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第191話 ビスマルク追撃戦

 革命の翌日、新たに魔王に就任したユグナーは家臣たちにとある命令を下した。

それは来たる戦争に備えた軍備の拡張計画案であった。

この際担当となったのはエーリヒであった。


 エーリヒはその技術力をユグナーから買われていた。

エーリヒは以前までと同じく魔道具は大好きであったが、その心は既にロキに握られている。

そんな彼はユグナーにこんな提案をした。


「うーん……最近こちらに近づいてきているイレーネ帝国の艦があります。それを鹵獲するのはどうですかぁ~?」


「イレーネ帝国の艦? どのような艦だ?」


「練習艦と言って学生たちが遠洋航海の練習を目的にした船らしいですがぁ、武装は我が国の最新戦艦よりも勝っているとのことですー」


「ほう、それは気になるな。では鹵獲してみろ」


「分かりましたぁ」


 こうしてエーリヒを中心とし、ビスマルクの鹵獲作戦が立案されるのであった。





 5月24日20:30、大海原を航行しているビスマルクの対水上電探が10隻ほどの艦隊を捉えた。

艦隊はビスマルク等2隻のいる方角へと直進してくる。

ビスマルクの艦内は突然の艦影の出現に動揺していた。


「落ち着け、うろたえるな!」


 艦長のリンデマン大佐はうろたえる学生たちを制止する。

彼らはリンデマン大佐の活を聞き、ようやく平静に戻った。

艦長である彼はうろたえる学生たちを艦橋から追い出し、元いた乗組員たちだけで艦橋内を固めた。


「あの艦影はおそらくミトフェーラの物であると思われます」


 乗組員のうちの一人がリンデマン大佐に報告する。

彼はその報告に同意を示した。

彼らは特に知らされてもいない艦隊の出現にどう対処するべきか思案する。


「我々は艦隊が迎えに来るなど聞いていないのだが? あれははたして迎えなのであろうか」


「迎えであるのであれば事前に通告するはずです。サプライズでない限り」


「ミトフェーラは司令からも警告するように言われていた国家だ。その艦が近づいてきているとなると……」


「まさか戦闘に!? いや、宣戦を布告しない中での戦闘など……」


 彼らは様々な意見を出し合い、結論を導き出そうと努力する。

だがいくら考えても結論を出すことは出来なかった。

ただ一つ言えることは、この間にもミトフェーラの艦隊は接近しているということだ。


「あれが敵意を持った艦隊だとは断定できない。だがもしもそうであった場合生徒たちが危険にさらされることになる。それは絶対にあってはならない」


「ではどうしますか艦長」


「……生徒たちを全員随伴艦のプリンツ・オイゲンに移乗させろ、移乗が終わればプリンツ・オイゲンは海域を離脱、イレーネ島に帰港させろ。その間我がビスマルクは敵艦隊を単艦で引き付ける」


「ライン演習作戦の時のようなことをすると?」


「そうだ、分かったならば全生徒の移動を開始させろ」


「「「「はっ!」」」」


 こうして命令が出され、生徒たちは皆プリンツ・オイゲンに移乗した。

全員の移乗を確認したリンデマン大佐は、プリンツ・オイゲンに別れを告げた。

ビスマルクは敵艦隊の方へと針路をとり、プリンツオイゲンはイレーネ島へと針路をとる。


 同日夜22:00、ビスマルクはミトフェーラの第一艦隊の射程圏内に入っていた。

第一艦隊は新型艦の『シュナイザー級』が1隻配属されており、その射程は従来の物よりも伸びて25kmとなっていた。

第一艦隊の艦は電探の測量結果をもとにビスマルクに照準を定めた。


 22:05分、シュナイザーより初弾が発射された。

発射された砲弾はビスマルクの1km先に着弾する。

その着弾を見てリンデマン大佐は自分の判断が正しかったと確信した。


「あれは敵だ! 応戦するぞ!」


「国際法違反だろ~!!」


「うるさい、この世界に国際法などないのだ!」


 リンデマン大佐はそう言って砲撃を指示した。

ちょうどその時、敵艦からサーチライトが照射され、ビスマルクは光のうちにさらけ出された。

だが敵艦も自身の発する光によって居場所を分かりやすくしていた。


「主砲、1番2番、てぇーっ!」


 リンデマン大佐の号令に合わせ、主砲が発射された。

主砲弾はシュナイザーに後続する随伴艦の『ゼルク』めがけて飛翔する。

そして砲弾は運よくゼルクの弾薬庫に命中した。


 ドォォォォン!!!!


 大きな音を立ててゼルクの船体後部から炎の柱が立ち上がる。

ゼルクはそのまま中央から真っ二つに割れて沈没し始めた。

沈没にかかった時間は約8分、それだけの時間でゼルクは海中に姿を消した。


 ゼルクを撃沈されたことに焦った第一艦隊の艦たちは、ビスマルクに向けていたサーチライトをメルクの乗組員を助けるために海上に向けて捜索を始めた。

その隙を見てリンデマン大佐は南に90度転進するように指示を出す。

だが一部の乗組員はそれに反対した。


「なぜですか。敵艦隊は味方の救助に明け暮れている、それに自身の居場所をさらけ出している。今沈めずしていつ沈めるのですか?」


「いいか、よく考えろ。確かに敵艦は撃ってきたし我々はそれに応戦した。だが我々は戦争をしているわけではないのだ。これ以上は自衛の範囲を超える。それにビスマルクは練習艦だ、搭載している弾薬も少ない。今後に備えておいた方がいいだろう。分かったら転進したまえ」


