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第2話 過ち


 酒がまだ3割ほど入っている便を片手に街をふらついていた。真夜中のこともあり歩いている人間は俺しかいない。


先ほどのことを思い出し、俺はどうしようもなく壁を叩きつける。

拳から血が出ようと何度でも叩きつける。


「クソッ!」



良いんだ。俺は一人になるべきだ。

俺は誰かとつるむような人間じゃない。

俺は大切な人を守れないタンクなんだ。




飲み過ぎてしまった。

視界が水面のように揺れているし、吐き気が込み上げてくる。それに聞こるはずのない、聞きたくない声が聞こえてくる。


「将来はあの丘の上で結婚しようね!」


いつまで俺を付き纏うんだ。


「黙れ!」


瓶を床に叩きつける。

その反動で飛び散った破片が顔にささる。


「助けてよ!アルル!私、足が、足が動かないの。ねぇ、ね、ねぇ、なんで下がっていくの?」


やめろ。

あの時を思い出させるな。


「た、す、けて、アルル」



あの時から俺は無理なんだ。

最初からタンクなんか出来ないんだ。



「私を置いて逃げた「クズ野郎」」


さっき言われたアヤルに言われたクズ野郎があいつの言葉と重なって聞こえてくる。


「良かったね。パーティーの誰も殺さなくて。でもタンクしか才能がないんだもんね。え、才能なんてあるのかな?私を見殺しにしたもんね」


(黙れ)


「きっと"元"パーティーのみんなは今ごろ喜んでるよ。殺されなくて済んだって」


(黙ってくれ)


「ねぇ、なんであの女は守ったのに、私は守ってくれなかったの?」


(やめてくれ)


「私のこと好きじゃなかったの?」


(違う)


「酒を使って私から逃げてるだけだもんね。やけになってるだけだもんね。でもさ」


彼女の声は続く


「そんなことしても私は生き返らないよ?」



俺は力が抜け、涙を流しながら道のど真ん中で赤子のようにうずくまる。


(もう許してくれ。お願いだから)


涙と酒ので視界がぼやけているがはっきりと分かる。目の前にあいつがいる。


「ねぇ、逃げられないよ」


恐怖心からか、それとも過去からの逃走か分からない。俺は何も考えずに走り出す。


(あっ)


目の前の先が港であることに気が付かなかった。

俺は空中で足を踏もうとし、落ちていく。


酒のせいでうまく泳げない。

頭痛がひどい。

寒い。


「寒いなんて感じれて良いね。私は何も感じれなかったよ。なんにも」


俺はここで死ぬべきなのかな。

あいつの後を追って死ぬべきか?


俺はあいつを見殺しにしたのに、死が怖かった。

あいつと死が怖かった。

だから逃げ続けた。


それなのにどのパーティーの入団テストでもタンクしか認められなかった。


俺は守るべきものを守れないクズなのに。



酒が入っているおかげか、冷たかった水が今では暖かく感じる。


せめて別の街で消えれば良かったな。

パーティーに最後まで迷惑かけたな。



心地良い眠気に誘われて俺は瞼まぶたを閉じた。



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