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第5話 ヘルソマルガリティア ②

 明くる日。

 シュトラは『理の魔女』として正装を身にまとい、海岸付近の講堂へと足を運ぶ。

 すると、海から鱗人族が飛び出てきて、ぺっちゃぺっちゃと地面を跳ねて移動していた。

「ロニ、こんちわー。講堂に行くの手伝おっか?」

「おー!シュシュじゃあないか、この前も見かけたのに、何か用事でもあって戻ってきたんか?」

 ロネア・イリダキス(第15座、漁火いさりびの魔女)。

 下半身が魚のようになっている鱗人族の魔女で、その下半身は白と赤の縞模様。そしてスカートにも見えるヒレが、派手派手と広がっている。

 対して可愛らしい乙女の童顔をしているため、ややアンバランスな印象をうける。

「スィルトホラへの仕事を終わらせて帰ってきたんだよ」

「そなんだ、いっつも大変だなー。講堂まで運ぶの手伝ってくれんなら、手伝ってほしいぞ。海に一番近い建物だけど、陸地を跳ねないと行けないのは、滅法不便だし」

「いっそのこと半分くらい海の上に作っちゃえばいいのに」

「いいな、それ。今回の会議で提案してみるわ」

 シュトラはロネアに軽量化の魔法を施し、ひょいと持ち上げる。

「いつもながらすっげえ便利な魔法。身を固めたりしてさ、共巣フォリャに残りなあ。色々手伝ってほしいことも多いし」

「パートナーかぁ」

「いい人おらんの?オレちはダーリンとラブラブだぞ」

「お熱いねぇ。いつ結婚したんだっけ?」

「春先だぜ、忘れたんか?いっぱい祝いの品を贈ってきただろ」

 ロネアは水掻きのある四本指でシュトラを突き、フグのようにぷっくりと頬を膨らませる。

「そうだったね!」

 思い出せていないが、そうであったとシュトラは納得する。

(こりゃ忘れてんな。シュトラの記憶、治してやれないもんかな。……出来んならグラリアがなんとかしてっか)

「心に決めたヤツが出来たんなら、その足を使って全力で走るんだぞ」

「あいよー」

 講堂の会議場に辿り着くと、既に5人の魔女が待機しており、シュトラとロネアへ簡単な挨拶をした。

「助かったぞ、シュトラ。持つべきものは友だな、にひひ」

「帰りも運ぶから、魔法は掛けっぱなしでいいよね?」

「おう、そうしてくれ」


 魔女たちが四方山話をしながら魔女の集合をまっていれば、最後に木目模様の翼の魔女が現れ、第1座から第16座までの魔女が一堂に会する。

 羽人族7名、鱗人族7名、純人族2名の計16名。羽と鱗の共巣フォリャ・トン・セイリノンに属する魔女、その中心人物たちだ。

 基本的には各人族が最低1名以上いる状態であれば開始できるので、全員が揃うことはそうそうないのだが、外での仕事を主とするシュトラが帰還していることが伝わり、本日は満席となった。

 ちなみにロネアは漁火漁いさりびりょうに出ており、シュトラと先ほど会ったことで知った。

「皆さん、集まっていますね。理の魔女全員が集合したということで、本来行うはずであった簡易議会は見送り、『理の集会』を開催いたします。…異論があるものは…、いませんね。では、――」

 円状に組まれた机、魔女たちの前に置かれた鐘を全員が鳴らすことで開催が決定した。

 ゴンゴン、と。

 理の魔女たちは共巣の要職に就いている者が殆どで、その報告を簡易議会及び理の集会で行う。

「現在、私の学び舎で教育課程にあるアノリアですが、―――」

 先ずは、クーヴァ・アセノープロス(第1座、教導の魔女)。

 最後に現れ開会の宣言を行った魔女だ。アノリアに対する魔法への向き合い方を教える教職を務めており、共巣に所属する魔女たちは殆どがクーヴァの弟子となる。

 年齢は「数えていないから分かりません」とのことだが、『始まりの魔女』の弟子であったことから、推定4000歳だ。…なのだが、見た目は20代と若々しい。

 これはクーヴァが魔法を用いる際に、『老い』を消費している事に由来する。

 基本的にアノリアとなった者はカラウスよりも寿命が長くなるが、その精々が150から200歳といえば、彼女の異常性は垣間見えるだろう。

 そんなクーヴァは、淡々と教育課程のアノリアに関する報告を行い、魔女として活動を志望する者を、希望に添える道の進めるよう各魔女へ提案をし、第2座の魔女へ移る。

「前回も報告をしましたがねぇ、晩夏から中秋に向けて大きな嵐が東部で発生します。風害の影響はありませんが、飛ぶには不便があります故、東部へ向けての飛行を控えるよう各所への連絡を。海に関しても例年の同時期よりも荒れる可能性がありますから…、漁の計画調整をしていただければと」

 背の丸まった小さな老婆の魔女は、魔法で測った天候を報告しつつ、他の魔女へ連絡を行う。

 この16名の中で、クーヴァの弟子でない魔女は3名。

 物心つく頃には魔法を使いこなしていたロネア。

 元野良魔女であった、シュトラと純人族の魔女だ。

 さて、順番が回り第15座ロネアの出番だが、彼女は外海漁業を主に活動する魔女で、食糧事情の一端を担っている。

「今年の漁火漁は、昨年一昨年とは比べ物にならないほどの収穫でな。取りすぎても良かないから、オレちの判断で放流してきたが、暫くはイカの流通が止まらんぞ、にひひ」

「イカは走るのが早い、氷を使える魔女を招集した方が良かないですか、クーヴァのあねさん」「解体は間に合いそうですか〜?」

 魔女たちは人員を総動員しようと賑やかになる。

「各自、必要な協力を行ってください。食料の保存は、人口増加傾向にあるヘルソマルガリティアに於いて重要事項ですので」

 クーヴァの一言で一同は肯く。

 その後、ロネアは細々とした漁獲量の報告を行い、今年も食糧に困ることがないと、ロネアの報告に各魔女が喜びを露わにする。

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