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第1章 2216/09/11

 ほら、おかあさん!頑張って!

 もっと、いきんで!リズムリズム!!


 は、は、ハ、ハ、ハハ、ハ、ハ!!!!!


 ウジャ!!頑張れ!!頭、出て来てるぞ!

 俺達の子だ!!頑張れ!ウジャ!!


 おかあさんの出血が止まりません!!

 貯血した自己血を!!


 はい!!


 あぁ、ウジャ!!頑張れぇぇ……

 もうすぐだ、ウジャ……愛してるぞぅ……


 ハアハア、ハ、ハハ、ハア、ハ、は………


 母体、呼吸不安定、意識消失状態!!

 子供を、子供を、取り上げよ!!


 お父さんは、僕が産まれた時の話を、

 僕が16歳になった今日、初めて話してくれた。


 多分、僕は未だおかあさんのお腹の中に居たんだと思うけど、両親の会話を何故か覚えているんだ。


 僕は、お腹の中に居るのにさ、

 お父さんは、僕が16歳になった時に着る、めちゃくちゃ高いブランドのスーツを買って来て、おかあさん、言葉も出なかった時とか……


 わざわざ、行ったことも無いイタリアに一人で行って、僕の為にオリジナルのネクタイ作ったとか。


 僕は、両親に愛されて育ったんだ。お父さんが僕の為に借金してまでスーツとかネクタイとか買って、二人共、十年以上同じ服しか着てないくせに。

 めちゃくちゃ貧乏なのに、おかあさんも笑ってたのが、あぁ、これが子供に注ぐ愛なのか…と、お腹の中で感じてたな。


 そんなこんなで、2200年9月11日に僕はこの世に産まれたんだ。名前は、ハル。二人で名付けたんだって。


 産まれたその日に、去勢手術を受けた。

 僕はこの時の状況も覚えているんだ。

 おかあさんは、この時、もう亡くなっていた。

 僕の為に、命を授けてくれた。


 おかあさんは、僕がお腹の中に居る時にお腹を優しく摩りながら、よく歌ってくれてた。


 R.E.Mの、Everybody Hurts。


 When your day is long

 And the night, the night is yours alone

 When you're sure you've had enough

 Of this life, well hang on


 Don't let yourself go

 'Cause everybody cries

 And everybody hurts sometimes


 Sometimes everything is wrong

 Now it's time to sing along

 When your day is night alone (Hold on, hold on)

 If you feel like letting go (Hold on)

 If you think you've had too much

 Of this life, well hang on


 Everybody hurts

 Take comfort in your friends

 Everybody hurts

 Don't throw your hand, oh no


 Don't throw your hand

 If you feel like you're alone

 No, no, no, you are not alone


 If you're on your own in this life

 The days and nights are long

 When you think you've had too much of this life to hang on


 Well, everybody hurts sometimes

 Everybody cries

 Everybody hurts sometimes

 And everybody hurts sometimes


 So hold on, hold on

 Hold on, hold on, hold on, hold on, hold on, hold on

 Everybody hurts


 おかあさんの優しい歌はとても響いた。


 お父さんは、おかあさんが亡くなった後、暫く立ち直れなかったらしい。僕は病院にいたから感じる事が出来なかった。

 去勢手術後は、心身に与える影響が大きい為に、山を越えるまでは麻酔漬けになり、それに耐えきれなくて亡くなる子供も少なくないそうだ。


 でも、退院してお父さんに会った時、お父さんはめちゃくちゃ元気(なフリ?)してて、大喜びをして二人で家に帰ったんだ。


 兎に角その後、お父さんは死ぬ程、働いていた。掛け持ちで18時間働いて、家の事を2時間やって4時間寝る、の毎日だった。 

 きついはずなのに、愚痴を履く事も、辛い姿を見せる事も、一度も無かった。


 僕は、お父さんの笑顔以外見た事が無い。


 一人で遊ぶ事が多かったけど、孤独じゃ無い。


 「ここに居るよ」って、おかあさんの声。

 「ハル、絶対幸せにするからな」って、お父さんの声。


 2216年9月11日。


 僕は、16歳になった。


 お父さんの買ってくれたスーツは、驚くほどピッタリのサイズだった。そして、イタリア製のネクタイ。


 今日は、おかあさんと、去年肺ガンが原因で他界したお父さんのお墓参りに来ている。


 僕は、恵まれて育ったんだ。


 僕も、両親のような人間になりたい。


 今の、こんな時代でも。

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