目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第29話 初めてのお友達①

 グレースとの昼食を終え、俺は試験会場へと戻っていた。

帰りも行きと同じく【世界地図】を用いて帰る。

流石にまだ道順は覚えれていない。


 タッタッタッ……ゴッチィィィィン!


 俺が廊下の角を曲がると、同じく曲がろうとしてきた人にぶつかってしまった。

その人が持っていたであろう紙の束が空を舞う。

誰かと前を見ると、メリルが頭を抱えて座り込んでいた。


「あいててて……スミマセン、ってルフレイさんじゃないですか。今丁度あなたを探していたんですよ。試験の結果がでたので付いてきていただけますか?」


 俺はメリルに連れられて、第二次試験の会場とは異なる部屋へと案内された。

その部屋は扉から他よりも豪華な作りで、扉の上に掛けられているプレートには『学園長室』と書かれている。

学園長室?どうしてこんな部屋に案内されたのであろうか。


「こちらの部屋です。どうぞお入り下さい」


 メリルが扉を開くと、豪華な作りの部屋が目に入る。

おそるおそる中に入ると、品の良い初老の女性がソファーに座っているのが見えた。

ふいとこちらを見た彼女は俺に微笑みかけ、彼女の前のソファーに手をやる。

彼女に従い、俺はソファーに腰掛けた。


「初めまして。私はイルゼ=シュミット。ここ王都学園にて学園長をやらせていただいております」


「初めまして。ルフレイ=フォン=チェスターです」


 部屋の扉が開き、出ていっていたメリルが紅茶を持って戻ってきた。

俺は眼の前に置かれた紅茶を飲む。

紅茶は地球のダージリンのような、芳醇な香りがした。


「急に連れてきてしまってごめんなさいね。試験結果について少し話があるのだけれど……」


 学園長に呼び出されるぐらいということは、何か重大な問題があったのだろう。

もしや合格の最低基準にも達しなかったのだろうか。

この1週間でかなり勉強をしてきたつもりだったがダメだったか……


「ええと、まず結果ね。驚かないでほしいのだけれど……メリル、読んで頂戴」


「分かりました。ルフレイさんの試験結果ですが、国語が100点中100点。数学基礎が100点中100点。王国史が100点中100点。最後に魔法理論が100点中100点。つまり全教科満点です」


 全教科満点か。勉強してよかったな。

不安だった魔法理論もしっかりと点を取れたようだ。

満点なら流石にSクラスに入学出来るだろう。


「満点ですか、それは良かったです。これで俺は学園に入学できますか」


「えぇ、勿論です。ですが、今までに満点を取った生徒など一人も降りませんでしたので。そもそもこのテストの1教科あたりの平均点は35点、合格ラインは45点です」


 1週間でちょちょっとやった俺が満点を取れるようなテストを本気で受験するであろう学園生がまともに取れないとはどういう事だろうか。

別に問題自体は大して難しかったわけではなかったがな。


 じゃあ俺が呼ばれたのはなぜだろう。

もしやこの点数を怪しいと思っているのだろうか。

ステータスもほとんど映らなかったったこともあり、疑われているのかもしれないな。


「おそらく大丈夫だとは思いますが、一応ステータス板の件もありますので、ここで数問口頭で問題を出すので、各問いに答えて下さい」


 不正が疑われているのか。

確かに固有スキルなどが全く相手側は分かっていない状況では、何かしらのカンニング方法を持っていると考えられても仕方ないな。

よし、受けてやろうじゃないか。俺は頷いた。


「ではいきますね。まずは数学基礎から。斜辺が10cm、斜辺の対角までの距離が6cmの直角三角形の面積は?」


 これは有名な問題だな。

一見簡単そうに見えるが、実際にこんな三角形は存在しない。

つまり……


「答えは存在しない、ですね」


「ふむ、引っかかりませんか。多くの生徒は30c㎡と答えるのですがね。では次、王国史からです。初代女王はラインハイム王国から自治をもぎ取りましたが、その時のラインハイム王国の王の名は?」


「ハインリヒ3世です」


 ここは参考書に小さく載っていたところだ。覚えていてよかったな。

昔からこういうコラム的なものを読むのは好きだったから、今回はそれが功を奏した。


「また正解ですね…… 最後です。魔法理論より、AさんがBさんに威力30mAPのファイアーボールを放ちました。それに対してBさんは20mAPの防御魔法を展開しました。Bさんにファイアーボールがたどり着いた時、ファイアーボールの威力は何mAPですか?」


「答えは10mAPですね」


 イルゼは降参と手を挙げる。

最後の問題はただの引き算だ。なんてことはない。

これで全問正解。学園への入学は認められるだろう。


「私の固有スキル【察知】でスキルが発動されているか確認していましたが、発動は確認されませんでした。これでルフレイさんの頭脳による満点であると認めましょう」


 【察知】か、中々に便利なスキルなのではないだろうか。

実戦では相手のスキル発動を見抜いて攻撃、回避が可能であろう。

実力があってこそイルゼは学園長の座にあるのだろうな。


「では、入学手続きを始めましょう。まずはこのペンでこの書類にサインをお願いします」


 書類の中身を確認し、何も問題はなかったので俺はサインをする。

羽ペンからでたインクが紙に付着するとともに、文字が金色へと変わっていく。


「驚きましたか? このインクは少し特殊で、書類の偽造を防止することが出来るんです」


 ふーん、それは便利だな。

俺が書き終わった書類を渡すと、イルゼはそれにハンコを押した。

これで入学手続きは終了だ。


「では、ルフレイさんは現時点より正式に王都学園の生徒です。充実した学園生活をお送りになってくださいね」


 俺はイルゼに軽く会釈をした後、学園長室を出る。

俺は新たに始まる学園生活に心を踊らせていた。





 【世界地図】を使用しながら校門にたどり着いた俺は、ある人物を探す。

しばらくキュロキョロしていると、目的の人物を発見することが出来た。

海軍の第一種軍装に軍刀をさげた櫂野大佐がそこにはいた。


「お疲れ様です提督。試験は無事終了致しましたかな?」


「あぁ、あれだけ勉強したんだから何とかなってもらわないと困るよ」


 話していると、日が落ちかけているのが見えた。

もうすぐ夕方だ、こちらに宿は取っていないので比叡の元まで帰らないといけないな。

俺が櫂野大佐と一緒に帰ろうとすると、後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「ルフレイ様〜。試験は無事に終わりましたか〜?」


 後ろから走ってきたのはグレース。

何だかこの光景は前にも見た気がするな。


「全教科満点で合格とのことです。今後はグレースさんと同じSクラスに通えますね」


「満点? あのテストで満点を取られたのですか!? 私でもだいたい1教科あたり60点ぐらいでしたのに」


 グレースもテストの点数は60点しか無いのか。

そう考えるとよく頑張ったな、俺。

そう思っていると、グレースが俺にある提案を持ちかけてきた。


「この後暇ですか? もしも暇でしたらこれから城にいらっしゃって一緒にお食事でもどうですか?」


 それはありがたいな。

正直比叡に帰るまでご飯抜きかぁと思っていたからな。

櫂野大佐も頭を縦に振っているし、ここは提案に乗らせてもらおうか。


「じゃあお言葉に甘えて」


 俺たちは王城でご馳走になることにした。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?