ジョージが演説を行っている間、集会場に迫る5人の影があった。
彼らは顔を覆い隠し、真っ黒な服を着ていた。
彼らは集会場の扉に手をかけ、そしてゆっくりと開ける。
彼らは素早く室内に入り、腰にかけていた剣を抜いた。
手始めに近くにいた人間を切りつけて殺す。
その音に驚いた反戦派の人々はばっと扉の方を向いた。
「動くな、貴様らを国家反逆罪で逮捕する!」
保安隊のアルファはそう叫び、他のメンバーが確保に乗り出す。
だが反戦派も黙ってみていることはなく、数に頼んで交戦を開始した。
集会場の中には悲鳴と怒号が飛び交った。
「なぜだ、なぜ今日に取り調べが入る!」
ジョージは演壇で地団駄を踏んだ。
彼の耳に挟んだ内容では一斉逮捕の日はまだ先のはずであった。
だが現に今保安隊は突入してきており、ジョージも身の危険にさらされている。
「おやジョージさん、こんなところに何様ですかな?」
ジョージの首元に刃をあててアルファが話しかける。
ジョージは動くことができずに前を向いたまま歯ぎしりをする。
一方刃を当てるアルファは笑っていた。
「外務官という立場のあなたがここにいるということは重罪ですぞ。どうやってここを知ったのかは知りませんがね。まぁどちらにせよあなたはもう終わりですよ」
アルファは剣を後ろに引く。
するとジョージの頭は胴から離れ、切った断面からは血が吹き出した。
そして彼の頭は床に落ちて転がる。
「他のものも皆殺しにしてしまいなさい。裁判抜きでの処刑を許可します」
アルファは他の保安隊員にそう語る。
だがジョージが殺されたのを見て反戦派は黙ってはいなかった。
彼らは殺されまいと全力で抵抗する。
「ちょっ、何をする! 大人しく……おい! 剣を返せ!」
反戦派の1人が保安官のデルタから剣を奪った。
彼は剣をすかさずデルタに振り下ろし、剣は彼の顔面を縦に切り裂いた。
そのあまりの痛みにデルタは床を転がる。
「よし、俺らも続けぇ!」
「「「「おぉー!」」」」
反戦派は一気に勢いをつけて保安隊に攻勢をかける。
あるものは手に握るグラスを投げ、あるものは座っている椅子を投げた。
それらは着実に保安隊員に命中、傷を負わせていった。
「何なのだコイツラは……我々が対応しきれていない」
アルファは内心ひどく焦っていた。
王国保安隊、エリート中のエリートの彼らが負けるなど考えられなかった。
だがそれほどに民衆の心は停戦を望んでいた。
家族を、友人を失った彼らの気持ちが彼らの拳に宿る。
そしてついに保安隊は撤退せざるを得なくなった。
彼らは全身傷だらけになりながらなんとか集会場から外に出る。
そのまま勢いに任せて反戦派の人間も集会場から外にばっと飛び出した。
彼らは裏路地から大声で反戦を叫んで大通りへと向かう。
大通りに出た彼らは道ゆく人を説得して回る。
戦争に嫌気が差していた市民はそれに同調、反戦派の規模は一気に拡大した。
もはや反戦運動は王都中を巻き込まんとしていた。
そんな彼らの騒ぎを聞きつけた王都内に戻されていた兵士たちが駆けつけてくる。
駆けつけてきた兵士は彼らの持つ長槍を構えて1列に並んで反戦派を牽制する。
だが反戦派はそんなことに怯むような真似はしなかった。
彼らはなんと兵士たちの説得を試みた。
最初は聞く耳を持たなかった兵士たちであったが、部隊の壊滅などジョージが話した内容を伝えると彼らも態度を改めた。
彼らは構えていた槍を真上に戻し、そして反対の方向を向いた。
反対の方向にはゼーブリックの王城がそびえている。
「私の家族はこの戦争で犠牲になった!」
「こんな戦争は間違っている、今すぐ辞めるべきだ!」
鎮圧に来た兵士たちも反戦派に入りともに王城に反旗を翻す。
彼ら反戦派の人数は膨大なものとなっており、もはや誰も手を付けられないほどであった。
彼らは隊列を組み王城へと迫る。
その様子をフェルディナントは王城から見下ろしていた。
彼の眼下には怒り狂った王都の住民がある。
彼はその様子を見て呆然と立ち尽くしていた。
「おぉ、一体何が起こったというのだ……」
フェルディナントは立ち眩みを感じて倒れそうになる。
彼はフラフラと歩いていきソファーに座り込む。
彼がそうしていると、部屋のドアが開いて警護の兵士がやってきた。
「陛下、この城にももうじきに反戦派が押し寄せてきています。どうかご避難を!」
「よい、話せば分かるだろう」
フェルディナントはそういってソファーに座ったまま目を瞑る。
しばらくすると、廊下からバタバタと走る音が聞こえてきた。
彼は目を開けて扉の方を見つめる。
バタンと勢いよく扉が開き、反戦派が部屋になだれ込んでくる。
彼らはフェルディナンドを囲むようにして立った。
その様子を見てやれやれと言って彼はソファーから立ち上がった。
「剣を持った入ってくるとは物騒だな。まぁその剣を置いて話し合おう」
フェルディナンドはそういって話し合いを促した。
だが残念なことに反戦派は聞く耳を持たなかった。
「問答無用。フェルディナンド王、お命頂戴する」
反戦派の1人が剣をフェルディナンドの首元にめがけて振る。
だが彼は剣の扱いに慣れていないのか首を外し、剣は肩に突き刺さった。
「グハッ……まて、一度話し合いを」
「うるさい! お前のせいで今までに多くの人間が戦争で命を落とした。戦争など誰も望んでいないのだ! だから今日ここで全ての元凶のお前を始末する」
兵士の一人が長槍を構えて言った。
そして彼はその長槍をフェルディナンドの胸に突き刺す。
槍は胸を貫通し、彼は滝のように血を吐いた後絶命した。
「やったぞ! 王を殺したからおれたちの勝利だ!」
「この際だから他の王族も皆殺しにしろ!」
「そうだそうだ!」
もはや一度暴走し始めた彼らを止めるすべはなかった。
反戦派の人々は血眼になって王城内の残りの王族を探す。
そして1人ずつ捕らえられ、捕らえられた人間は中庭に連れて行かれる。
20分後、王城内の捜索が終わり捕らえられた人間は目隠しをされて中庭に整列させられた。
捕らえられたのは4人、王国王子のロイド=ゼーブリック、フェルディナンドの妻カミラ=ゼーブリック、フェルディナンドの父、先王のオラニア大公、そしてそこら辺でゴロゴロしていたアルベルト=デ=ルクスタントだ。
彼らは泣き叫んで命乞いをする。
だが聴衆らは皆殺せと騒ぎ立てた。
そんな中1人の兵士が前に出てきてこういった。
「諸君らがこれらの処刑を望んでいることはよく分かる、俺もその気持ちだ。だが今一度考えるべきではないだろうか。これらは今侵攻してきている敵に対する和平交渉の手札として使うべきだと思う。この戦争をこれらのせいにすることで我々は許してもらえるのであればその方が良い」
彼の言葉に場の「殺せ」という雰囲気は次第に減っていき、彼の意見に賛同する人間が増えた。
その後正式に彼らを活かすことが決められ、交渉には意見を出した彼が出向くことになった。
こうして4人はなんとか命をとりとめたのであった。