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第195話 フライコーアの意地

 6月2日、ミトフェーラの全貴族たちの集まる大会議において、ユグナーが魔王の座につくことが公に宣言された。

貴族たちはユグナーの即位を大いに歓迎し、歓喜の中でユグナーは迎えられる。

そんな中で彼は全貴族に高らかに宣言した。


「朕は祖先以来の誇りを胸に、世界にまたがる大王国を建設することを目標とする。その上において全国民は国家のために命をかけて奉仕しなければならない。朕はここに国家総動員の勅令を発布する!」


「「「「ははっ、仰せのままに!」」」」


 ユグナーの宣言により、ミトフェーラ軍は大幅な拡大に向かうことになった。

国に住む満2000歳以下の男児は皆徴兵され、軍事訓練を受けて即応兵士として育てられた。

徴兵された人数は200万人、全人口の30%に当たる人数であった。


 新魔王の即位と総動員の勅令の話は、ヴィロンに向けて放たれていた魔導通信珠の通信を陸軍の通信員が傍受したことにより明らかになった。

この話は他の国家にも転送され、全国家が知ることとなった。

これを受けて全国家で軍備拡張に向けた動きが加速する。


 6月3日には早くもイーデ獣王国で総動員令が発布、続く6月4日にはルクスタント王国とフリーデン連立王朝にて総動員令が発布された。

だがここでヴェルデンブラント王国とゼーブリック王国が軍隊を持っていないことが問題となった。

彼らは軍備を再建するだけの余裕はなかったのだ。


 そこで第一帝国大学の陸軍科に所属する生徒が義勇兵として祖国の防衛の任につくことを望み、俺に直訴してきた。

だが彼らは戦争に参加できるだけの年齢を満たしているとはいえ、生徒には変わりなかった。

生徒の安全が第一だと解いたが構わず何度も直訴してきたので、俺は困ってしまった。


「ロンメル大将、彼らを出兵させて良いと思うか?」


「司令、それは校長である司令が判断することです」


「……俺は校長としては生徒が死んでほしくない、という理由から拒否したい。だが彼らはこの世界では十分戦争に参加する年齢だ、本土で残っている彼らの仲間は防衛にあたるのであろう。そうなれば戦争になった時、死んでいった同年代の本土のものをどう思うか……」


 俺は日本にいた時、戦争に行ったことはもちろんないし、家族のために命をとして戦いたいと思ったこともなかった。

だが彼らは違う、その意志を汲んであげるべきではなかろうか。

彼らは生徒、されど1人の人間なのだから彼らの意思を尊重するべきだ。


「……彼らの出兵を認めよう。その代わり後方からの物資支援は最大限行う」


「では司令、1つお願いがございます」


「なんだい?」


「私に彼らの指揮を任せてください」


 ロンメル将軍が指揮するのであれば頼りにはなるな。

だが本国の戦車隊の指揮能力が低下する恐れがあるが……

いや、我が軍には素晴らしい指揮官は全然いる、ここは彼に行ってもらおう。


「よし、彼らの指揮を任せよう。あと彼らにも部隊名を与えないとな……そうだな、フライコーアはどうだ?」


義勇軍フライコーアですか、ある意味彼らにふさわしいなですね」


「そうだろう? 出兵は6月9日とする。それまでに生徒たちに支給するものを用意しておこう。今は彼らにゆっくりしておくよう言っておいておくれ」


「わかりました」


 そう言ってロンメル大将は出ていった。





 6月9日、帝国大学の演習場にて出陣に合わせた閲兵が行われた。

行進する彼らは支給されたドイツ式の軍服に鉄兜を被り外套を着て、肩からはMP44をかけ、手にはパンツァーファウストを持っている。

彼らは軍服の右胸の位置に、フライコーアであることを示す鉄十字徽章を付けていた。


 部隊は後方支援などを合わせても5000人程度なので、フライコーアには追加でドイツ陸軍の軍人も5000人参加していた。

全体では1万人の戦力だ。


「本当に大丈夫かなぁ……」


 俺は横に立つロンメル将軍に聞く。

そんな俺の質問に彼は少し笑いながら返した。


「彼らをあげて信じてください」


 まぁそれもそうだな、俺が信じずしてどうするか。

最後に通り過ぎたティーガーⅠ、Ⅱ部隊を見送り、俺は閲兵台から降りる。

閲兵を終えた彼らは大陸への移送のため、イレーネ湾の輸送艦へと移動した。





 ゼーブリック王国王都広場。

大陸に上陸したフライコーアたちは現地で組織されていた小規模の防衛部隊と合流した。

現地部隊の司令官はオイラー=レオンハルト公爵であった。


 彼らは元ゼーブリック王国の王都守備隊で構成されていた。

自宅で一生使わないと思ってきた鎧や剣を引っ張り出してきた彼らは、人数は少なくとも士気は高かった。

そんな彼らのうちの1人が、交流するフライコーアの隊員を見て叫ぶ。


「お前、ゲオルグじゃないか!? そうだろう!?」


「そういうお前はミヒャエル、久しぶりだなぁ!」


 どうやら彼らは王都守備隊の同部隊に配属されていた戦友のようだ。

帝国大学の陸軍科には、そういった王都守備隊の残党も含まれていた。

彼らは再び共に戦えることを喜びあった。


 また、オイラー公爵とロンメル大将も手を取り合い、共に防衛することを誓いあった。

しばらく交流を終えたあと、フライコーアの隊員たちはヴェルデンブラントに向かう部隊とゼーブリック王国にとどまる部隊に分かれて移動を開始した。

ゼーブリック王国にとどまる部隊は第1武装義勇軍『ヴィーキング』軍団、ヴェルデンブラント王国に向かう部隊は第2武装義勇軍『フロリアン・ガイエル』軍団と呼ばれることとなる。


 『ヴィーキング』『フロリアン・ガイエル』の両者は大学での再会を誓いあい、別々の道に進んでいくのであった。





 日はしばらくたち、ヴェルデンブラント王国西方に存在するトロイエブルク城。

かつてロネが拠点としたこの砦にフライコーアの部隊は展開した。

彼らは崩れた城壁などを補修しながら、戦闘に備えて訓練を行う。


 だがトロイエブルク城はミトフェーラ魔王国との国境線に近く、戦争が始まると真っ先に敵部隊が進軍してくると考えられる土地でもあった。

彼らは今後、激戦を経験することとなる。


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