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第101話 精鋭無比、基地航空隊

 王都を血を流すことなく占領し終えた俺は今、王都内の作戦司令部にいた。

ここは元々ゼーブリック王国の中央軍司令部として使われていただけにこの国の戦法や極秘文書などがわんさか湧いて出てきたので、それらに目を通している。


 本当は早く別働隊に合流したいのだが、王都内が反乱で混乱するのを防ぐために部隊の兵たちが必死で警備にあたっているのでもう2日は動くことができない。

その間はこうして時間を潰すしかないのだ。


「うーん、この世界の軍隊ではこんな戦術が基本なのか……これじゃあ地球のギリシャの重装歩兵に毛が生えたようなだけのような気がするけどなぁ」


 俺は『基礎戦術』と題された本を手にとって読んでいる。

だがその本に書かれている内容は、俺があの平原で見たように部隊を密集させて勢いで押す戦術ばかりであった。

だが騎士による一騎打ちなどが行われないのを見ると少し戦術という面では進歩しているのかもしれない。


 コンコン……


「司令、失礼いたします」


 扉が開き、男が入ってくる。

彼は座っている俺のところにやってきて手に持った紙を机に置いた。

そして頭を下げて部屋から出ていく。


 俺は彼にお礼を告げて、紙に目を通す。

紙には手書きで『王国調査報告書』と書かれていた。

俺はページをめくって中に書かれている報告に目を通す。


 最初の方には王国軍に関する報告が羅列されていた。

内容は王国軍の構成や武装などについて。

その中にはB-52Hからの報告にあった対空砲も含まれていた。


 王都侵攻に関してすっかり頭から抜けていた情報もたくさん載っていた。

例えば王都周辺にある大型飛行場。

この飛行場の保有する翼竜から攻撃されるという懸念を俺はすっかり忘れていた。


 自分の中では絶対に大丈夫という慢心があったのだろう。

何もなかったので良かったが、以後このようなことが起こらないように気を付けないと。


 そして報告書にはこの飛行場が土を固めて整地されて作られたものであるとの記述があった。

この飛行場でジェット機を運用しようとするとエンジンが土埃を吸ってしまって故障の原因になる。

そのため使用するのであればレシプロ機が望ましいとされていた。


 翼竜の相手をするためであればレシプロ機と機関砲でも十分だと俺は判断している。

戦闘機などで航空優勢、制空権を確保することは重要なのでこの飛行場はレシプロ機の発着場として利用させてもらおうか。


 次に、王国の外交文書に関する報告が記されていた。

王城内や外務省建物も操作が行われ、重要書類は全て接収、調査されている。

俺はその最初のページで驚愕の記述を見つけた。


「ゼーブリック王フェルディナントは腹を刺されて死亡、王国外務官のジョージは小屋で首を刎ねられて死亡……やはり現代に比べれば野蛮だな」


 俺は王国上層部の死の報告を見て少しげんなりした。

だがジョージの死に関しての報告を読んでいると、他とは違って王都民に殺されたわけではないことが分かった。

ジョージは保安隊を名乗る者たちに殺されたようだ。


 保安隊、その組織については全く知らなかったので勉強になった。

報告によると保安隊がジョージを殺したことにより王都にいた反戦派が激怒、戦闘が発生してそのまま大規模な反乱につながったとのことだ。

その時には保安隊は5人いたが4人の遺体しか見つかっていないということは少しひっかったが。


「まぁどこかに潜んでいるのかもしれないが、そんなに気にすることでもないな」


 俺は存在を気にはしつつも特段なにか行動を起こそうとは思わなかった。

その後の王国について書かれている文章も読んで、俺は報告書を閉じた。

報告書を机の上においた俺は、そのまま椅子で深い眠りについてしまった。





「……しまった、少し眠すぎてしまったな」


 腕時計の指す時間は午後七時、完全に寝すぎてしまった。

