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第98話 ゼーブリック王国の孤立

 偵察隊が戻ってき、その報告を聞いたゼーブリック軍中央軍司令部はひどく落胆していた。

偵察隊からの報告によると、カンプエベーネに展開していた部隊は跡形もなく消え去っていたとのことであった。

その状況から司令部は敵部隊が何らかの方法で防御を突破したと考えていた。


「あの防御には持ちうるほとんどの兵力が費やされていたのだぞ。それが壊滅するなんて……」


「残った戦力でどうやって王都を守れというのだ」


「嘆いていても仕方がない。とにかく今は対策を考えよう」


 その言葉に司令部の人間は頷き、地図を見る。

地図上のカンプエベーネに展開していた自軍の駒をすべて取り払い、敵軍のイレーネ軍の駒を前に進める。

駒は王都の付近まで動かされた。


 王都付近には残った1万と少しの軍隊が配置されているが、この人数ではどう頑張っても防衛は不可能であると彼らは考えた。

だがここで諦めることはできない、彼らはできる限りの策を考える。


「ここは防衛に徹するのが吉であろう。残った兵を全て王都内に引き戻し、籠城戦を仕掛ける。その間にヴェルデンブラントに援軍を求めてはどうだろうか」


「それが良いな、そうしよう」


「俺も賛成だ」


 司令部の人間は直ちに王都郊外を防衛している軍に通達、王都内に引き返してくるよう命令する。

通達が終わった後彼らは深くため息を付いた。

このままで敵から首都を守り通せるのか、彼らには自信がなかった。


 そして彼らは王都付近の飛行場所属の翼竜による哨戒線の展開を決定する。

直ちに翼竜部隊にも指令が飛び、翼竜が次々と飛び出した。

すべてを終えた司令部の人間は王城に報告に向かう。





「――というわけでございます、陛下」


 司令部の人間はみな揃って王城の王の間でフェルディナントに報告をする。

フェルディナントはもろもろの報告を聞いて頭を抱えた。

特に彼はヴェルデンブラントへの援軍要請に難色を示した。


「戦局が悪化しているのは理解した。まさかここまで早く進軍してくるとはな……。ヴェルデンブラントへの援軍はとりあえず要請してみるが、なにせあの国はもともと仮想敵国だ。受けてくれるかどうかはわからん。とにかく皆はつかれただろう、今日は家に戻ってゆっくりと休め」


 フェルディナントは司令部の人間を慰め、彼らは王の間を辞した。

その後フェルディナントは魔法通信珠を取り出し外務官のジョージに連絡を取る。

彼はヴェルデンブラントに援軍を要請するよう伝え、通信を切った。


「はぁ、この国は終わりなのかもしれんな。よくも知らない国にけんかを売った結果がこの有り様か……」


 フェルディナントは1人玉座に座ってそう呟いた。


 その頃フェルディナントからの伝言を受けたジョージは早速ヴェルデンブラントに連絡を取る準備を始める。

魔法通信珠を取り出し、魔力を流してつながるのを待つ。

しばらく待っていると、ヴェルデンブラントの外務官、グレマンサーが通信に出た。


『これはジョージ殿、なにか御用ですかな?』


「突然すまん、実はおり入っての頼みがあってな。どうか援軍をこちらに送ってほしいのだ」


 ジョージはそう通信珠に向かって語りかける。

だがすぐには返事は返ってこなかった。

しばらく待っていると、ようやくグレマンサーは返答を返す。


『すまんなジョージ殿。この前の会議でそちらには援軍は送らないことを決定したんだよ。そちらに侵攻してきている敵軍のことは自分たちで対処してくれ』


 そういった後、グレマンサーは一方的に通信を切った。

だがジョージにはこうなることは想定済みだったので特に驚くようなことはなかった。

彼はその旨をフェルディナントに伝え、椅子に深く腰掛ける。


「ふむ、この国もいよいよ終わりだな……だが私は国が敗れても国民が死ぬことは望まない。なにか行動を起こさないと……」


 ジョージはそう言って立ち上がり、部屋においてあるクローゼットに向かう。

彼はクローゼットを開け、中にかけてあるマントと深いつばの帽子を取り出してかぶる。

変装した彼はそのタンスの奥の壁に手を触れ、ぐっと押す。


 ギィィィ――


 ジョージの押した部分は音を立てて開いた。

開いた先からは秘密の階段が姿を表し、彼はその階段へと足をかける。

内側からクローゼットの扉と隠し階段の扉を締めた後、彼は階段をゆっくりと下った。


 階段を降りてジョージは秘密の通路を歩いていく。

その通路は王都内のある空小屋へとつながっていた。

彼は少し歩き、そしてその空小屋につながる階段に足を乗せる。


 ジョージはその空小屋に誰もいないことを確認した後、小屋の中に出た。

小屋には蜘蛛の巣が張っており、そんな中を蜘蛛の巣を避けながら彼は進む。

そして蜘蛛の巣を進んだ先にある扉を押し開け、彼は外に出た。


 ジョージは小屋を出て王都の裏路地にでる。

彼は周りをキョロキョロと見回した後、たたっと駆け出した。

彼は事前に偶然手に入れていた情報を下にある場所に向かう。


 その場所とは王都内の反戦派の集まっている秘密の集会所であった。

彼はたまたま廊下を通りかかった時にその情報と、逮捕をする旨をアルファたち保安隊がフェルディナントに報告しているのを小耳に挟んでいた。

一斉逮捕の日はまだ先だと聞いたので、今日ならば安全だと考えたのだ。


 ジョージは姿を隠しながらその集会場に足を運ぶ。

彼はしばらく歩いてその集会場の裏にたどり着き、裏口をゆっくりと開けて中に入った。

一度中に足を踏み入れると、そこは活気に満ち溢れていた。


「もう戦争は辞めるべきだ! 戦争など何にもならない!」


「そうだそうだ!」


 中は戦争に反対する声で溢れていた。

そんな中にジョージは一歩一歩足を進めていく。

そうしていると、マントに深いつばの帽子を被った彼を怪しんだ1人が叫んだ。


「おいそこの者、何者か名乗れ!」


 その声で会場内は静寂に包まれた。

名乗るように言われたジョージはマントと帽子を外す。

そして彼は声高らかに名乗った。


「私はヴォイド=ジョージ。この国の外務官だ」


「外務官? 国のおえらいさんがここに何のようだ。もしも俺達を止めるというのであればそれは無理だぞ。我々を止めることのできるものはいない!」


 そうだそうだ、とあたりの集会の参加者が叫ぶ。

彼らは少し興奮した様子でジョージを取り囲んだ。

だがそんな彼らにジョージは手を上げて返答する。


「まぁ待て、私もお前たちと同じ気持ちだ。少し話を聞いてくれないか?」


 その言葉に、迫ってきていた集会の参加者たちは動きを止める。

ジョージはそのまま部屋の中を歩き回り、演壇に立った。

彼は拳を振り上げて話を始める。


「国は隠しているが、事実この前の戦闘で10万人の守備隊が壊滅した。我が国はもう自国を守り通すだけの力が残っていない。だが軍部や王は今も戦争を継続しようとしている。このような状況を黙ってみていて良いのだろうか、我々の兄弟家族が死んでいくのを見ていて良いのであろうか。いや、今こそ立ち上がるときではないだろうか!」


 ジョージの演説は聞く人々の心を一瞬で魅了し、全員が同じ意志を持つ同士であると認識した。

彼らはジョージに一瞬で心を許し、ジョージの言葉通り行動を起こそうと心に誓った。

だがそんな集会場に怪しい影が迫る――


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