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第194話 国名を冠した部隊たち

 イレーネ帝国中央大通り。

海軍省などの建物が乱立する中に1つ博物館のような建物があった。

だがその建物は博物館ではなく、国際連盟の本部であった。


 この建物では各国から派遣されてきた全権大使が働いていた。

彼らは同じ大通りにある大使館から通勤してきている。

俺はその中にあるミトフェーラ魔王国のデスクを目指した。


 コンコン


「どうぞ、お入りください」


「失礼する」


 俺はミトフェーラ魔王国のデスクへとたどり着き、扉をノックした。

返事が返ってきたので、俺はドアノブを回して部屋の中に入った。

椅子に腰掛けて書類に目を通していたヴィロンは、メガネを外して立ち上がった。


「これは皇帝陛下、どうかなされましたか?」


「どうもこうもない、説明してもらおうか」


「はて、何を?」


「とぼけないでもらおう、西海での一連の戦闘行為のことだ」


 俺は手に持っていた戦闘詳報とビスマルクから撮られた写真を机の上に置いた。

ヴィロンは戦闘詳報を手に取り、パラパラとめくって中を確認した。

そして彼は机の上に再び戦闘詳報を置き、俺の方を向いて言う。


「申し訳ありませんが、私は存じ上げておりません」


「存じ上げていない? 本国から何も聞いていないのか?」


「はい、ですが証拠がある限りこれは実際に起ったことなのでしょうね」


「あぁ、我が国の練習艦ビスマルクが西海上でそちらの艦隊により攻撃を受けた。この写真を見れば分かるだろう? これはそちらの艦隊のアーデル級装甲戦闘艦に違いない。本当に何も本国から聞いていないのか?」


 俺は轟沈するゼルクの写真や、F/A18Fから撮られた砲撃する戦艦の写真をヴィロンに見せながら言う。

だが彼は頑なに首を横に振るのであった。

俺は埒が明かなくてため息を付いた。


 ヴィロンが本当に知っていないのか、それとも嘘をついているのかの判別はつかない。

これ以上問い詰めても仕方がなかろう。

俺は入ってきた扉へと歩いた。


「あぁそうそう、今後連盟の加盟国との間でこの件に関する会議を開くつもりだから、言い訳があるのであればそれまでに本国から何かしら情報を集めておきたまえ」


「……わかりました、本国にはすぐに問い合わせます」


 俺はその言葉を聞くと、入ってきた扉を締めて外へ出た。





 2日後、イレーネ島、陸軍基地。

ここには四カ国戦争を戦い抜いた熟練の兵たちが日々腕を磨いていた。

だがこの陸軍には一つ欠点がある。


 それはかなり数が少ないということだ。

今後ミトフェーラと対立していく上において、大陸での戦闘を本格的に使用となるとこのままの陸軍では確実に戦力が不足する。

そこで俺は陸軍を大幅に拡張することにした。


 この際にということで、陸軍の編成は大幅に変更されることとなった。

具体的には今まで1つの大きな部隊であったものを、3つに分けることとした。

その3つとは『イレーネ=アメリカ軍団』『イレーネ=ドイツ軍団』『イレーネ=ソビエト軍団』だ。


 彼らは非公式にはそれぞれ後に付く国名だけを取って呼ばれることとなる。

アメリカ軍団には今と同じくM1A2エイブラムスを主力とし、新規に創設されたドイツ軍団はレオパルト2A6を主軸に機甲師団を、ソビエト軍団はT-90Aを主軸に機甲師団をそれぞれ構成する。

各部隊10万人、合計30万人の陸軍戦力までに膨れ上がった。


 これらの部隊は今後演習という名目で大陸、特にゼーブリック王国とヴェルデンブラント王国に展開する予定だ。

もちろんこの活動の裏にはミトフェーラに対する威嚇目的がある。

それと戦争になったときにすぐに移動を開始できるようにするという意味もある。


 それと、今回の件に関して連盟による初の総会が開かれた。

その総会でのヴィロンへの問い詰めの結果として、ミトフェーラを除く国家の賛成によりミトフェーラへの制裁と監視の強化が決定された。

ミトフェーらに隣接する国家は国境部に軍を集めて守りを強化することが許可された。


 一方のヴィロンは、自国に連絡を試みたが失敗に終わったとのことで何の反論もすることはなかった。

結果的に彼はミトフェーラへの1年間の穀物類を含む全ての輸出禁止措置の書類にサインせざるを得なかった。

あの国は魔道具が発展している一方で農業は盛んではなく、主食のパンの材料となる小麦は隣国のフリーデン連立王朝からの輸入に依存していた。


 まぁそれらの制裁の一環でイレーネ軍が大陸に展開することは許容された。

今後は各部隊がヴェルデンブラントとゼーブリックの間の山間部や、ゼーブリックに広がる平野での戦闘練習を行うことになっている。

既にワトソン級車両輸送艦は出港準備を整えていた。


「では行ってまいります、司令」


「あぁ、学生たちを頼んだよベルント」


 俺はエイブラムスに乗って陸軍基地を出発するベルントたちを見送る。

港についた彼らは次々と車両を格納し、自身も艦で大陸へ輸送される時を待った。

全ての積み荷を積み終えたワトソン級はゆっくりとイレーネ湾を出港し、ブルネイ泊地目指して海を進み始めた。





「よしよし……できたよぉ」


「何がですか? エーリヒ様」


「これさ、見ててほしいなぁ」


 ユグナーの手に落ちたエーリヒであったが、いつもと変わらず魔道具開発に勤しんでいた。

彼はユグナーからビスマルクを捕り逃したことについてひどく叱責されたが、なんとかかんとか理由をつけてその怒りを別の方向に反らせることに成功した。

そんな彼は手元にあったスイッチを押す。


 コォォォォ――!!


 大きな音を立ててエンジンが火を吹く。

だがそれは焼き付いたレシプロエンジンの火ではなく、燃料が燃焼する炎であった。

エーリヒはロケットブースターの開発に成功したのであった。


「すごいじゃないですかこれ、どうやって作ったんですか?」


「簡単な話だよ、これを拡大して作ったんだ」


 エーリヒはそう言って小さな機械を持ち出す。

それは射出座席の射出用固体燃料ロケットモーターであった。

彼かそれを拡大してエンジンとしたのであった。


「よし、今度はこれを搭載した戦闘機を作るよぉ!」


「はっ!」


 エーリヒたちは再び忙しそうに図面を描き始めるのであった。


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