翌朝、俺は昨日部屋に俺を案内してくれたメイドに起こされた。
かなり寝心地が良かったので思わず寝すぎてしまったようだ。
俺はベッドから降りると、いきなり椅子に座らされた。
そして彼女は俺の服を脱がそうとしてきた!
「ちょ、ちょっとまってくれ。なんで俺の服を脱がそうとしているんだ?」
驚いた俺はとっさに反応する。
流石に自分の裸を見られるのは嫌だ。
「? グレース様からルフレイ様の身の回りの世話をするように言われております。お世話をする相手の着替えをお手伝いするのは当たり前かと」
うん。全く当たり前じゃないね。
世話をしてくれるのはありがたいが、そこまでは別に求めていない。
着替えぐらいは自分でやらなければいけないだろう。
「そこまでしなくても大丈夫だ。着替えぐらいは自分でやるよ」
「えぇ、ルフレイ様は自分で着替えができるのですか! グレース様は朝は特に私達メイドが補助しないと袖の通し方すらわからないのですが」
それは初耳だな。
キリッとした印象があったが、中々中身はポンコツなのかもな。
人とは見た目では分からないものだ。
彼女が補助されながら服を着ている様子を想像すると少し笑えてきた。
メイドは其の後何度か本当に手伝わなくて良いのか聞いてきたが、俺はすべて断った。
向こうも俺に折れたのか、渋々部屋を出ていく。
彼女が完全に部屋から出ていったことを確認した俺は、俺は机の上に置かれた服を着ようと手をかける。
その服は昨日学園で見た生徒の着ていた服と同じであった。
これが制服なのだろう。色が白色なのが汚れないか少し気になるが全体的なデザインは良さげだ。
日本でも十分通じるデザインではないだろうか。
袖を通すとサイズは俺にぴったりであった。
身長などを教えたつもりはないが、何か不思議な力によって特定されているのであろうか。
だがこれ以上考えても時間の無駄なのでその畑は放棄することにした。
着替えを終えた俺は、扉を開けて外に出る。
外には先程のメイドが立って待っていた。
待たせてしまったかな、申し訳ないことをしたな。
椅子の1個でも持っていって座れば楽だっただろうに。
「本当に1人でお着替えなされたのですね。私、感激です。……それは置いておいて、これより朝食がありますので、昨日と同じ食堂へとご案内いたしますね」
メイドに連れられ、俺は食堂を目指す。
機嫌よく食堂に向かう最中で、俺は前からやって来る子供に気づいた。
向こうには俺と違って、軍務卿のコンラートが付き添っている。
「おにーさん見ない人だねぇ。どこから来たの?」
その子供は眠そうな目をこすりながら話しかけてきた。
見た感じは8歳ぐらいで、高そうな装飾のついたパジャマを身に着けている。
この国の王子だろうか。ということはグレースの弟になるな。
「カール様。このお方はイレーネ帝国の皇帝であるルフレイ様ですよ。ご挨拶をなさってください」
軍務卿が言うと、カールは少し姿勢を正して俺の方を向いた。
彼は柔和な笑顔を造って俺に微笑みかけてきた。
「初めましてルフレイさん。僕はカール、この国の王子だよー」
「初めましてカールさん。これからもよろしくね」
挨拶を交わしたところで、俺は食堂に向かおうとする。
だが歩き出した俺に、軍務卿は質問を投げかける。
「今から朝食ですか? 食堂であればそっちとは反対方向ですぞ」
昨日食事を行ったところではないのだろうか。
だがこのメイドは昨日の場所に連れて行こうとしていたし、どっちが正しいのだろう。
俺が混乱していると、代わりにメイドが答えてくれた。
「女王陛下より、ルフレイ様を西の殿の食堂にお連れするよう言われております」
メイドの言葉に、カールが目を見開いた。
特に『女王陛下』の言葉に強く反応している。
その顔を見た軍務卿がしまったという顔をしているので、何か問題でもあるのだろうか。
カールはメイドの方を見てまくし立てる。
「え!? グレースお姉さまと食事をするの! ずるい、僕も連れて行ってよ」
その様子を見た軍務卿は頭を抱える。
なおもメイドをまくし立てているカールの様子に、メイドは少しも動じていない。
この状況に慣れているのだろうか。
軍務卿はやれやれといった感じでカールを抱え上げた。
抱え上げられたカールは最初は抵抗するもののやがておとなしくなった。
軍務卿はカールをなだめるような語り掛ける。
「カール様。家族であろうと男女別で生活するというのはずっと変わらないこの国の方針であります。昔からそうであったように、カール様も例外ではないのですよ」
カールは納得したようだ。
軍務卿がカールを優しく降ろすと、カールはスタスタと歩いて行った。
軍務卿は俺たちに軽く頭を下げ、カールの後を追う。
俺はメイドについて西の殿へ向かった。
◇
西の殿の食堂に付いた俺は、昨日と同じ席に座った。
グレースたちも座ると、早速食事が運ばれてくる。
丸いパンにトウモロコシのようなもののスープ。ベーコンもどきに目玉焼きとシンプルなメニューだ。
だが朝はこれぐらいがちょうどいい。
俺がご飯を食べていると、あることに気づいた。
昨日は一緒に食事をしていた櫂野大佐がいない。
まだ寝ているのだろうか。だったら耳元でラッパを鳴らしてやらないとな。
「グレース、櫂野大佐がどこに行ったか知らない?」
「櫂野さん? ルフレイが来る前に食事を済ませて、城の裏の庭で寝てくるといっていたわよ」
成程、ラッパの刑だな。
俺は食事を終え、メイドに裏の庭に連れて行ってもらった。
庭に着くと、芝生の上で気持ちよさそうに寝ている櫂野大佐がいた。
俺はラッパを召喚し、マウスピースに口をつける。
起床ラッパを自分で吹いてみたくて、一時練習していたのでたぶんできるであろう。
俺は思いっきりラッパを吹いた。
庭に響き渡る起床ラッパの音に、櫂野大佐は慌てて起き上がる。
横に立つ、ラッパを持った俺を見ると櫂野大佐は目をそらして口笛を吹いた。
軽く櫂野大佐の頭をはたいて、俺は食堂に戻った。
「ちゃんと見つけれた様ね。じゃあそろそろ学園に登校しましょうか」
俺は櫂野大佐に留守中を頼み、行ってくると言う。
グレースもすでに制服に着替えており、登校の準備は万全だ。
建物の外に出ると、昨日の馬車が外で待っていた。
グレースとともに馬車に乗り込み、学園を目指して出発した。