「それでは、謹んで鑑定をさせていただきます」
「…お願いします」
「……-」
すると鑑定士は、両の瞳に淡いブルーの光を宿した。…それがスキル使用中のサインだと知る俺は、緊張しながら終わるの待つ。
「-…素晴らしい」
「…はい?」
やがて鑑定が終わると、鑑定士は開口一番称賛の言葉を口にした。…恐らく『ハズレ』ではないのだろうが、別の意味で不安になる。
「…ああ、失礼しました。若様の素質があまりにも素晴らしい物でしたので。
まずは、おめでとうございます。貴方はきちんと、スキルを身に付けておられます。
-しかも、当主様と奥方様の持つ二つを」
「…っ!」
それを聞いて、俺は驚きつつも納得した。…要するに、俺は『デュアルスキル』持ちというごになる。
確か、『原作』では数人のネームドキャラしかデュアルスキル持ちは居なかった筈だ。…しかし、何故『モブ貴族』の俺がそれを?
「…どうやら、貴方には『果たさなければならない使命』があるようですな」
「……」
すると、鑑定士は意味深な事を言う。それを聞いて、俺はハッとした。…何故なら、原作でも彼らは若くして偉業を成したのだから。
それを思い出した時、ふとある決意をする。
「…そうですね。私には、いずれ現れるやもしれない『平穏を脅かす者』から、我が伯爵家と国家を守護するという使命があります」
「…ご立派です。
…ならば、スキルを極限まで磨き上げるべきかと。それが、使命を果たす唯一の方法です」
「…分かりました。本日は、ありがとうございました」
「恐縮です」
俺は立ち上がり、鑑定士に深い礼をした。すると、タイミング良くドアが開いたので俺は部屋を出る。
「-…っ!…若様、結果は如何でした?」
「大丈夫。…とりあえず、『悪い結果』ではなかったよ」
「…っ!…おめでとうございます」
それを聞いて、メイドは心底ホッとする。…どうやら、内心心配してくれていたみたいだ。
「ありがとう」
「…はい」
「…それでは、後日鑑定書をお送り致します」
「ありがとうございます」
そして、再び職員の後に続いて俺達は建物を出る。それから、直ぐに馬車へ乗ると少ししてから馬車は動き出した。
「-……」
「…若様、如何致しましたか?鑑定所を出てから、ずっと難しい顔をなされていますよ?」
道中、俺はとある事を考えていた。するとメイドは、少し心配そうに聞いてくる。…なので俺は、今から『仕込み』をする事にした。
「…第二王女殿下にお近づきになるには、どいたしたら良いと思う?」
「…っ!…やはり、若様も殿下と『善き仲』になりたいと願っているのですね」
年上の彼女は、俺の『目的』を知り温かい微笑みを浮かべる。…そう。これこそ、俺の考えたプランだ。
-名付けて、『第二王女籠絡計画』。
要するに、追放の首謀者である第二王女を攻略し第三王女への嫉妬を抱かせない計画だ。…そもそも、第二王女が嫉妬に狂った原因は彼女の意中の人である『帝国の皇太子』が、第三王女を見初めてしまったからだ。
だから、それを防ぐには俺が彼女より『強い異性』になるしか道はない。…何故なら、第三王女の攻略は不可能に近いからだ。
それは、『王女の攻略対象となる若者達は帝国の聖獣によって選ばれている』…という設定があるからだ。…当然、王国に居る今もこの設定は適用されるだろう。
それに、第二王女の攻略を思い付いた理由は他にもある。…例えば、王女の『恋愛対象となれる人物』の条件は自分よりも強い男だ。
だから、王女は『剣の貴公子』の名を持つ帝国最強の剣士たる皇太子に惚れるのだが、よりによって自分の妹に惹かれてしまう。…何故なら、皇太子な『隠れ聖獣オタク』だったのだから。
「-…そうですね。
やはり、第二王女殿下に若様の実力を直接お見せするのが宜しいかと」
「…なるほど。
-『マギデュエル』か」
