(オレちの出番はなかったな)
ロネアは心の内で呟きながら、頭を次に切り替え、いくつかの提案の準備を行う。
「頭に血がのぼって言い過ぎました…。騒がしくして、申し訳ございません」
謝罪をしたシュトラに一部の者はため息を吐き出し、一部の者は小さな拍手で意思に同調する。
共巣の総意としては、『勝ったところで益の無い戦争なんてまっぴら御免』が真実であろう。故に舐められない為に強く出ようとし、シュトラの意見にも肯けるのだ。
「…、私の方からも謝罪をいたします。…それでは次へ」
ここからは要望や提案などの話し合い。つまり、運営金の使い道の話ということだ。
現状を見回して運営費用の割り当て変更が必要な場合があれば調整し、共巣として必要なものの資金を工面したりと、先程までのシュトラが霞んで見えるほどの騒がしさとなる。
会議の建物を半分海の上に作ろうという、ロネアの提案は一瞬で却下された。
「先の報告で東部に嵐が発生すると申しましたが、迅速の魔女殿の出稼ぎを中止なされた方がよろしいのではないでしょうか?」
第2座の魔女が提案すると、シュトラは考え込む。
「偶には共巣でゆったりしても良いんじゃね?漁礁の建造、手伝ってよ」
にひひ、とロネアは笑みを浮かべて魔女に続く。
「じゃあ残ろうかな。急ぎの運搬があれば、そっちに向かうけど」
「よっしゃ、戦力確保!」
「ロネア魔女」
「ん?」
「ほどほどに」
「わあってるわあってるー」
こうしてシュトラはヘルソマルガリティアにしばらく残ることとなった。
理の魔女たちの侃々諤々とした会議は終わり、シュトラがロネアを抱えて外に出ると。
「お疲れ様です、魔女様!」
講堂の前で持ち場に戻っていく魔女へ挨拶をする、腰から魚尾生やした長身の鱗人族青年がいた。
「ダーリン!待っててくれたんだ」
「ロニ!待ってたよ!ああ、シュトラ様!ロニの事をありがとうございます!」
大急ぎで走り寄ってきたのは、ロネアの婿養子であるパラモス・イリダキス。
彼女の幼馴染であり、年齢は17歳。妻であるロネアは15歳。ヘルソマルガリティア及び周辺諸国の結婚事情を加味しても、かなりの若年結婚であり周囲の反対もそれなりにあった。
だが『うるせー!オレちがパラモスを幸せにすんだから、邪魔すんな!』と豪快に一蹴し、結婚に至ったとか。
「それじゃ、あたしは帰るけど。漁礁の手伝いは明後日でいいんだっけ?」
「おう。朝方に港まで来てくれればいいぞ」
「あいよー」
「シュトラ様にお手伝いいただけるのですか?」
「ちょっとゆっくりすることになったからね。顔も合わせることが多くなると思うし、よろしくねー」
「よろしくお願いします!迅速の魔女シュトラ様!」
「またなー」
イリダキス夫婦は港の方へと移動していき、シュトラは自宅へと帰る。
「クーヴァ様、あの駄魔女二人に大きな顔をさせてよろしいのですか!?」
理の集会が終わった後、クーヴァの許へ比較的若い理の魔女が二人、駆け寄ってきた。
「駄魔女?」
「
(…。シュトラ魔女へ特別な感覚がある事は確かですか、それを抜きにしても二人の活躍は目覚ましい限り。理の魔女に座を置くことで、厄介ごとから守れますし、運営金を円滑に回収し、役立てることが出来ます。…が、それをそのまま伝えたところで、まだ若い魔女たちには理解し難いのでしょう)
「いいですか二人とも。私が理の魔女となって幾年、首を回せば殆どの魔女が、私が立った壇上の生徒となっています」
「はい、そうです!」
「であれば、私の考えや思想が色濃く受け継がれ、見る方向までもが似通ってしまいます。そうした場合、死角となる場合が多くなり、
「「!!」」
二人はハッとした表情を見せて、納得をする。
「お二人も視野が広がることを期待していますよ」
「「はい!ししょっ、あっ…クーヴァ様!」」
「間違っても私の事を『先生』や『師匠』と呼ばないでくださいね」
「「申し訳ございません!!」」
「分かっていただければよいのです。それでは私は職務に戻ります」
木目模様の翼を広げたクーヴァは空へと飛び立ち、上空からシュトラを探し、目で追う。
(…そういえば…、イファアネス家の者から因縁付けられるだけの相手と馬球を観戦していたはずですが、相手は…)
クーヴァは眉を顰めた。