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第97話 守備隊、玉砕す

 部隊を全速力で走らせること1時間。

ついに先行していたブラッドレーと合流することができた。

ブラッドレーの乗組員から下を見てくれといわれ下を見ると――


「なんだこれは!」


 下には一面にゼーブリック軍が展開していた。

歩兵が長槍をもってぎちぎちに整列し、その前には騎馬隊が、そのさらに前に馬が曳く戦車が並び、逆に後方には弓兵と魔導兵が並んでいる。


「これはまた大軍だな……こちらも心してかからねば。全車に告ぐ、これより坂を下りて平原に出る。いつ攻撃命令が出ても攻撃が行える体制を整えておくように」


「「「「了解」」」」


 部隊は坂道を駆け下りて平原に出る。

だが俺たちの部隊が出てきても敵は一切の動きを見せなかった。

俺はその間に隷下の部隊に陣形を整えさせる。


 部隊はエイブラムスが最前列に、その後ろにブラッドレーとストライカー、その後ろにBM-21グラート、さらにその後ろにM109自走榴弾砲が整列した。

普通戦車が歩兵の大群を相手にすることなどないのでこれで合っているかどうかは不明だが、ひとまずは整列が終わった。

さぁ、いつでもかかってこい。


 こちらの用意が終わるのを見届けたのか向こう側も動きを見せ始める。

色とりどりの旗が掲げられ、バグパイプのような音が戦場に響き渡った。

そして歩兵部隊が少し前進して長槍を前に構える。


 この隊形は見たことがある、確かギリシャやローマの重装歩兵だ。

だが重装歩兵とは違ってちゃんと服や鎧は着こんでいるようだ。

俺は双眼鏡を構えて、相手の陣地を見つめる。


「むっ、今度は騎兵に動きがあるな……」


 歩兵に続き、先程までかなりの間隔をあけて展開していた騎兵が密集し始めた。

彼らも歩兵同様長槍を構えてこちら側を見据えている。

お互いの陣営から発せられる緊張した空気が平原を駆け抜けた。


 だがそんな平原の空気が一気に変わった。

相手の軍の楽器の奏でる曲のテンポがより速いものへと変化した。

それに合わせて向こうの歩兵たちも声を張りあげて味方を鼓舞し始める。


 そして音楽は鳴りやみ、歩兵たちの大声も止まった。

すると戦車と騎兵がわっと走り出し、こちら側に突っ込んできた。

土煙をあげて大群がこちらに迫ってくる様は恐怖そのものであった。


 だが俺もただ見ているだけにはいかない。

俺は無線を通じて後方に待機しているグラートに発砲を求めた。

グラートはそれに応じ、約200発のロケット砲弾が次々と発射される。


 ロケット弾は光の尾を曳いて飛翔し、その後地面に続々と着弾した。

地上では大爆発と土煙が立ち込め、一時前がまったく見えない状態になった。

しばらくすると、その土煙から1騎の騎馬が飛び出してきた。


 その騎馬は果敢に戦車に向かってくるも、同軸機銃の7.62mm機銃が火を噴き、騎馬は地面に倒れた。

そしてようやく土煙が晴れたと思うと、そこには馬と人間の死体の山が積み重なっていた。

迫ってきた敵を完全に殲滅した俺たちは今度は反撃に出る。


「エイブラムス、ブラッドレー、ストライカー部隊突撃! グラートとM109自走榴弾砲は後方から支援を!」


 俺がそう号令をかけると、部隊は一気に前進を始めた。

その間にM109からは榴弾が発射され、敵の密集隊形の中に多数落下した。

爆発に巻き込まれて多くが命を落としたが、まだまだ後ろから代わりの兵士がでてきてその穴を埋める。


 もう少し近づくと、今度は敵側から矢と魔法の雨が降り注いできた。

俺はとっさに防御魔法を展開してそれらの攻撃を防ぐ。

防御魔法にぶつかった矢や魔法は弾かれてどこかに飛んでいった。


 かなり接近していることを察知したのか、敵魔導部隊は前面に防御魔法の壁を構築した。

防御魔法の壁は一見突破不可能に見えるが、戦車の砲身がそれに触れると防御魔法はガラスのように粉々に砕け散った。

そうして戦車部隊は次々に防御魔法を破り、止まることを知らずに前進する。


 戦車の接近を見た敵の歩兵は盾を密集させて亀の甲羅のような防御形態を取った。

そんな彼らの頭上に無慈悲にも第二射の榴弾が降り注ぐ。