「はい。
今より二年後、若様は王国が定めた法律に基づき王国立騎士学園に通われます。そして学園では、一年に一度生徒同士が実力を競い合う催しである、『マギデュエル』が行われます」
詳しい説明を聞きながら、俺はそのイベントの事を思い出していた。…これが、二つ目の理由になる。
「そして、殿下は若様より一つお歳が上となります。…つまり、若様が学園に入られる頃には殿下は『学園の先輩』となり、その催しで良い成績を残こせば殿下は若様に注目して下さる筈です」
メイドは自信を持ってそう言ってくれた。…そして、これが最後の理由だ。しかし、このプランには一つだけ大きな欠点がある。
-それは、『二年生になるまで』というタイムリミットがある事だ。…それを過ぎると、この王国のターニングポイントとなるイベントが発生してしまう。つまり、そこまでになんとしても王女を攻略しなければバッドエンド不可避だ。
-そんな話をしている内に、俺達は家に到着した。なので俺達は馬車を降りた。…すると直ぐに、両親が駆け寄って来る。
「おお、帰ったかっ!」
「二人共、お帰りなさい」
今朝『初めて顔を見た』俺の両親は、待ちわびたように声を掛けてくれた。…朝食の時は落ち着いていたようだが、やはり心配していたのだろう。
「ただいま帰りました。父上、母上」
「ただいま戻りました」
「…それで、どうだったのだ?」
「……」
「ご安心下さい。私は、この家にふさわしいスキルを授かっていました」
「…おお」
「…良かった」
すると、両親も心底安堵した顔になる。…やはり、『ハズレ』を引いていたらかなりマズイ事になっていたんだな。
「さあ、詳しい話は後で聞くとしよう」
「まずは、ゆっくりと休みなさい」
「分かりました」
そう言われたので、俺は素直に従う。…正直言うと朝から緊張していたので、マジでゆっくりとしたい。
それで、俺は両親とメイドと一緒にデカイ屋敷の中へ入った-。
「-父上、宜しいでしょうか?」
『ああ、入りなさい』
それから数時間後。俺は父親の仕事部屋に来ていた。そして、中に入ると領主としての仕事をしている父が待っていた。…やはり、領主というのは多忙を極めるのだろう。
だが、指定があったとはいえきちんと息子と話す時間を設けるあたり、とても良い親なのだろう。…まあ、でなければ待ちきれず玄関で出迎えたりはしないか。
「座りなさい」
「はい」
内心で親ガチャ成功に喜んでいると、父親はフカフカの椅子に座るように言った。なので俺は一礼し、静かに腰を掛ける。
「さて、お前は一体どちらのスキルを得ていたのかな?」
「…実はですね-」
早速本題に入ったので、俺は包み隠さず鑑定の結果を話した。…当然、それを聞いた父親は唖然とする。
「-…なんと。…まさか、我が息子の一人がデュアルスキル持ちだったとは」
「…アプスレル殿も、大変驚いていましたよ」
「…かの御仁は、殿下達を含めた大貴族の跡継ぎ達を鑑定しているからな。
余計、驚かれたに違いない。…これは、教育係を二人選ぶ必要があるな」
「宜しくお願いします」
そして、父親は真剣な顔で『指導役』の事を口にする。…いや、身分ガチャについてら大成功だと思う。
もし、市民の身分だったらスキルを磨くどころか、『計画』を思い付く事すら出来なかっただろう。
「…では、明後日までに教育係を呼ぶのでそれまではスキルは使用しないように」
「はい。…それでは、失礼しました」
「ああ。…それと、家の者には私から伝えておく」
「ありがとうございます」
話は終わったので、俺は部屋を出て再び自室に戻った。…明後日から、いよいよ計画の第一段階である『修行パート』がスタートする。
なんとしてもその中で、普通のラインよりも強くならないといけない。…改めて決意を固めた俺は、広い家の中を進むのだった-。