「分かりました。とーりかーじ、いっぱい!」


 ビスマルクは艦首を西から南へと向け始める。

そのままビスマルクは南への転進に成功、第一艦隊の索敵範囲内から抜け出すことに成功した。

その後ビスマルクは再び針路を西に戻し、その後北へと転進した。


 翌日5月25日03:00、北に転進しているビスマルクをたまたま近くを航海していたミトフェーラ第三艦隊の艦がレーダーでとらえた。

ビスマルクを捉えることのできた時間は短時間であったが、これによりビスマルクの大まかな位置は把握された。

怒りに燃える第一艦隊の各艦はビスマルクを拿捕そっちのけで追跡し始めた。


 同日10:30、第三艦隊の捕捉情報をもとにビスマルクを捜索していたIS-1B複座戦闘機が、針路を東に向けて転進し終えてイレーネ島に向かっているビスマルクを発見、触接を開始した。

第一艦隊と戦闘を行った場所よりはかなり東に移っていたが、ミトフェーラの各艦隊はビスマルクを必死で追跡した。


「艦長、このままの針路でいけば燃料は足りますが、もし転進でもしようものならイレーネ島への帰還用の燃料が足りなくなります」


「了解した。このまま戦闘が起きなければ良いのだが……」


 リンデマン大佐は艦橋でパンを頬張りながら空を眺めて言った。


 同日14:40、ビスマルクよりも南を事前に航行していたミトフェーラ空母軍団がIS-2Bの触接情報をもとに艦載しているガーゴイルを発艦させた。

ガーゴイルはビスマルクをめがけて飛行していたが、道中単艦で航行していたミトフェーラの戦闘艦『アーデル』をビスマルクと誤認して降下、遠距離から攻撃した。

だがそれが味方の艦だと悟った彼らは一度母艦へと帰投していった。


 さらに15:10、空母軍団は第二次攻撃として残っていたガーゴイル合わせて200騎を第二次攻撃隊として発艦させた。

今度こそガーゴイルの針路に狂いはなかった。

彼らは16:45にビスマルクの上空に到達する。


「艦長、敵機を捕捉しました! その数200!」


「全力で叩き潰せ! 何としても撃墜しろ!」


 リンデマン大佐はそう叫んだ。

ビスマルクの左舷に搭載されている10.5cm連装高角砲が空飛ぶガーゴイルに向かって発射される。

発射された砲弾は空中で炸裂し、正方形の陣形を組んでいたガーゴイル隊の陣形に穴をあけた。


 だが数で押すガーゴイル隊はその穴を埋めなおし、ビスマルクに接近していく。

ビスマルク側も必死の応戦を行い、次々と敵を撃沈していった。

だが燃料不足によって回避運動ができないビスマルクはその横っ腹を敵にさらけ出していた。


「敵艦至近! 何かをチャージしています!」


「機銃でおとせぇー!!」


 対空要員は叫びながらガーゴイルを狙うが、10騎程のガーゴイルが残ってしまった。

ガーゴイルは一斉に口から炎を吐く。

吐いた炎はビスマルクの左舷に命中し、左舷は火の海になった。


「火を消せ! 早く!」


 甲板要員たちは必死で左舷の火を消そうと努力する。

その努力の結果もあって火は段々と鎮火されていった。

だがその時、ビスマルクを激しい衝撃が襲う。


「! なんだ、何が起こったんだ!」


「左舷の高角砲が爆発した! 弾薬庫に火が回ったんだ!」


「どうやら弾薬庫の防火扉が開きっぱなしだったらしいぞ」


「マイティーフッドと同じじゃないか! 一体デンマーク海峡海戦で何を学んだんだ!」


 ビスマルクの左舷前方から見て二番目に位置する高角砲が誘爆、爆発を起こした。

高角砲のカバーは上空に吹っ飛び、そこからは黒煙が噴き出す。

その火をまた甲板要員たちは必死に消すのであった。


「艦長! 左舷に攻撃が命中、火災を起こしています! それとともに高角砲が爆発した模様です!」


「くそっ、こんなときに航空機の援護があれば……」


「艦長! 後方に敵艦隊が現れました! その数9!」


「追いつかれているだと……? このビスマルクが?」


 リンデマン大佐は驚いた。

まさか敵艦が高速のビスマルクに追いつけるとは思ってもいなかったのだ。

だが電探に映っている以上、嘘ではなく確実に追いついてきている。


「艦長!」


「今度はなんだ!」


「北から敵の航空機が接近中! それと東からも!」


「北はいいとして東だと!? 味方か!」


 ビスマルクのさらに東に150kmの地点。

アルマーニ海で訓練を行っていたニミッツ等第一機動部隊は帰還してくるプリンツ・オイゲンの無線を受信、ビスマルク救出のために全速力で西へと進んでいた。

近づいてきた彼らは艦載機を発艦させ、ビスマルクに向かって飛行させていた。


 19:10、ビスマルクの直上にF/A18Eが30機到着する。

これらの機体の垂直尾翼には、空を飛ぶガルーダと狼、サソリと狼が描かれていた。

一航戦所属のガルーダ隊とスコーピオン隊の機体であった。


 これらの機体は近づいてくるIS-1A単座戦闘機を次々と撃墜した。

その後ビスマルクは第一機動部隊とすれ違い、イレーネ島に帰還する。

翌日の5月27日にビスマルクはイレーネ湾に帰投、ドッグ入りした。



――おまけ――

ビスマルクの航路図を近況ノートに画像で載せておきます

良ければそちらも見てください


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