「アルベルト! あなた、もうクビよ!!」
アメリアの喚き声が響く。
「私の元を離れてベアトリクスにばかり味方して! そして負傷して帰ってきて療養が必要ですって!? 何を甘えているの!!」
「申し開きもできません」
アルベルトは椅子に座ったまま答える。脛を中心に幾重にも巻かれた包帯には、数日経ってもまだ血のにじむ有様だった。
「主に謝るのに椅子に腰かけたままだなんて!」
「アメリア様……」
エルンストが傍でなだめる。
「あなただけが味方よ、エルンスト!」
アメリアはうるうるとした大きな瞳を零れ落ちそうなほど見開いてエルンストに抱きつく。
「それが……。大事な話があるのです。あなたはご自身の研鑽をなさらなかった。それゆえ、国王はあなたを次期国王にするのを考え直しておられ……」
「えっ!?」
アメリアはさらに目を見開いた。
「どういうこと? お父様が……私は女王になれるのではなかったの!?」
「ベアトリクス様」
エルンストは私を見た。アルベルトの姿に胸を痛めていた私は、名を呼ばれてはっとする。
「私は、べつにアメリア様の味方、というわけではありません」
「エルンスト!?」
アメリアが悲痛な叫びを上げる。
「私は次期国王の味方です。正確には、その向上心を高め、研鑽を積む助けをする存在です。ですからあなたが国王となれば、私はベアトリクス様に付き従います」
アメリアは声も発せないようだ。
「アメリア様、私がここへ来たのは、あなたの泣き言を聞くためではありません。国王様が大事なお話があるから集まるように、と。アルベルト、歩けますか」
「はい」
アルベルトは松葉杖をついてなんとか椅子から立ち上がった。私はそんなアルベルトを支える。
「ありがとうございます」
向けられた笑顔は穏やかで、けれど私の心は穏やかではいられなかった。アルベルトを傷つけたのは、お兄様の卑怯なやり口。お兄様が捕虜になったとは聞いていた。
(お兄様も、きっと助からないわ。口も利いてくれないお兄様で、お父様も殺してしまったと聞いた。お父様も、私を道具のように使おうとした。でも、身内がみないなくなってしまうのは、……やっぱりつらい)
そんなことを考えながら、私たちは王宮の廊下を進んでいく。
「……ベアトリクス様の兄上は、立派な方でしたよ」
突然アルベルトがそう口を開く。
「えっ? でも……」
「私に傷を負わせたのですから」
アルベルトはそう言って笑う。
「兵たちは、卑怯な手を使ったと言っていたわ……」
「戦に卑怯も卑劣もありません。私の隙を突いた。それは見事な観察眼と冷静さ、己を見つめる心がなければできないことです」
「そう……」
アルベルトは私を励ましてくれている、それだけは伝わったけれど。
「ですから、貴女まで兄を嫌わねばならないということはありません。この世でふたりきりの兄妹で、肉親でしょう。私は、天涯孤独ですから」
「天涯孤独……。私、知らなかったわ」
私が口にすると同時に、「着きました」とエルンストの冷静な声が広い廊下に響いた。