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第193話 穴の空いた不落の壁

 西海海上、第一機動部隊はミトフェーラ魔王国めがけて全速力で駆け抜けていた。

俺は途中で艦隊と合流し、バージニアに乗艦していた。

暗い海の中をバージニアは30ノットで進んでいく。


「司令、目標地点にまもなく到達いたします」


「了解、浮上せよ」


 バージニアはゆっくりと浮上し、海面に顔を出した。

外は海と同じく真っ暗な夜であった。

バージニアは海面に浮上しながら進む。


 今回の作戦は、ユグナーに精一杯バレないように夜間に行うことにした。

既に休眠から目覚めたベアトリーチェとは連絡がついており、後は実行に移すだけとなった。

その一環でニミッツからはMH-60Rが既に飛び立っていた。


 今回の作戦の全体をまとめるとこんな感じだ。


①B-52Hが上空に侵入、大型地中貫通爆弾のGBU-57Bで『ジェリコの壁』に穴を開ける。

②開いた穴からベアトリーチェが脱出する。

③脱出地点で待っていたMH-60Rがベアトリーチェを載せて艦隊の方へ帰還する。

④帰還したMH-60Rはベアトリーチェをバージニアに届ける。

⑤バージニアとその他の艦は別々にイレーネ島へと帰港する。


 以上が今回の計画だ。


 今回重要なのは『バージニアで輸送する』ということだ。

なにせ海上には敵艦隊がうじゃうじゃいるため、もしかすると砲撃戦に巻き込まれてしまうかもしれない。

そこで絶対に水上艦に絡まれない潜水艦が採用された。


 海中にはクラーケンが出現する可能性があるが、クラーケンよりもバージニア級は脚が速いので全速力でクラーケンから逃げ回れば問題はない。

もし追いつかれたとしても重魚雷で追い払えば問題はない。

まぁ結局はバレないように無事に逃げればいいということだ。


「司令、時間です」


 バージニアの艦長が俺に告げる。

俺は彼に言われて腕時計を見た。

さぁ、ベアトリーチェ奪還作戦開始の時間だ。


 上空に飛来したB-52Hはその爆弾倉からGBU-57Bを1発投下した。

投下された爆弾は目標とする地点へと狂いなく落ちていく。

そしてそれの先端がジェリコの壁と衝突した時、壁はミシミシと音を立てて崩壊、GBU-57Bの侵入を許した。


 ドォォォン!!


 だが一方で、GBU-57Bも壁を貫通することはなく、その場で爆発した。

爆発の勢いでそれが開けた穴よりも大きな穴がぽっかりと結界に開いた。

その穴からあらかじめ控えていたベアトリーチェは外への脱出に成功する。


 そしてその先でベアトリーチェは待っていたMH-60Rに乗り換えた。

MH-60Rは彼女を乗せると、離陸した後は敵からの反撃を恐れて低空を高速で飛行する。

とはいってもその上には護衛のF/A18Eがいるので多少は安心であった。


 そしてMH-60Rが作戦のちょうど半分ぐらいの距離を飛行し終えた後、ミトフェーラの防空隊が発進した。

だが既に彼らの敵の姿はそこになく、もうジェリコの壁の外、かなり離れた場所にあった。

それに気が付かない防空隊は必死になって壁の中を探し回るのであった。


 何とか敵の目をかいくぐったMH-60Rはバージニアの上でホバリングし、ベアトリーチェを艦内に送り届けた。

その後MH-60Rは母艦であるニミッツへと帰還し、バージニアはハッチを閉めて深度400Mへと急潜行を行った。





「ベアトリーチェ、大丈夫か!?」


 バージニアの食堂を一時的に医療室へと改装した中にベアトリーチェが運び込まれてきた。

俺はベッドの上に横たわってぐったりする彼女に話しかける。

彼女は薄く目を開けると、少し笑って言った。


「遅いぞ、我が旦那よ」


「いつの間に旦那になったんだ……すまない、助けに来るのが遅れて」


「構わん、こうして今喋れておるのじゃからな」


 そう言ってベアトリーチェは笑うが、傷口が痛むのであろう、彼女は顔をしかめた。

担当の軍医たちは早速彼女の手当に入ろうとした。

そしてまずは輸血をするために何の血液型であるか調べようとした。


「えぇと、血液型は……AB型のRH−だって!?」


 その言葉に軍医たちは動揺した。

RH−とはRhの因子を持たない血液型のことで、少数の人間のみが保有している稀な血液型だ。

日本においてAB型の割合は約7%、そこにさらにRh−の存在する確率が日本では2%程なので単純計算でAB型のRh−が存在する確率は0.14%となる。


 そんな血液型の輸血用の血など急な出港で準備できておらず、現場は大パニックになった。

だがベアトリーチェは運が良かった。

実は俺の血液型もまたAB型のRh−なのだ。


「俺が血液を提供しよう。俺も同じAB型のRh−だ」


「司令、それは本当ですか!?」


「あぁ、それにここ最近は酒も飲んでいない、もちろんタバコなど吸っていない、問題ないと思うけど?」


「えぇ、もちろんです。では早速」


 俺は左手の袖を捲し上げ、腕を露出させた。

軍医は皮膚を消毒液を染み込ませた脱脂綿で軽く拭った。

そしてそこに針を差し込む。


 本来はきちんと採血した後パック詰めした血液を使うのだが、今回は仕方がなく直接輸血する形になる。

輸血しても血液が抜けていってはいけないので、止血はきちんと済ませた。

ベアトリーチェにも同様に管が取り付けられ、俺の血液が管を介して彼女の体内に入っていく。



 ――どのぐらいそのままにしていたであろうか。

俺はずっと血をベアトリーチェに送り続けていた。

彼女に1.2Lほど輸血したところで、今度は俺が危なくなるからと輸血は止められた。


 俺はかなりの量の血が抜けたため頭痛を起こし、そして意識も少しあやふやになっていた。

調理係が大量のチョコレートを持ってきてくれたので、俺はそれらを何も考えず口に放り込んでいた。

そしてめまいもするので俺はバージニアのベッドに横になった。


「ありがとうルフレイ、妾の旦那よ」


「さっきも言ったが誰が旦那だ」


 俺はそう良い、少し眠りについた。

ベッドの上で管を大量に繋がれたベアトリーチェはそんな俺の横顔を見る。

そして少し笑い、天井を彼女は向いた。





 イレーネ島に無事帰還したバージニアから俺は降り、少し病院に入院していた。

ベアトリーチェも同じく入院しているが、2人とも貧血の症状が如実にあらわれていたからだ。

そんな俺たちの周りの世話をオリビアやイズンは毎日欠かさずやってくれた。


 そして時には見舞いが来てくれることもあった。

特にロンメル大将はよく生徒たちの自慢をしていった。

一緒に来ていたルーデル大将はまだA-10に乗らせてもらえないことを若干不満に思っていたようだが、天山に乗ってみないかと言うと早速俺の許可証とともにミッドウェイの方へと走り去っていった。


 結果的にこちらの被害はビスマルクが小破、敵の被害は戦闘艦ゼルクが轟沈、同アーデルが小破、帰りがけの駄賃にと一航戦に撃沈されたフォルク、そして撃墜されたガーゴイルとIS-1A多数という結果で終わった。

入院から開けた俺はベアトリーチェから得た情報をもとに対応策を講じるのであった。




―――

余談ですがAB型のRH−は私の血液型です(決して主人公と自分を重ねているわけではありません)

ぜひ「そういう血液型もあるんだなー」って知っていてください。

あと献血にはぜひ行きましょう。


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