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第103話 西部方面軍、出撃す

「久しぶりだな、司令官」


「あぁ。別働隊の仕事、ご苦労であった」


 本隊と別働隊は峠を越えた地点で合流、部隊を再編成していた。

ベルントたちとも再会した俺は彼ら別働隊の隊員をねぎらっていた。

そして俺たちは次の攻撃に向けて心の準備を始める。


 そうしている間にも百式司偵やRQ-4からの偵察情報は続々と届いていた。

ヴェルデンブラントの本国軍に未だ動きは見られていないとのことだ。

今のうちに強襲をかけるのが吉かもしれないな。


 だがゼーブリックとヴェルデンブラントの国境には森が生い茂っており、ルクスタントとの間ほどではないがかなり通行が難しくなっている。

それは相手側も同じで、きっと進軍にはかなり苦労していることであろう。


 だが森であろうと戦車部隊を止めることは出来ない。

アルデンヌの森と同様、自然の要塞への過度な信頼は身を滅ぼすのだ。

この森を俺は戦車で突破しようと画策している。


 だが今は少し休んだほうが良い。

航空部隊が見つけた敵の拠点を破壊しに行くらしいし、別働隊の疲れを取るためにも休憩してもいいだろう。

俺たちは少し進軍の足を止めるのであった。





 同日、ヴェルデンブラント、ゼーブリックの国境付近のグリュンヴァルト城塞。

西部方面司令官のシュトラッサーは悶々とした日々を過ごしていた。

彼のもとにはゼーブリック王国が陥落したとの情報が入っていたが、未だ出撃を命じられることはなかった。


「あの腰抜けインテリ共が……敵はすぐそこまで迫りつつあるというのになぜ出撃命令をくださないのだ!」


 シュトラッサーは実質的に軍を指揮する権利を掌握しているしている王国内政派の人間に腹を立てていた。

確かにヴェルデンブラント軍は強力だが、そういう面では腐敗している所もあった。

彼はそんな腐りきった内政派が嫌いだった。


 そうしてシュトラッサーが椅子に座ってため息を付いていると、部屋の扉がノックされた。

入るように彼が促すと、手に紙を持った兵士がひとり入ってきた。

彼は一礼すると、手に持っていた紙に書かれている内容を読み上げた。


「参謀本部通達。西部方面軍はグリュンヴァルト城塞にて籠城し敵部隊を誘引、援軍に来る東部、北部方面軍と合流し共同で敵部隊を撃滅すべし。なおこの作戦を牙狼作戦と呼称する」


 牙狼作戦、なんと響きの良い作戦名であろうか。

だが実際には敵部隊からの攻撃を受ける可能性の高いグリュンヴァルト城塞に敵を留め続けることができるのかどうかはシュトラッサーにとって不明であった。

それに北部や東部から援軍がくるというが、それも何時になるのか分からない。


「なんなのだそのふざけた作戦は、現場を知らないからそんなよく分からないことを平気で命令できるのだ。この城塞に籠もり続けるぐらいなら攻勢に出たほうがよっぽど良いわ!」


 シュトラッサーはあまりにも稚拙な参謀本部の命令に嫌気が差した。

彼は兵士から伝言の紙を奪い取るとそれをビリビリに引き裂く。

そして彼はその兵士にこう告げた。


「今すぐに城塞内の軍を武装した状態で広場に集めろ。いいな!」


 兵士は頷くと早速部屋を出て兵士たちを呼びに走る。

シュトラッサー自身も立てかけてある鎧や剣を身に着けた。

そして準備の整った彼は城塞内の広場へと歩いていった。



 広場に集まった歩兵から騎士までの様々な身分の兵たちをシュトラッサーは眺める。

彼は兵たちを見ながら備え付けられている演壇へと登った。

彼が上がったことを確認した兵たちは黙って彼を見つめる。


「先ほど参謀本部より通達が入った。内容は我々がこのグリュンヴァルト城塞に籠城、味方の援軍を待ってから敵部隊を殲滅せよという旨のものであった」


 シュトラッサーの言葉を聞いた兵たちは一瞬シンとなる。

だが瞬時に彼らからは非難の声が上がった。

彼らは口々に命令を無視して攻勢に出ろとか、参謀本部は何をしているのだとの声を上げる。


「君たちの言いたいことはよく分かる……そこで私は一つの大きな決断をした」


 広場の中の兵たちからつばを飲み込む音が発せられる。

シュトラッサーのこれから発言する一言で全ては決まる。

彼らはその一言を、シュトラッサーから発せられる運命の一言を待ち望んだ。


 一方のシュトラッサーもつばを飲み込む。

彼も自分の決断が正しいのかどうかまだ迷っていた。

だが彼はついに意を決して口を開く。


「これより我々西部方面軍はこの城塞を出撃、敵部隊に攻勢を仕掛けるべく西進する!」


 その言葉に広場中から拍手と喝采が起こった。

シュトラッサーはその音を聞いて自分の決断は間違っていなかったと分かりホッとした。

そして西部方面軍は出撃の準備を急ピッチで進め、準備のできた部隊から続々と出撃していく。



 出撃し終わった西部方面軍は西進、国境沿いに分布する森のあたりにいた。

今回出撃した兵の数は合わせて5万、その部隊が敵を求めて進軍する。

そして部隊はいよいよ森越えに乗り出そうとしていた。


「全軍隊列を解き、小隊単位で固まって森の小道を踏破せよ。森を抜けた後は全軍集合、敵部隊を殲滅する」


 シュトラッサーの言葉で隊列は解かれ、小隊単位で森の小道に踏み入っていく。

シュトラッサー等騎馬部隊は歩兵たちが森に入りきったことを確認し、最後に小道に入っていった。

だが進もうとすると、1つの部隊がもたついているのを発見した。


「おいそこ、ちゃっちゃと進軍しろよ」


 声をかけられた歩兵たちはかしこまって急いで森に入ろうとする。

だが彼らは対空砲を曳いており、重たそうであることは確実であった。

そんな彼らを見たシュトラッサーは馬から降り、歩兵たちの持っている綱を手にった。


「ほら、こうすれば楽であろう? お前たちは後ろから押していれば良い」


 なんと彼は自分の愛馬に綱を繋いだ。

そして彼は馬に戻り、愛馬に対空砲を牽引させた。

そしてそれまで曳いていた歩兵たちは対空砲を後ろから押してサポートする。


 ゴォォォォ……


 そんな彼らの上に不気味な音が響いた。


「なんだ、なんの音だ?」


「敵かもしれん、対空砲の準備をせよ」


 シュトラッサーは対空砲に攻撃の準備を命じた。

だがここは森の中、木々に遮られ十分な射角を得ることは出来なかった。

そんな彼らの上を不気味な音が通り過ぎていった。


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