馬車に揺られ、俺たちは学園に向かっていた。
馬車が止まり、昨日と同じく学園の門が姿を見せる。
俺たちは馬車から降り、教室へと向かった。
廊下を歩いていると、生徒たちがジロジロと俺たちを見てきた。
この国の女王と一緒に歩いているのだ。そりゃあ注目してしまうか。
視線に少し居心地の悪さを感じていたら、グレースが話しかけてきた。
「ルフレイ、かなり視線を感じると思うけれど、それはあなたの左襟についているミスリルで作られた校章のせいよ。Sクラスを表すものだけれど、Sクラスはこの学園のエリートを表すもので、特に新しい生徒だから珍しいのよ。そのうち慣れるわ」
「はは、そうかもね……」
確かに左襟の校章も関係あるかもしれないが、絶対に隣にいるグレースのせいだと思う。
この美男美女ばかりの世界でもひときわ輝く彼女にはすべての人が二度見してしまうだろう。
そんな彼女の横を俺なんかが歩いていいのだろうか。
そんなことを考えていたら、どうやらSクラスの教室についたようだ。
廊下を歩いているうちにいくつか他クラスの教室も見てきたが、このクラスだけは扉が少し豪華だ。
エリートだから優遇されているのだろう。
扉を開き教室に入ると、既にいくらか生徒がおり、ワイワイ話していた。
教室に入ってきた俺たちを見ると彼らは一瞬黙り、すっと頭を下げた後また話し始めた。
グレースは軽く手を振り、自分の席へと移動する。
教室は昨日の試験会場のように段々になっており、グレースは一番上の席に座った。
俺がどこに座るべきか悩んでいると、グレースが上から手招きをしてきた。
俺が上に上がると、自分の椅子の隣を彼女はポンポンたたく。
隣に座れということだろう。俺は彼女の隣に座った。
「ねぇ、授業開始までまだ時間があるし、今のうちに校内を回っておかない?」
グレースが校内見学を提案してきたが、正直【世界地図】があれば迷わずに移動は可能だ。
だが校内を【世界地図】に頼らなくても移動できるよう実際に見ておいた方がいいかもな。
俺はグレースに校内を案内してもらうことにした。
図書館や職員室など校内を案内してもらう中、廊下の窓から俺は気になるものを見つけた。
視線の先には、まるでコロッセオのような闘技場があった。
あれはいったい何なのだろうか。
「あぁ、あれ? あれは闘技場よ。8月に行われる学園内対抗戦の舞台になる闘技場ね」
成程、学園内対抗戦なるものがあるのか。
名前から推測するに、魔法や剣術などで競い合うのだろう。
今は6月らしいので、2か月後のことだな。
俺は今の時間が気になったので懐中時計を召喚した。
どうやら召喚するときに時計の時間はこの世界のものに合わせられるようだ。
時計によると、今は8時53分らしい。
この学園の授業開始は何時なのだろうか?
「なぁグレース。今は8時53分だが、授業開始は何時なんだ?」
俺の言葉を聞いたグレースは、顔色を変える。
「何ですって!? 朝礼の開始は8時55分よ! 早く帰らないと!」
グレースとともに教室まで走り、なんとか時間までに席に滑り込んだ。
席に座るとともにどこからか鐘の音が鳴り響き、朝礼の開始を示した。
教室のドアが開くと、入ってきたのは試験監督でもあったメリルであった。
「はーい、みんなおはよう。今日は新しい生徒がいるから自己紹介してもらうわね」
そういってメリルが席に座る俺を手招きする。
俺は教壇に降りて、生徒たちの方を向いた。
こうして大勢の前で話すことなどほとんどなかったため、何を話せばいいか分からないな。
とりあえずありきたりな自己紹介でいいか。
「初めまして。ルフレイ=フォン=チェスターといいます。この度王立学園に入学いたしました。これからどうぞよろしくお願いします」
俺には特に関心が無さそうに、生徒からはビミョーな拍手が起こった。
グレースだけがちゃんと拍手してくれているのが逆に寂しい。
そんな俺を見て、メリルが横から助け舟を出してくれた。
「ルフレイ君は編入試験で全教科満点度たたき出した天才よ。全員負けないように精進しなさいね」
俺のテストの点数が満点だということを聞いて、教室がざわつく。
ざわつきが収まると、生徒の俺への視線は無感情から興味へと変わっていた。
これから全員と仲良くできたらいいな。
俺が自己紹介を終え自分の席に帰ろうとすると、扉が開いて生徒が入ってきた。
「マティアスさん。遅刻はしないようにといつも言っているでしょう。いくらライヒハルト家の人間であろうと見逃せるものではありませんよ」
ライヒハルト家、どこかで聞いた名だがはたしてどこだろうか……?
あっ、そうだ思い出した。以前島にやって来た宰相というオジサンの名だったな。
肝心の本人は島においてきっぱなしだな。
バルテルスとかいう騎士団長とともに空軍基地内で軟禁状態にしてあるから、生活水準は一定に保たれていると思うが。
今度王国に身柄を引き渡さないとな。
マティアスという男は、メリルにすみませーんと言って席に向かう。
その際に俺と目が合い、軽く会釈だけした。
少しトラブルはあったものの、俺が席に座ると授業が始まった。
1時間目は魔法理論。試験勉強で勉強したことが主であったが、新たな知識もあった。
特に問題はなく、授業は順調に進んでいった。
授業の後半、実際に魔法を使う事になった。
生徒たちが授業どおりに習った魔法陣を思い描き、魔法を発動させる。
今回使用する魔法はプチファイア。炎系魔法の基礎魔法だ。
あちこちで小さな炎が上がる中、俺は炎を作り出すことが出来なかった。
頭に描いている魔法陣はあっているはずなんだがおかしいな。
そう思っていると、余裕の表情でプチファイアを複数個展開していたグレースが俺を見ていった。
「上手く魔法を出来ないの? もしかしたら思い描く魔法陣が間違っているんじゃないかしら」
俺は思い描いている魔法陣は絶対にあっていると言い、紙の上に描いた。
魔法陣は間違っていないとグレースは言い、不思議そうに首を傾げる。
グレースは俺の手を握ぎり、とにかくもう一度やってみてほしいと言った。
俺は彼女に従ってもう一度放とうとする。
すると、グレースは驚いた表情をしていった。
「魔力の流れは感じるけれど、出力がまちまちね。もしかしてルフレイ、あなた魔力回路が形成されていない? でもそんなことはないか」
魔力回路? 確かに参考書には載っていたが、それがなにか関係があるのだろうか。
魔力回路がないと魔法が放てないと書いてあったので、MPを消費して使用する【統帥】が使える時点で魔力回路はもう形成されているものだと思っていた。
だが参考書にはまた、訓練によって次第に形成されるものと書いており、そのへんは神様パワーなのかもと考えていたのだが違うのかもしれない。
俺はグレースに魔力回路の訓練をしたことがないと伝えた。
「そうなの。今までどうやって暮らしてきたのかが気になるわね。まぁそれは置いておいて、まずは今日から魔力回路の訓練を始めましょうか。私も手伝うわよ」
まじか。手伝ってくれるのはありがたいな。
俺はグレースに「よろしく頼む」と伝えると、「まかしておけ」と返事が帰ってきた。
これで俺のやらなければならないことが決まったな。
よし、魔力回路の形成の特訓頑張るぞ!