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第100話 王都入城

 戦車部隊は街道を全速力で走破、王都目前に迫っていた。

道中で戦闘が起こることもなく順調そのものであった。

でも慢心してはいけない、この先にどんな相手が待ち構えているのか分からないのだから。


 部隊は王都に続く最後の峠を越えた。

この先は平らな道が続いていて戦闘が起こるのならばそこだと思っている。

そして敵を確認するべく前を見ると……


「あれ? 敵がいないぞ……」


 予想は外れ、前の平原には敵は見えなかった。

そしてその先には王都の城壁が見えている。

敵がいると思っていた部隊の隊員も少し拍子抜けしたようだ。


「司令、今は敵が見えないかもしれませんが油断はなりません。いつ奇襲されても対応できるよう警戒を厳にしながら進みましょう」


 隊員の一人がそう言い、車列は再び前進を始めた。

だが警戒していた奇襲は行われることなく、車列は何事もなく王都の城門から500Mほど離れ地点まで進み、そこで停車した。


「なぁ……これどうしたらいいと思う?」


 俺は王都の城門下まで来たのに敵から矢の一本も飛んでこないのでどうしたらいいかわからなくなった。

だが戦争をしていることに違いはない、中にはいった途端攻撃を受けるかもしれない。

それに別働隊の救援のためには早くゼーブリック王国を落としたい。


「もはや城門を破って突撃するしかないんじゃあないでしょうか。行動を起こさないことには先に進めません」


 俺の乗るエイブラムスの装填手がそういった。

確かに彼の言う通り先に進むには行動を起こすしかない。

俺は城門を破って突撃することを決めた。


 俺は腰に下げた軍刀を抜く。

日光を反射して輝く軍刀を俺は城門に向けてすっと下ろす。

そして俺は叫んだ。


「オラァ、イレーネや、開けろぉ!」


 号令とともに戦車たちはエンジンを噴かせて前進する。

そして俺は先頭を行く自分の戦車の前に防御魔法を展開した。

防御魔法を棒状に成形し、簡易的な破城槌を形成する。


 エイブラムスは城門に向かって突撃、防御魔法で作られた破城槌は木製の城門に接触した。

その尖った破城槌は門の隙間に突き刺さり、隙間を食い広げていく。

そしてそのまま城門は破城槌に押されて内側にひん曲がった。


「よし、城門が開いたぞ。中に突撃しろ!」


 門を破った戦車部隊は門の瓦礫を踏みながら王都内に侵攻した。

だが人は見えず、俺はその様子を怪しんだ。

警戒を続けながら戦車隊は王都内の城に向かって進む。


 しばらく市街地を進むと、1つの広場に出た。

そしてその広場は今まで見なかった王都の住民であふれていた。

よく見ると彼らの中には男も女も老人も、そして兵士もいた。

彼らは押しかけてきた戦車を見て固まっている。


「おぉ、人がいる……ってそうじゃない!」


 俺は久しぶりに隊員以外の人を見たので思わず興奮してしまってた。

だが彼らは一応敵国の住民、用心して接しないと。

だが一般人もいるので攻撃は厳禁だ。


「ええと、とりあえず戦車から降りて……」


 俺はエイブラムスから降りる。

そして抜いていた軍刀を腰の鞘に戻した。

降りて彼らの方に近づいていくが、彼らからは攻撃を加えてくる気配は感じ取れなかった。


「やぁ諸君、俺はイレーネ帝国、つまり君たちの敵国の皇帝のルフレイだ。無駄な抵抗はせずに両手をあげてくれ、そうすれば危害は加えないと約束しよう」


 彼らはお互いの顔を見合わせて、次々と両手をあげる。

兵士たちも持っている槍や剣を捨てて手をあげた。

そんな中一人の男が手をあげながらこちらに近づいてきた。


「我々はあなた方に降伏いたします」


