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実力テスト

 -それからの日々は、大変だったけれどとても充実していた。

 まず、春の盛りには桜に似た花が散る中で槍を交えたり、落ちる夜桜に雷を当てたりした。

 あるいは、夏の太陽が照り付けるなか滝のような汗を流しつつ、木陰で連続突きの鍛練に取り組み、夕暮れ時には空に向けて雷を放った。

 また、秋には落ち葉の絨毯の上を槍を構えながら素早く駆け抜けたり、落ちそうな葉の細長い部分に刺のような雷を放ったりした。

 そして、雪が降り始める前に指導役はそれぞれの家に戻り、その間は与えられた『宿題』をこなした。

 それから年を越し雪解けとなると、また指導役達はやって来るので宿題を見せ、褒められた後に新たな課題をこなしていく。  


「-おおっ!また背も身体も成長したなっ!」

「それに、また一段と精悍な顔になられましたね」

 そんな日々を送る内に、いつの間にか背も伸び身体は屈強になった。…それに合わせて、随分と顔付きが逞しくなったと家族や指導役は言ってくれた。

「さあ、今日は鍛練の締めくくりの日だっ!」

「準備は宜しくて?」

 そして、今日は鍛練の最後の日だ。…当然それは、『テスト』の日でもある。だから、指導達は今までと違い静かにプレッシャーを放っていた。

「勿論ですっ!」

「意気や良しっ!…では、構えよっ!」

「はいっ!」

 まずは、『いつも通り』槍の指導役であるボルグス隊長が試験官となる。だが、俺は気圧されずに返事をして静かに槍を構えた。


「行くぞっ!」

「行きますっ!」

 それから直ぐに、俺達は互いに向かって突撃する。そして、程なくして互いの槍の穂先はぶつかり合った。

「…っ!」

 相変わらずの重たい突きだが、二年間の鍛練のおかげで足腰は大分強くなったおかげで、後退する事はなかった。…すると、試験官はニヤリとする。

「おおっ!ようやく私の突きに耐えれるようになったかっ!

 鍛練を始めた頃、突き飛ばされていたのが嘘のようだっ!」

「ありがとう、ございますっ!

 -はああああっ!」

 試験官のお褒めの言葉に、俺は礼を言う。その直後、渾身の力を込めて前に踏み出た。

「おおっ!…ならばっ!」

 すると、僅かだが試験官を押し返す事が出来たので相手は感嘆の声を上げる。…だが、直ぐに相手はこちらの倍の力で前に進んで来た。


「はああああっ!」

「おおっ!?だがっ!」

 なので俺は、前に進むのを止めて思い切り後ろへ跳躍する。…だが、当然試験官は直ぐに距離を詰めて来た。

「はああっ!」

 そこで俺は、素早く左側に駆け出し試験官の背後に回り込む。…そして、そのまま突きの体勢に移り背中を狙おうとした。

「甘いっ!」

 しかし、試験官は急に止まり直後その場で半回転をしてなぎ払いを放った。…だから、そこで俺は連続突きに切り替える。

「むうっ!?