日もすっかり落ち、窓から見える景色は真っ暗であった。

だがそんな中にいくつか明るい点が空に浮かんでいくのが見えた。


「あれは……あぁ、翼竜か。そういえばZ泊地側に移動させるとか言っていたなぁ」


 俺は報告書に書かれていた内容を思い出した。

確か飛行場を使うために翼竜はすべて後方に移動させるとのことだ。

今見えている光は竜騎士が松明を持ちながら飛んでいる影響である。


 そして机の上にはそっと新しい報告書が置かれていた。

きっと寝ている間に置かれたのだろう、俺はその報告書にも目を通した。

この報告書には主に王権崩壊後の新政権に関する決まりが書かれていた。


「さて、明日ぐらいには出撃したいものだ。臨時政府やらなんやらも樹立されるらしいしこの国の治安はなんとか持ちそうだな。それに……」


 報告書には暫定的に設置された王国の反戦派の有力者などからなる臨時政府がヴェルデンブラントに宣戦布告する旨が盛り込まれていた。

敗戦してすぐに裏切る……まるでイタリアだな。

ただ宣戦布告をすると言っても軍隊は武装解除したので実質は俺達が守らなければいけない。


 俺は部屋に置かれている立体地図に目をやる。

地図の方に歩いてっていった俺は、ヴェルデンブラントの地形などを眺める。

ゼーブリック王国を降伏させたあとはヴェルデンブラントに進軍しなければならない。


「ヴェルデンブラントは内陸国で、更に大陸奥地の方まで進むと砂漠があるので戦いづらいなぁ」


 俺は思わずそうつぶやいた。

ヴェルデンブラントの国土は東西に長く、国土の西側には砂漠が広がっている。

砂漠の奥深くまで誘い込まれている間に背後を突かれるかもしれない。

かなり用心しなければならない相手だ。


「翼竜たちの離陸も終わったみたいだし、飛行場まで行ってみるとするか」


 俺は椅子を立って部屋の外に出る。

部屋の外には警備の兵士が立っていたので、彼らにお願いをして飛行場まで連れて行ってもらうことにした。

しばらく待ってやってきたブラッドレーに乗り込んだ俺は飛行場を目指して出発した。





 王都から15分程走った平原の中。

そこにはかつてゼーブリック軍が誇った翼竜部隊の駐留していた飛行場があった。

だが所属していた機体は既にZ泊地へと移動させられているので今はもぬけの殻だ。


「司令、到着いたしました」


「あぁ、ありがとう」


 俺はブラッドレーから降りて滑走路へと歩いていく。

滑走路を触ると、報告通りそれは固められた土で構成されていた。

だがこれだけの硬さがあれば十分飛行機の離発着は可能であろう。


「よし、スキル『統帥』発動、P-38LとAU-1を召喚!」


 夜間の飛行場に多数のレシプロ機が姿を見せる。

P-38Lは第二次世界大戦中に活躍した双発の戦闘機で、長大な航続距離で知られている。

AU-1はF4Uコルセアをベースに開発された攻撃機で、2〜3tの爆弾を搭載することができる。


「次はDo-217と百式司偵を召喚!」


 続いて召喚したのは大型の爆撃機と偵察機だ。

どうしてAU-1がいるのにDo-17爆撃機がさらに必要なのか、それにはこの爆撃機が搭載することのできる爆弾が関わっている。

この機体にはフリッツXやHs293と呼ばれる誘導爆弾、滑空爆弾が運用可能なのだ。

これらの爆弾があれば敵の基地を正確に破壊することができる。


 そして百式司偵は旧日本軍の高速偵察機だ。

本島には無人、有人の偵察機がそれぞれ配備されているがここでも偵察機は必要だろう。

ビルマの通り魔と呼ばれたその性能、存分に発揮してもらおう。


 そして数十人の工兵部隊、整備員なども召喚してこれらの兵器を運用できるようにする。

工兵部隊は燃料タンクの早急なる製造を命じ、整備員にはこれらの機体を完璧に動作するように命じる。

彼らは敬礼を持って俺の期待に答えると誓った。


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