グレースと櫂野大佐と校門で待っていると、豪華に飾られた馬車がやってきた。
後ろからは護衛の騎士たちも来ているようだ。
よく見ると前に少し話したミルコもいる。
馬車が俺達の前に止まり、中から人が出てくる。
中から出てきたのは、モノクルを着けた紳士的な老人だった。
「お迎えにあがりました女王様。おや、そちらの方は……?」
「ルフレイ=フォン=チェスターです。以後お見知りおきを」
俺が名乗ると、彼は慌てて頭を下げた。
その身のこなしからも、彼が上品であることが伝わってくる。
「イレーネ帝国の皇帝陛下にあらせられましたか。私はヴォルフラム=コンラートと申します。ここルクスタント王国で軍務卿をしております」
軍務卿のような偉い人がわざわざお迎えに来るとは。
俺が彼に握手を求めると、彼はそれに応じてくれた。
グレースはそんな軍務卿に1つのお願いをする。
「軍務卿、今日はルフレイ様と一緒に食事をしたいから一緒に馬車に乗って王城に行ってもいいかしら?」
軍務卿はグレースの言葉に頷く。どうやら王城にお邪魔しても良いようだ。
彼が馬車の扉を開け、グレースがまず乗り込む。
俺もそれに続いて乗り、最後に櫂野大佐と軍務卿が乗り込んだ。
馬車は王城に向かって走り出す。
◇
しばらく馬車に揺られていると、目の前に大きな建物が見えてきた。
王城だとひと目見たときに分かったが、よく見るとところどころ崩れているのが確認できる。
おそらくB−1の投下した爆弾が命中した跡だろう。
馬車が王城の正門を通過すると、城の建物がよく見えてきた。
焼けて黒くなった真ん中の建物の屋根には大きな穴が空き、3本の塔が倒れたまま放置されている。
周りの建物には狙い通り命中弾は無さそうだ。
「王城に付きました。見ての通りボロボロですがご容赦くださいね」
壊すよう命じたのは自分なので少し胸が痛む。
それがあった時は威厳に満ちた姿だったんだろうなぁ。
馬車は壊れた建物の前を通り過ぎ、横についている建物の前に停まった。
「ここが今私たちの生活している西の殿です。こちらで食事にしましょう」
グレースとともに西の殿に入ると、大勢のメイド服を着た女性が列を作っていた。
彼女たちは一斉に頭を下げ、挨拶をする。
「「「「おかえりなさいませ」」」」
俺たちはメイドの間を通り抜け、食堂を目指す。
食堂に着くと、長テーブルの上に色とりどりな料理が置かれているのが見えた。
どの料理も色とりどりで、非常に美味しそうだ。
グレースが机の最上部に座り、俺はグレースの隣に座った。
椅子に座ると横に控えていたウェイターから水の入ったボウルを渡される。
俺は知っているぞ、これはフィンガーボウルだろう。
この中の水を飲んだら間違いなく恥をかく。
一応飲水である可能性もあるので、俺はグレースの様子をうかがうことにした。
やはり彼女はボウルの水で手を洗っており、あのボウルはフィンガーボウルで間違いなかったようだ。
俺も彼女にならってボウルの水で手を洗う。
手を洗っていると、ドアから1人の女性が入ってきた。
見た目は40歳前後であり、立派なドレスに身を包んでいた。
年齢や着ている服から察するに、もしや彼女はグレースのお母さんではなかろうか。
「あら、お客人かしら。あなたがお客さんを連れてくるなんて珍しいわね。一体どういう風の吹き回しでしょうか」
俺はいつものように挨拶をすると、彼女は不思議そうに首を傾げた。
彼女いわくイレーネ帝国という国は存在しないとのこと。
最近偶然にできた国だから知らなくて当たり前だ。
そんな彼女にグレースが説明を補足してくれた。
「お母様、イレーネ帝国はつい成立した新興国家です。ルフレイ様はその国の皇帝になられたのです」
「まぁ、そうでしたか。私はマリー=デ=ルクスタント。グレースの母親です。これからも娘と仲良くしてあげてくださいね」
一通り話しも追えたところで、食事が始まった。
グレースたちは手を組んでなにかに祈りを捧げているようだ。
俺は日本式に手を合わせて「頂きます」をする。
2人共俺のとった行動を不思議そうな顔をしていたが、特に何か言われることはなく皿に料理を取り分け始めた。
食事は地球のようにスプーンとナイフ、フォークを用いて食べるようだ。
俺はさらに盛り付けられた鶏肉のようなものをナイフで切って口にいれる。
味は見た目のまま鶏肉で、非常に美味しい。
これも昼のように魔物の肉だろうが、全然変な感じはしない。
むしろ高級な鶏のようなジューシーさがある。
「ルフレイ様。どうでしょうか、我が城の料理人たちの料理は美味しいでしょう?」
グレースが俺に尋ねる。
俺が勿論美味しいと答えると、ご機嫌そうに机の上のサラダを取ってよそってくれた。
どれも見たことのない野菜ばかりであったが、どの素材も新鮮で美味しい。
「こらグレース。野菜が嫌いだからといってルフレイさんに押し付けない。ちゃんと野菜を食べなさい」
善意でいれてくれたわけじゃなくてただ嫌いだから押し付けてきただけかよ。
まるで好き嫌いの激しい子どものようだな。
まぁ美味しかったから別にいいんだけれど。
「そういえばあなた達、何だか固くないかしら? 一国の女王と皇帝という関係であるにしても同学年の同級生なのでしょう? 名前を呼び捨てにするとか、友達としてもっとラフに接してはどう?」
マリーの言う通り、今の感じだと友達という距離感ではないな。
グレースが嫌でないのであれば、もっとラフな話し方に変えても良いかもしれない。
そっちの方が俺としても楽だしな。
「な、名前を呼び捨てぇ!? それはちょっと早い気もしますが、確かにお母様の言う通りだし……うん、仕方ないですね。じゃあルフレイ、改めてよろしくね」
「うん。よろしくグレース」
俺達はその後夕食を終え、デザートを食べ終わったところだ。
デザートも甘くて中々美味しかったな。
さて、これから帰って比叡で寝るとしますか。
「じゃあグレース、俺は帰るとするよ。今日はありがとうね」
「え、今から帰るつもりなの? もう遅いし今日は王城に泊まっていきなさいよ」
正直王城に止めてもらえるとありがたい。
行き来るときに使ったのは学園の手配した馬車だが、さっきよくよく考えたら帰りの交通手段を全く考えていないことに気がついたのだ。
それにもし帰れたとしても、比叡に着く頃には何時になっているかわからない。
「今、元国王と王太子が居なくなったから、それぞれの部屋が余っているの。部屋があるのは東の殿だからこことは反対側だけれどどう?」
「それでも全然構わないよ。そうさせてもらえるととても助かるよ」
こうして俺は王城に一晩滞在することになった。
グレースは俺の世話係として1人のメイドをつけてくれた。
彼女に俺は今まで居た西の殿を越えて、反対側の東の殿に案内される。
部屋に案内された俺は、ふかふかの布団にダイブしてそのまま寝てしまった。