 -…と、言うと思ったかっ!」

「なっ!?」

 そして、一撃目はなぎ払いで防がれるが次の突きが命中しようとした。…しかし、試験官は回転を続け二回目のなぎ払いを放った。

 それから、試験官が回る度に俺の突きは悉く防がれてしまった。


「はああああっ!」

「うわっ!?」

 やがて、こちらの攻撃が終わると試験官は即座に回転を止め、お返しとばかりに連続突きを放つ。…当然、その攻撃を捌き切れず三突き目でこちらの槍は破壊されてしまった。

「…っ!……はあ、参りました」

 なので、俺は直ぐに両手を挙げて降参を宣言した。…直後、試験官は槍を引いた。

「…見事だ。まさか、僅か二年程でここまで戦えるようになるとはな」

「…っ。ありがとうございます」

 試験官から『合格』を言い渡され、とりあえず俺はホッとした。…しかも、一定ラインを少し越えているような評価も貰えたので、少し嬉しかった。

「これからも、精進するが良い」

「はいっ!」

「…さて、休憩を挟んだら今度はワタクシが若様の実力を測ります」

「宜しくお願いします」

 そう言って、ロエイド女史はすっかりお気に入りの場所になったテラスへ移動した。…無論そこには、既に家の者がコーヒーと防寒グッズを用意していた-。


 -それから数十分後。しっかりと休んだ俺は再度裏庭に来ていた。…すると、女史はその中心で静かに佇んでいた。

「…っ」

「来ましたわね」

 当然、女史は既に臨戦態勢となっていたので俺も素早く聖霊を手に取り込む。…これも、二年の鍛練の成果だ。

「…本当に、良くぞそこまで成長なさいましたね」

「女史のおかげですよ」

「…いいえ。ワタクシは少し『お手伝い』をしただけに過ぎません。

 全ては、若様の恵まれた才能とこれまでの努力の賜物ですわ」

 女史は穏やかな微笑みを浮かべながら、手に集めた雷を少しずつ激くしていく。…それに合わせて、俺も力を強くした。


「さあ、素敵な時間を始めましょう」

「はいっ!」

「「ボルトバレットッ!」」

 直後、俺と試験官は同時にバレーボールサイズの雷の弾丸を放つ。そして、瞬く間に二つの弾丸はぶつかり合った。

「「ボルトスパートッ!」」

 だが、二つの弾丸が消える前に俺と試験官は雷の聖霊を足に取り込む。そして、試験官は俺から逃げるように走り出したので、俺はその後を追い掛けた。

「ボルトブラスターッ!」

「ボルトシールドッ!」

 やがて、試験官の背中を捉えると相手は前を向いたまま手をこちらに向け、太い雷のビームを放ってきた。それに対し、俺は雷のシールドを展開しビームを防いだ。


「ボルトボムッ!」

「ボルトシールドッ!」

 そして、ビームが終わる直前に俺は文字通り黄色の手榴弾を作り出し、女史の側面にそれを投げる。…当然、女史は片方にシールドを展開した。

「『フラッシュ』」

「…くっ!?」

 次の瞬間、眩い閃光が発生し女史は目を閉じてしまう。…本来、この魔法は内包された雷の力をスパークさせて相手を攻撃するモノだが、今みたく出力を抑える事で閃光弾としても使えるのだ。

「『ボルトバレット』」

「…っ!ボルトシールドッ!……?」

 女史が目を閉じている内に、俺は明後日の方向に『玉』を放った。…当然、それは女史の防御に妨げられる事なく空へと飛んでいく。

「…っ。…一体何を-」

「-ボルトフォールッ!」

 ようやく目を開けた女史に、俺は空に打ち上げた『玉』に込められた力を解放する。…次の瞬間、女史目掛けて小さな雷が落ちた。


「ボルトアンブレラッ!」

 しかし、女史は空に両手を向けて対空防御魔法を発動した。すると、ドーム状の『傘』は落雷から女史を守った。…やっぱり、この程度の不意打ちは通用しないようだ。

「…ふふ。まさか、『二回目の宿題』をやり遂げるとは思っていませんでした」

「…ありがとうございます」

 気を取り直していると、ふと女史は足を止めたばかりかこちらを向いて称賛する。…とりあえず、気を抜かずに軽く頭を下げる。

 こういう時、女史は必ず『何か』を仕掛けてくるからだ。

「…見事、『ボルトスフィア』の中に『ボルトフォール』を封じ込めましたね」

 一方、女史は先程俺がやった事を改めて説明する。…そう。先程のは、所謂『コンボ』技の一つだ。

 ただ、格上相手にアレを決めるには先程みたくひと工夫必要になる。…まあ、『マスタークラス』にはまるで通じなかったが。


「では、頑張ったご褒美にワタクシの一番得意な魔法をご覧にいれて差し上げましょう」

「…っ!?」

 女史はそう言った直後、スフィアを次々と生み出しては空に打ち上げていく。…しかも、一つや二つではなく沢山空に放った。

「…ああ、一つ忠告をしておきましょう。

 -くれぐれも『お逃げ』にならないでくざいませ」

「…っ!」

 女史は、優しい微笑みのまま意味深な忠告をした。…まさか、『アレ』を見せてくれるというのか?

「ライトニングキューブ」

 すると、女史は俺の回りに四角い箱のような防御魔法を展開した。…多分これは、『安全』に技を見る為のモノだろう。

 -何せ、今から女史が放つ魔法は広範囲殲滅魔法なのだから。


『ライトニングレイン』

 そして、女史が言葉を紡ぐと空に打ち上げられた沢山のスフィアから、文字通り雨のように雷が降注ぐ。…まあ、流石にいろいろと配慮しているのか『見慣れたやつ』よりと比べ、大分規模は小さかった。

 だが、それでも十分圧倒された。…こんな実力を持つ女史ですら、大魔導士として認められないのだ。果たしてどれだけその人達はヤバいんだろうか?

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