「降伏するのはいいけれど、貴方はいったい誰だ? この国は王国だったから王国の外務官か王家の人間が降伏の宣言をするのが筋だと思うが……」


 俺は突然現れた男に困惑する。

そんなに急に降伏すると言われてもこの男の勝手な妄想であれば困るからだ。

俺はそう彼にきくと、彼はこう返してきた。


「私は王都防衛隊の隊長です。王政は反戦派による革命で崩壊、今は無政府状態にあります。あぁそれと……おい、あれらを連れてこい!」


 王都防衛隊の隊長を名乗る男は誰かを連れてくるよう指示する。

そして群衆の一角が割れ、目隠しを付けられ手に手錠をつけられ、さらに縄で繋がれた4人の男女が現れた。

彼らは俺の目の前につれてこられて立たされる。


「この者らはこの王国の元王族です。一人知らないものも混ざっておりますがこの者たちが戦争を指導しておりました。よってこの者らを貴国に引き渡します」


 この世界が俺のいた世界線とは違うためか、彼らの対応に若干違和感を覚えつつも俺は彼らの方へと向かう。

そして流石にかわいそうなので目隠しをとってやろうとすると……


「あ、お前もしかして!」


 俺は少し見知った顔を見つけた。

そして彼の顔面の目隠しを勢いよく外す。

するとそこにいたのは……


「お前、あの変態のロイドじゃあないか。そういえばこの国の王子だったな」


 俺は学園の決勝戦の時にグレースを襲おうとしたロイドを発見した。

俺が編隊だというと彼はきまりが悪そうに眼をそらす。

そんな彼を横目に見ながら俺は残りの3人の目隠しも外していく。


 全員の目隠しを外すとそれぞれの人間は異なる表情をしていた。

ロイドはあっちゃ向いてほいを老人はあきらめたような顔を、女は泣きそうな顔を、そしてもう1人の若い男は今にもかみついてきそうな表情をしていた。

そんなことを思っているとその怒った表情の男は俺に怒鳴りつけてきた。


「おい、お前のせいで王太子の地位も失い、国から追い出されて逃げた先でも捕まる。俺の人生を無茶苦茶にしやがって、いったいどう責任取ってくれるんだ!」


 彼は顔を真っ赤にして怒鳴りつけてくる。

だが俺には彼との面識は全くなかった。

いったい彼は誰なのだろうか……?


「えっと、どちら様で?」


 すると彼はなぜか誇らしそうに胸を膨らませて言った。


「俺はルクスタント王国の王太子、アルベルト=デ=ルクスタント様だ! まぁ今は妹が国を乗っ取っているから元王太子だがな」


 それはそんなに自慢げに言うことだろうか。

とにかくルクスタントと姓についているし彼自身王太子だと言っているから、この男が最初に俺の島に攻撃をかけてきたのだろう。

そう思っていると、横の女性が目に涙を浮かべて聞いてきた。


「あの、私達は殺されるのでしょうか……?」


「いえ、何も敵国の王族だからといって殺すことはありませんよ。裁判を行い、どれほど戦争に協力していたのか、国民を虐げたりはしていなかったのかをもとに処遇を決めます」


 俺がそう言うと彼女はへなへなと地面に倒れた。

横の老人もこころなしかホッとしているようだ。

そして彼女の発言から、この世界ではやはり技術が少し発展していても人間の道徳観というか、戦争の歯医者への扱いは少し野蛮なのだなと思った。


 俺は兵たちの武装解除や王都内の警備などを配下の兵たちに通達し、俺自身は少し町中を歩くのであった。


――後書き――


最後まで読んでいただきありがとうございました!

この話で異世界司令官はめでたく100話を迎えます。

ここまで続けてこられたのも皆さんが読んでくださったおかげです。

異世界司令官は今後もまだまだ続いていきます。(現時点で予定話数の5分の1が終了)

どうか最後まで、異世界司令官をご愛読のほどよろしくお願いします。


著者:Altemith


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