「それでは、Cランク昇格を祝って……」
「乾杯!!!!!」
五人の声が重なる。
本日、俺達のパーティ『モグラ団』は、ついにCランクに昇格できた。
「いやー、本当に、ここまで長かったよなあ……」
口に含んだエールを飲み込み、俺は思わずしみじみと言ってしまう。
「ちょっとリーダー、まるでオッサンじゃん、その言い方」
けらけら笑いつつ、僧侶のマリーが俺の肩をバシバシ叩きながら言う。神に仕える身とは思えないような俗っぽい物言いだが、これがこいつの個性なんだから仕方ない。
つーか、もう酔ってんのか……。
「今回Cに上がるまで、ホント色々あったよね。どっかのバカ男共がサキュバスから誘惑食らったときとか、ヤバい死んだって思ったもん」
この毒も棘もある言葉は盗賊のメリッサ。痛い痛いマジ痛い。
「は、反省してます……」
重戦士のギリアムが大きな体を縮こませながら、シュンとした声で言う。声ちっさ。
「と、とにかく。ここまで誰も欠けずにやってこれたんだから、それで良いじゃないか。な?」
これは魔術師のエリク。露骨に纏めに入りやがったなこいつ。
「だ、だよな。実際、パーティメンバーの入れ替えなんてよくあるらしいし、その、死ぬこととかも……」
祝いの場に相応しくない発言だったとは思う。だが、言わずにはいられなかった。
実際、パーティメンバーが死んで新しく加入したりとか、責任の擦り付け合いでパーティ瓦解とか、そういう類のものは何度も見てきた。
「だとしたら、私達は相当運が良いのかもね。もしかしたら、悪運かもしれないけど」
暗くなりかけた場を、メリッサの皮肉が刺す。こいつの空気読まないようで空気読んでる言動に、今まで何回助けられたか。
「おーおー、深刻な話の最中失礼するぞ?」
言いながら、酒場のマスター……いや料理人か、ジャーロさんが大皿をテーブルにドンと置く。
「コイツはギルドマスターからの差し入れだ。昇格おめでとう、ってな」
たっぷりと盛られた燻製肉に、たっぷりと盛られた腸詰めに、たっぷりと盛られた塊肉の煮込み。
断言する。肉が嫌いな冒険者なんていない。
「あっざーーーす!!!!!」
また五人の声が重なる。
早速フォークを突き刺し、口の中一杯に頬張る。
ああ……肉。肉だ。肉は正義。肉こそ至高。肉は全てを解決する。
「しかしまあ、ゴブリン相手にビビりまくってた連中が、Cランクにまで上がってきたとはなー」
感慨深そうに、ジャーロさんがうんうんと頷く。
そう。数年前、俺達がパーティを結成したばかりの頃は、ゴブリンどころかコウモリ相手にビビって大騒ぎしてたもんな。
「だが……気を付けろよ? そこそこ前から、CランクやBランクの連中が行方不明になってるって噂、ちらほら耳にするからな」
「うわ何ですかその噂。俺、その、怖い話とか幽霊とか、そういうの苦手なんですよ……」
ギリアムが大きな身体を小刻みに震わせる。
マジでビビりだなこいつ。知ってたけど。
「いや、あくまで噂だからな? そりゃ、気を付けるに越したことはない……」
そこまで言いかけて、俺は妙な気配を感じた。
見られているような、観察されているような、注意を向けられているような、そんな気配。
俺は思わず後ろを振り返るが、妙な気配はもう完全に消えていた。
エールを片手に盛り上がる一団。
腸詰めの最後の一個を奪い合ってる連中。
酒を飲みながらカードに興じてるパーティ。
酒瓶を抱えながらテーブルに突っ伏して寝ている、酔っ払いのおっさん。
いつもの、普段通りの、ギルドの酒場だ。
「ねえねえトープぅ、燻製肉の最後の一個、貰っちゃうわよぉー?」
やけに色っぽい声で、俺の名前を呼ぶマリー。
完全に酔っ払ってるマリーは、モズのはやにえみたいに、燻製肉をフォークに突き刺している。
「あっ、お前! まだ俺それ一個も食ってねぇんだよ!」
塊肉の煮込みは六個ほど食ったけどな。
「酒も、食うのも、程々にしとけよ? じゃねーと、いざって時に動けなくなるぞ?」
笑いながら、ジャーロさんは厨房に戻っていく。
いつもの、普段通りのギルドの酒場。
……だよな? 多分。