「おはよー、みんなー」
「おはようさん!」
早朝。
海には帆船が停泊しており、陸には漁礁として設置する為の岩や木材、廃船の破片などが転がっている。
「よう、シュシュ!来てくれて嬉しいぞ!」
「ロニもおはよー」
「おはようさん!」
パシャンと海面から飛び出てきたロネアは、下半身の魚尾で地面を跳ねシュトラの隣へとやってきた。
「これらを軽くして船に乗せればいいの?」
「シュシュの軽量化の魔法を用いれば、簡単且つ安全に積み込みと荷下ろしが出来るからな。頼りにしているぞ、にひひ」
「りょーかい、任せてよ。へへっ」
二人は笑みを交わし、ロネアが手を叩いて集まった全員の視線を集める。
「潮風の兄弟姉妹!今日のオレたちの業務は、海産資源を増やすための漁礁製作だ!危険を伴う業務に違いはないが、オレちの人脈で強力な助っ人を連れてきてやった、感謝しろ!」
「「「おおお!!」」」
そぞろな声はシュトラ一点に集まり、一同は納得し頷いた。
「どーも、よろしくね」
「「よろしくお願いします!シュトラ様!」」
軍隊めいた一糸乱れぬ動作でシュトラへ敬意を示す一同。
「よろしい!じゃあ先ずは
「周囲察知と船上への報告!」「危険生物が現れた場合は、船上への避難!」「要救助者が発生した場合は迅速な救助を!」
「
「船上離着陸の際は警笛を鳴らす!」「海上に落ちた場合は暴れず救助を待つ!」
「
「船上船内作業に於いて周囲に気を配り、事故を防ぐ!」「笛の音が聞こえたら離着陸場付近から退避を!」
3種族への点呼を終えたロネアは、瞳を閉ざし少女然とした歌声を披露すると、シュトラを含めこの場に集まった一同が続く。
『サラシペオンへの供歌』、船乗りが航海の前に安全を願って行っていたという、ヘルソマルガリティアのお祈りだ。
今では、何かを始める際の験担ぎとして、歌を歌うことがそれなりにある。
「頼むぞ、シュシュ!」
「あいよー」
シュトラは軽量化の魔法を資材に施し、それらを船員たちが積み込んでいった。
羽と鱗の共巣所有の作業帆船『マルガリタリ・ティス・ハラヴギース』。
船上で作業を行いやすくするため、船体幅が広く設計されており、ややずんぐりとした印象は拭えないが、数多くの職務を全うしてきた偉大な船舶だ。
「操風の魔法を使います!帆の付近には近寄らないでください!」
船上で羽人族の魔女2人が風を操り、帆に風を送れば、ゆったりと進み出す。
先行する羽人族が笛を鳴らし、作業船の進行路を示せば、漁船や交易船は海路を開けるように距離を取る。
「そういえばどこで作業するの?」
「今回は外海の小島帯だぞ。シュシュがいるなら、この船が入れん場所でも、軽量化した資材を届けられるかんな」
「あー、あの辺は運び込むのも大変そうだよね」
「だからシュシュが次に戻ってきた時にって計画してたら、すぐに戻ってきて。渡りに船ってやつだなー」
ご機嫌なロネアは船員に楽器を取りに行かせ、シュトラに渡す。
三絃の楽器を渡されたシュトラは、ポロンポロロンと陽気な音楽を奏で、船上は賑やかになっていく。
ヘルソマルガリティア外海、ニシーディオ区。
細々とした無数の小島が点在する共巣所有海域の一つで、基本的に外部の船舶が立ち入らない場所である。
「錨を下ろす!鱗人族は付近から離れろよー!」
「りょーかーい!」
海面から顔を出した鱗人族は、返事を終えると急いで船から離れ、船上から錨が投げ落とされる。
「積み込む時にも伝えたけど、資材を運ぶ時はチョークの魔法陣に触れないでねー」
「「あいよー!」」
「水には当てないよう運んだ方が良いですかね?」
「撥水の魔法を施しているから、だいじょーぶ。魔法陣を手で擦り消せば、魔法が解けるようになってるから、設置する場所まで運んだら、そこで消してね!下にいちゃだめだよー!」
「「りょーかーい!!」」
船員が漁礁資材を、海中で待機している鱗人族に渡し、各々所定の場所へと運んでいき、周囲へ注意を払い海へ沈めていく。
海に沈められた木材や岩、廃船の破片等は、海洋生物の隠れ家や生殖産卵場所となる。
きっと、これから海の恵みとして、育まれていくのだろう。
最後に、一番大きな漁礁資源が海へ降ろされ運搬され始めると、シュトラも海へ飛び降り、ロネアも続く。
「ぷはっ!」
「よっと。よーし!手を離すんじゃないぞー、シュシュ」
「わかったよ。すぅー、んっ!」
大きく息を吸ったシュトラは、ロネアへと掴まり海中散歩を行う。
基本的に羽人族は翼が濡れる事を嫌い、海の中に入ることは殆どないが、シュトラは飛行しない羽人族の為、気兼ねなく海中へと繰り出す。
(やっぱロニと泳ぐの、楽しいなぁ。へへっ、また海の景色も描こうかな、ロニとパラモスさんも加えて)
ぐぐぐっと海中を進み、所定の場所へと辿り着くと、ロネアは息継ぎの為に海面へと顔を出し、シュトラへ笑みを向ける。
「置き終わったら、ちと遠くまで行こう」
「いいねー。みんな順調みたいだし、時間にも余裕がありそう」
「にひひ、全然余裕だぞ!」
船員たちが資材を運び設置していき、シュトラたちは少しばかりの寄り道をし、遊泳を楽しむ。