ルフレイたち本隊と別働隊が合流する少し前。
再びゼーブリック王都付近の飛行場では爆弾を装備した航空機たちが列をなして離陸していた。
彼らはヴェルデンブラントとゼーブリックの国境付近の城塞を攻撃目標としている。
Do-217今回も変わらずフリッツXを装備、城塞の城壁を貫通して内部にダメージを与えることが目的だ。
P-38LにはAZONと呼ばれる小型の誘導爆弾が取り付けられている。
この爆弾を用いて敵の対空砲を無力化する作戦だ。
AU-1は前回と同様の1t爆弾にロケット弾という組み合わせだ。
AU-1は対人攻撃を主眼においている。
それぞれの用途の異なる航空機たちは一路敵の城塞を目指して飛行する予定だ。
道中は敵の迎撃に合うこともなく航空機たちはやすやすとヴェルデンブラントの領空に侵入した。
目標の城塞は森を抜けた直ぐ側なので、編隊は高度を上げる。
それぞれの爆弾の投下最適高度に上昇した航空機は、一斉に爆弾を投下した。
フリッツX、AZON共々母機の誘導に従って降下していく。
それぞれの爆弾の引くフレアは空を色鮮やかに彩った。
だがその色とは裏腹に破壊的な威力の爆弾は目標に正確に落ちていく。
爆弾は母機の誘導に従って目標に着弾した。
フリッツXは城壁を貫通して爆発、城塞は音を立てて崩れ落ちた。
AZONも大多数が命中しなかったが一部は命中、対空砲を破壊した。
しかしまたしても敵兵は城塞にはいなかった。
彼らは敵兵がいないかどうか念入りに索敵した後、諦めて基地に帰投した。
だが爆弾は重しになるだけなのでAU-1は搭載している1t爆弾を崩れ落ちた城塞に投下した。
1t爆弾が爆発する中、ひときわ大きな爆発が地上でおきた。
この爆発は対空砲用に貯められていた魔石が衝撃で爆発、他の魔石も連鎖して爆発したからである。
そして廃墟となった城塞からは炎が立ち上った。
◇
ヴェルデンブラント、ゼーブリック国境付近。
俺たちはそろそろ出発しようかという段階に入っていた。
あちらこちらに散らばっていた荷物を1つにまとめ、何時でも出発できるように荷造りをする。
早い目から荷造りをしていた俺はやることがなくなってその辺をブラブラしていた。
だがそうしているときに俺はまた突発的に思った、いやまた思ってしまった。
どうしてこんなに戦争をしているのか、その本質とは何かと。
イズンから託されたこの力。
この力はこの世界に平和をもたらすために、そう思ってこれまで力を行使してきた。
そこには何の疑いもなかった。
だが俺は腐っても日本人だ、やはり戦争というものに対する耐性がない。
俺は今この戦争に対する目的を見失いつつある。
いけない……軍を指揮する立場の人間がこんなに弱気では……
「司令官、どうかなさいましたか?」
「あぁベルント……すまない、ちょっと考え事をしていてね」
「その考え事、私にも話していただけないでしょうか。吐き出せば少しは楽になるかもしれません」
ベルントが心配そうに話しかけてきた。
部下の前で弱気になる上官などいけないものだ、だが今は……
話してみたほうが楽になるかもしれないな。
「実は今、俺はこの戦争の意義を見失いつつあるのだ……」
俺がそう吐露すると、ベルントは腕を組んで考え込んだ。
そして彼は目を開き、俺にこういってきた。
「戦争の意義、それは中々に難しいものでありますな……ですが司令はイズン様から託された、世界の紛争を止めるという命を遂行している。ならばその命こそがこの戦争の意義ではないでしょうか。それでも納得できないのでしたら、なにかこの戦争の標語のようなものでも作ってみてはいかがでしょうか」
確かにこの戦争はイズンから命じられた、世界の紛争を止めるという命の元に成り立っている。
だが自分が戦争をしているのであれば意味がないのではないかとも思ってしまう。
そんな考えを打ち払うためにも言われた通り標語を考えてみようか。
だがそうは言ってもなかなか標語など思いつかないものだ。
俺は必死に頭を捻って自分の思いに一番合いそうな標語をひねり出そうと考える。
すると、自然と記憶の片隅から1つの言葉が舞い降りてきた。
「八紘一宇……」
八紘一宇。
戦前の日本で一躍大流行した言葉で、全世界の人間が分け隔てなく平和に暮らすことを願った言葉である。
俺の願いと八紘一宇の大理想はぴったりと一致していた。
「決めた。これからの我が軍、そして我が国の標語は『八紘一宇』だ。この世界に我が国は永遠の平和をもたらすために戦争を行う」
「ご立派です。その思いはきっと成就することでしょう」
ベルントは俺が少し元気を取り戻したことに安心しているようだ。
そして俺の掲げた標語はベルントにも賛同を得た。
そうと決まれば早速……
俺は【統帥】スキルを使用し、『八紘一宇』と書かれた旗を取り出した。
俺はその旗を持って空高く掲げる。
旗竿の先端に取り付けられた金の玉が陽の光を受けてキラキラと輝いた。
心がなんだかスッキリした俺は意気揚々と旗を掲げ、自軍陣地に戻った。
戻った俺は自分の搭乗するエイブラムスに八紘一宇の旗を掲げる。
風に吹かれた旗はヒラヒラとはためいた。
「よし、全車エンジン始動。これよりヴェルデンブラントの攻略に乗り出す!」
俺の号令とともに全車エンジンを始動、出撃の準備が整う。
そのまま全車は1列になって森の小道へと入っていく。
小道の端には木々が鬱蒼と生い茂っており、葉っぱのせいで空は殆ど見えなかった。
そのまま3時間ほど部隊は前進、日も落ちてきたので各車両はライトを点灯させた。
部隊は日が落ちようとも進軍を続ける。
そして途中のカーブを抜けたときであった。
「まった、全車停車!」
俺はカーブの先に想定外のものを見つけた。
それは航空隊が発見できていなかったヴェルデンブラント軍の部隊であった。
まさかこんなにも狭い場所で出くわすことになるとはな。
彼らもこちらに気づいて足を止める。
俺たちとヴェルデンブラント軍は距離100Mほどでにらみ合うことになった。
だがこちらは1列縦隊、正直戦うとなるとこちらにかなり不利な状況だ。
「おい、間違っても撃つなよ。味方に当たりかねん」
俺は後続の車両対して射撃を禁止するように求めた。
そうしている間にヴェルデンブラント軍は散開、小道から外れて森の中へと入っていく。
森に踏み入られたら戦車は動けず、生身で近接戦闘をせざるを得なくなってしまう。
「司令、危ない!」
俺が森に入っていく兵士たちを見ていると、突然下の戦車兵が大声を張り上げた。
何事かと思い俺は思わず前を向いてしまう。
目を向けた先にあったのは、こちらを向いた対空砲の砲身であった。
「早く伏せて!」
戦車兵の普通な叫びが聞こえてくる。
だが俺が頭を下げるよりも向こうが発砲するほうが早かった。
大きな発砲音が鳴り響き、砲身から砲弾が放たれる。
砲弾は俺の乗る戦車へとまっすぐに突き進んでくる。