戦の知らせにロンメル大将は驚いて飛び起きた。
彼は急いで全隊員起こさせ、城周りの監視を行わせる。
ティーガーなどの機甲戦力や高角砲などにも兵員が配置され、敵を迎え撃つ準備を整えた。
だがまだ夜中の3時台、敵が攻め込んでくる気配はなかった。
そんな時、上空に鈍いエンジン音が響き渡る。
「まずい、敵機だ! だが今は夜中なのになぜ操縦できている!?」
ロンメル大将は不思議に思いつつも、各高角砲に防衛の準備を始めさせる。
高角砲要員以外は皆退避するか、城の城壁上に取り付けられたサーチライトを使って敵機の捜索を始めた。
空にはサーチライトによる光の柱が作り上げられた。
その時に上空を飛行している敵機であったが、この6〜7ヶ月近くの間に急激に操縦が上達した、天性の才能を持った者たちばかりであった。
彼らは種族的に夜目が効き、夜間でも問題なく飛行できる。
よって何の狂いもなくトロイエブルク上空まで飛行してきたのだが……
「うわぁ! 目が! 目がぁ!」
飛行する1機のIS-1Bをサーチライトが捉え、その光は操縦手の目を襲う。
彼は夜目が効くことが災いして強い光により視界を失い、機体は操縦不能に陥った。
そしてそのままトロイエブルクの砂漠地帯へと急降下していく。
この一連の流れを見てサーチライトを操っていたフロリアン・ガイエル軍団の兵士は、敵機を撃墜するならサーチライトの直接照射が最適だと判断した。
よって彼らは必死に敵機の捜索を行い、次々と敵を見つけては撃墜していった。
結果的に上空に飛来した全5機が全て撃破される結果となった。
一難去ったことで彼らは一瞬安堵するが、彼らはすぐに次の行動へと移ることにした。
その行動とはトロイエブルクに着いてから今までの短い期間の間でロンメル将軍が考案したものであった。
それはドイツがかつて得意とした電撃戦に部分的に似ているものであった。
トロイエブルク城を放棄し、夜の闇に紛れて後方の敵陣を叩く作戦。
『ファル・ゲルプ・ツヴァイ』または『第二次黄色作戦』と言われる作戦であった。
彼らは夜の闇のうちに敵の部隊中枢へと進軍を始めた。
◇
午前6時、仮眠を取っていたミトフェーラ魔王国軍は特異な音で目を覚ました。
兵士たちはなにかと思って外を見ると、そこには陣中を堂々突破する第2武装義勇軍『フロリアン・ガイエル』軍団の姿があった。
一瞬何事かと思った彼らであったが、それが敵であると認識するとすぐに反撃しようと試みた。
だが歩兵では当然機械化された彼らに追いつくわけもなく、『フロリアン・ガイエル』は余裕で敵の陣中を突破したのであった。
その途中で1人の兵士が装甲車のハッチから顔を出し、構えていたパンツァーファウストを発射した。
放たれた弾頭は地面に激突し、近くにいた兵士1人を巻き込んで大爆発した。
もちろん魔王国軍も見逃しておくわけにはいかないので、結果フロリアン・ガイエル軍団をおって引き返す羽目になった。
この『ファル・ゲルプ・ツヴァイ』によりヴェルデンブラント王国は一時の侵攻から免れることができたのであった。
一方のフロリアン・ガイエル軍団の兵員たちはずっと止まることなく進軍し続け、いくつもの敵陣地を突破し、既にミトフェーラ魔王国とヴェルデンブラント王国の国境線まで進軍していた。
だがそこで彼らを最大の壁が待ち受けることになるのであった。
その壁とは国境線に建設されたミトフェーラ魔王国の巨大要塞線、『ライヒシュッツ線』であった。