榴弾は再び敵陣中で爆発し、歩兵部隊の防御陣形は崩れ去った。


 防御の崩れた部隊をめがけて戦車部隊は突進する。

エイブラムスは地面にうずくまる敵兵を轢き殺しながら何事もなかったように前進していく。

エイブラムスに踏まれた死体はぺちゃんこにつぶれていた。


 生き残った敵兵にも後続のブラッドレーから追い打ちの機関砲を浴びて地面に倒れる。

完全な防御形態を築いていたと思われたゼーブリック軍はいとも簡単にその防御を破られた。

エイブラムスたちは歩兵の壁を突破して後ろに控えている弓兵や魔導隊に迫る。


 後ろでなすすべを失った遠距離攻撃部隊はエイブラムスに轢かれたりブラッドレーの機関砲を浴びたりして全滅した。

こうしてゼーブリックが守りに全力を注いだ部隊は20分もせずに壊滅したのであった。


 俺はハッチから頭を出して外を眺める。

戦車たちの通ってきた後にはおびただしい死体と血の池が広がっていた。

そして戦車のすぐ横に内蔵が破裂して死んでいる敵兵の姿を見た時、俺は思わず吐いた。


「げっ、おぇっぷ」


「司令、お気を確かに」


 俺の乗っているエイブラムスの給弾担当の兵が俺に話しかけてきた。

俺は「大丈夫だ、ありがとう」と言いながら水を召喚して口の中をゆすいだ。

口もスッキリした俺は再び後ろの血の池を眺める。


 他のエイブラムスやブラッドレーの乗組員もハッチから顔を出して後ろを眺めた。

彼らも俺と同じく何やら複雑な感情を抱いているようであった。

そんな中俺はぽつんとつぶやく。


「今、ちょっと前進しただけでこれだけの敵兵が死んだ。この前の海戦もそうだが、人間の命とは軽いな」


 俺は再びその思いに頭を支配されていた。

だが今はイズンの願いのために、これが平和への道であると信じて進まなければならないと己を鼓舞する。

もう死体を見て俺は吐いたりすることはないと誓った。


 その後、後ろにいたグラートやM109も合流して敵の撃破を祝福した。

そして俺たちは皆背中に火炎放射器を背負って散らばる死体を焼いていく。

本当はちゃんと埋葬してやりたいのだが、これだけの人数と潰れ具合ではこれしか選択肢がなかった。


 簡易的な火葬を行い、死体は魔石へと変わった。

そしてエイブラムスの前面にドーザーブレードを応急で取り付け、その魔石を一箇所に集めていく。

その間俺たちはスコップを使ってそれらの魔石を埋葬する穴を平原の中心に掘った。


 ドーザーブレードで集めた魔石をエイブラムスは掘った穴に落としていく。

穴の中にはすごい量の魔石が土と混じった状態で入れられた。

そして埋め終わった後に、俺は召喚した手榴弾を投げ入れた。


 魔石は手榴弾の爆発につられて爆発するため、突発的に集められた多量の魔石が一気に爆発した。

大きな爆発により周囲には土が飛び散った。

爆発を終えたことを確認した俺はエイブラムスに指示を出し、穴を土で埋めてもらう。


 俺はその穴の上に、落ちていた長槍を突き刺した。

そしてそこに花を手向け、祈りを捧げる。

他の部隊員も黙祷を捧げた。


 こうしてゼーブリック軍は壊滅し、もはや俺の軍を止めるだけの力は残っていなかった。

戦車部隊は再び王都への前進を開始し、街道を西進する。

各車両はごきげんなエンジン音を奏でて進むのであった。





 そのころゼーブリックの王都、中央軍司令部。

彼らのもとにカンプエべーネに展開する迎撃隊からの定時連絡が入らない司令部は焦っていた。

彼らは何度も通信を試みたが、ついに返事が返ってくることはなかった。


「これはつまり部隊が全滅したということか……? つい30分前の定時連絡は何事もないと言っていたのに、まさか30分で10万の軍勢が全滅したとでも言うのか?」


 彼らは焦っていた。

もしも全滅したというのならば確実に王都が攻撃にさらされる。

そうなればゼーブリック王国はおしまいであった。


「とりあえず状況がわからんから翼竜部隊を飛ばしましょう。その偵察結果を聞いてからです」


「そうだな、その通りだ」


 中央軍司令部はカンプエペ―ネに偵察を飛ばすことを決定した。

その結果がどうか部隊生存であることをただ彼らは祈るのであった。


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