目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第7話 海と船 ①

「おはよー、みんなー」

「おはようさん!」

 早朝。鱗人族イクシサントロポス用の水泳服を身に纏ったシュトラが港へ辿り着くと、3種族が入り混じって一箇所へ集まっていた。

 海には帆船が停泊しており、陸には漁礁として設置する為の岩や木材、廃船の破片などが転がっている。

「よう、シュシュ!来てくれて嬉しいぞ!」

「ロニもおはよー」

「おはようさん!」

 パシャンと海面から飛び出てきたロネアは、下半身の魚尾で地面を跳ねシュトラの隣へとやってきた。

「これらを軽くして船に乗せればいいの?」

「シュシュの軽量化の魔法を用いれば、簡単且つ安全に積み込みと荷下ろしが出来るからな。頼りにしているぞ、にひひ」

「りょーかい、任せてよ。へへっ」

 二人は笑みを交わし、ロネアが手を叩いて集まった全員の視線を集める。

「潮風の兄弟姉妹!今日のオレたちの業務は、海産資源を増やすための漁礁製作だ!危険を伴う業務に違いはないが、オレちの人脈で強力な助っ人を連れてきてやった、感謝しろ!」

「「「おおお!!」」」

 そぞろな声はシュトラ一点に集まり、一同は納得し頷いた。

「どーも、よろしくね」

「「よろしくお願いします!シュトラ様!」」

 軍隊めいた一糸乱れぬ動作でシュトラへ敬意を示す一同。

「よろしい!じゃあ先ずは鱗人族イクシ、航海に於いて重要なことは何だ!」

「周囲察知と船上への報告!」「危険生物が現れた場合は、船上への避難!」「要救助者が発生した場合は迅速な救助を!」

羽人族オルニ!」

「船上離着陸の際は警笛を鳴らす!」「海上に落ちた場合は暴れず救助を待つ!」

純人族カサゲノス!」

「船上船内作業に於いて周囲に気を配り、事故を防ぐ!」「笛の音が聞こえたら離着陸場付近から退避を!」

 3種族への点呼を終えたロネアは、瞳を閉ざし少女然とした歌声を披露すると、シュトラを含めこの場に集まった一同が続く。

 『サラシペオンへの供歌』、船乗りが航海の前に安全を願って行っていたという、ヘルソマルガリティアのお祈りだ。

 今では、何かを始める際の験担ぎとして、歌を歌うことがそれなりにある。

「頼むぞ、シュシュ!」

「あいよー」

 シュトラは軽量化の魔法を資材に施し、それらを船員たちが積み込んでいった。


 羽と鱗の共巣所有の作業帆船『マルガリタリ・ティス・ハラヴギース』。

 船上で作業を行いやすくするため、船体幅が広く設計されており、ややずんぐりとした印象は拭えないが、数多くの職務を全うしてきた偉大な船舶だ。

「操風の魔法を使います!帆の付近には近寄らないでください!」

 船上で羽人族の魔女2人が風を操り、帆に風を送れば、ゆったりと進み出す。

 先行する羽人族が笛を鳴らし、作業船の進行路を示せば、漁船や交易船は海路を開けるように距離を取る。

「そういえばどこで作業するの?」

「今回は外海の小島帯だぞ。シュシュがいるなら、この船が入れん場所でも、軽量化した資材を届けられるかんな」

「あー、あの辺は運び込むのも大変そうだよね」

「だからシュシュが次に戻ってきた時にって計画してたら、すぐに戻ってきて。渡りに船ってやつだなー」

 ご機嫌なロネアは船員に楽器を取りに行かせ、シュトラに渡す。

 三絃の楽器を渡されたシュトラは、ポロンポロロンと陽気な音楽を奏で、船上は賑やかになっていく。


 ヘルソマルガリティア外海、ニシーディオ区。

 細々とした無数の小島が点在する共巣所有海域の一つで、基本的に外部の船舶が立ち入らない場所である。

「錨を下ろす!鱗人族は付近から離れろよー!」

「りょーかーい!」

 海面から顔を出した鱗人族は、返事を終えると急いで船から離れ、船上から錨が投げ落とされる。

「積み込む時にも伝えたけど、資材を運ぶ時はチョークの魔法陣に触れないでねー」

「「あいよー!」」

「水には当てないよう運んだ方が良いですかね?」

「撥水の魔法を施しているから、だいじょーぶ。魔法陣を手で擦り消せば、魔法が解けるようになってるから、設置する場所まで運んだら、そこで消してね!下にいちゃだめだよー!」

「「りょーかーい!!」」

 船員が漁礁資材を、海中で待機している鱗人族に渡し、各々所定の場所へと運んでいき、周囲へ注意を払い海へ沈めていく。

 海に沈められた木材や岩、廃船の破片等は、海洋生物の隠れ家や生殖産卵場所となる。

 きっと、これから海の恵みとして、育まれていくのだろう。

 最後に、一番大きな漁礁資源が海へ降ろされ運搬され始めると、シュトラも海へ飛び降り、ロネアも続く。

「ぷはっ!」

「よっと。よーし!手を離すんじゃないぞー、シュシュ」

「わかったよ。すぅー、んっ!」

 大きく息を吸ったシュトラは、ロネアへと掴まり海中散歩を行う。

 基本的に羽人族は翼が濡れる事を嫌い、海の中に入ることは殆どないが、シュトラは飛行しない羽人族の為、気兼ねなく海中へと繰り出す。

(やっぱロニと泳ぐの、楽しいなぁ。へへっ、また海の景色も描こうかな、ロニとパラモスさんも加えて)

 ぐぐぐっと海中を進み、所定の場所へと辿り着くと、ロネアは息継ぎの為に海面へと顔を出し、シュトラへ笑みを向ける。

「置き終わったら、ちと遠くまで行こう」

「いいねー。みんな順調みたいだし、時間にも余裕がありそう」

「にひひ、全然余裕だぞ!」

 船員たちが資材を運び設置していき、シュトラたちは少しばかりの寄り道をし、遊泳を楽しむ。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?