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第192話 ベアトリーチェ救出作戦

 5月24日22:10。

西海上のプリンツ・オイゲンからビスマルクが敵艦隊と交戦しているという情報が入った。

俺はちょうど書類仕事をしていたので、持っていたペンを落としてしまった。


「は? ビスマルクが交戦? 誰と?」


「はい、ビスマルクは現在ミトフェーラの艦隊と交戦しているとのことです」


「ミトフェーラだと!? まさか戦争をおっぱじめようとでも言うのか!?」


「いえ、連盟にて義務付けられた宣戦布告は受けておりませんが……」


 俺がそう聞くが、伝えに来たオリビアは首を振った。

ミトフェーラめ、何がしたいというのだ。

もしやロキが復活したとでも言いたいのか?


 とりあえずはビスマルクの戦況確認だ。

俺は部屋を出て海軍省に行くため、宮殿内を歩いて770のガレージに向かう。

それにオリビアは一緒についてきた。


 俺はガレージから770を取り出し、オリビアと一緒に乗り込んだ。

そしてそのまま海軍省の建物へと770をとばす。

道中国民に手を振られたが、振り返している暇はないのでそのままハンドルを握って海軍省に向かう。


 海軍省の建物の前についた俺は770を降り、門をくぐって建物の中へと入った。

海軍省の中はビスマルクの交戦で慌ただしくなっていたが、気の利いた兵士が俺を会議室へと案内してくれた。

会議室に着き、敬礼と答礼を終えた俺は早速海図をみる。


「ここが現在ビスマルクがいると推定される場所です」


 ハルゼー大将は海図の一か所に赤いピンを打つ。

そして敵の艦隊がいる場所にもピンが打たれた。

その時、海軍省にゼルク撃沈の報が入った。


「やったぞ! 敵艦を撃沈した!」


 ハルゼー大将はそう言ってはしゃぐ。

だが俺はこの自体をかなり悪く捉えていた。

ヘタをすればこのまま戦争に突入することになりかねない。


「オリビア、ミトフェーラの魔王のベアトリーチェに連絡してくれ。どういうつもりかと聞きただすんだ」


「わ、わかりました!」


 オリビアはそう言ってポケットから携帯式魔導通信機を取り出す。

それで彼女はベアトリーチェとの通信を試みた。

だが彼女がその通信に出ることはなかった。


「くそっ、何も言わずに宣戦布告か? それともロキによる国家転覆か? いや、待てよ……確かベアトリーチェに通信用の指輪を渡したはずだ、それを使えば今どうなっているのか聞き出せるかもしれない」


 だが俺はその指輪にどう通信をかけられるのか知らなかった。

そこで俺はオリビアに頼み、イズンを連れてきてもらうことにした。

オリビアは俺が乗ってきた770に乗って宮殿へと帰る。


 その間俺はビスマルク救援のための艦隊を派遣することを決定した。

派遣する艦隊は現在アルマーニ海で訓練をしている第一機動艦隊だ。

彼らには今すぐに現地へと赴くように指示した。


 そんな事をしている間にイズンが海軍省に到着した。

俺は早速彼女にどうすればベアトリーチェと対話ができるのかと聞いた。

すると彼女はポケットから対となる指輪を出して言った。


「まずはこれを付けて、そして相手の指輪を思い描くの。そうすれば勝手につながるわ」


 本当かよ、と半信半疑になりながら俺は指輪を指にはめた。

そして俺は心のなかでベアトリーチェの指にはめられた指輪を思い描いた。

すると驚くべきことに本当に彼女と脳内で対話が可能な状態になった。


『ベアトリーチェ、ベアトリーチェ!』


『うぅん……なんじゃ、この声は……』


『俺だ、ルフレイだよ』


『ルフレイ……あぁ、そなたであったか……』


 ベアトリーチェの声はところどころかすれ、元気がなかった。

あのときに会った彼女とは全くと言っていいほどの別物に聞こえた。

やはり何かあったのか、と思った俺は彼女に質問を投げかける。


『何かあったのか、あったなら聞かせてくれ』


『うむ……恥ずかしい話だが兄のユグナーにしてやられてな……何かを取り込んだと言っておったが、妾でもどうしようもないほどの圧倒的な力であった……』


『何かを取り込んだ? 何と言っていた?』


『なんと言っていたか……そうじゃ、ロキと言っておった』


 ロキ!

その名を聞いた俺と、横にいたイズンはその名に顔を強張らせる。

何も聞こえていないオリビアはただ不思議そうに眺めていた。


『で、今ベアトリーチェは何をしているんだ? 無事なのか?』


『今は魔王城から少し離れた洞窟の中で身を隠しておる。出血がひどくてのぉ……空に張られた結界を自力で壊して脱出することは不可能そうじゃ……』


『結界?』


『そうじゃ、とはいっても古代遺跡の遺物じゃから妾たちの頭では理解できん代物じゃ』


 ベアトリーチェの言う通り、魔王城を中心として結界が張られていた。

それはかつての古代人が作り上げた防衛設備であった。

これを作った古代人はこの結界を『ジェリコの壁』と呼んだ。


『分かった。では今から助けに行くからしばらく安静に待っていてくれ』


『助けると言ったって、どうするつもりじゃ?』


『俺たちがまず外側からジェリコの壁に穴を開けるからベアトリーチェはそこから脱出して欲しいが……出血がひどいと言っていたがどれぐらいなんだ?』


『うむ、少し飛ぶぐらいならできるぐらいじゃ』


 そうは言っても出血している以上早期の救助が求められる。

だが今から派遣するとなると最低でも4日以上はかかることになってしまうが……

そんなに悠長なことをしているヒマはない。


『ベアトリーチェ、残酷なことを聞くが後何日ならもつ?』


『……もって2日と言ったところじゃな。じゃが一時的に休眠に入れば2週間ほど延命することは可能じゃ』


『休眠?』


『そうじゃ、休眠は我が魔族に備わる特異な性質で、一時的に体内の活動をすべて停止させる事により死を伸ばすことができるのじゃ』


 そんな方法はあまり取ってほしくないが、あと2日しか持たないとなると四の五のは言っていられなくなる。

ベアトリーチェに休眠に入ってもらうようお願いするしかないな。


『ベアトリーチェ、本当にすまないが……』


『休眠に入れば良いのじゃな?』


『あぁ、これは君を助けるためだ。1週間、どうかお願い……』


『分かっておる。1週間じゃな? 迎えを期待しておるぞ、未来の旦那様』


 そう言って通信は終了した。

さて、急いでベアトリーチェの救出に取り掛からねばな。


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