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第4話 ギルドの日常‐Cランク冒険者・トープ‐

「それでは、Cランク昇格を祝って……」

「乾杯!!!!!」

 五人の声が重なる。

 本日、俺達のパーティ『モグラ団』は、ついにCランクに昇格できた。

「いやー、本当に、ここまで長かったよなあ……」

 口に含んだエールを飲み込み、俺は思わずしみじみと言ってしまう。

「ちょっとリーダー、まるでオッサンじゃん、その言い方」

 けらけら笑いつつ、僧侶のマリーが俺の肩をバシバシ叩きながら言う。神に仕える身とは思えないような俗っぽい物言いだが、これがこいつの個性なんだから仕方ない。

 つーか、もう酔ってんのか……。

「今回Cに上がるまで、ホント色々あったよね。どっかのバカ男共がサキュバスから誘惑食らったときとか、ヤバい死んだって思ったもん」

 この毒も棘もある言葉は盗賊のメリッサ。痛い痛いマジ痛い。

「は、反省してます……」

 重戦士のギリアムが大きな体を縮こませながら、シュンとした声で言う。声ちっさ。

「と、とにかく。ここまで誰も欠けずにやってこれたんだから、それで良いじゃないか。な?」

 これは魔術師のエリク。露骨に纏めに入りやがったなこいつ。

「だ、だよな。実際、パーティメンバーの入れ替えなんてよくあるらしいし、その、死ぬこととかも……」

 祝いの場に相応しくない発言だったとは思う。だが、言わずにはいられなかった。

 実際、パーティメンバーが死んで新しく加入したりとか、責任の擦り付け合いでパーティ瓦解とか、そういう類のものは何度も見てきた。

「だとしたら、私達は相当運が良いのかもね。もしかしたら、悪運かもしれないけど」

 暗くなりかけた場を、メリッサの皮肉が刺す。こいつの空気読まないようで空気読んでる言動に、今まで何回助けられたか。

「おーおー、深刻な話の最中失礼するぞ?」

 言いながら、酒場のマスター……いや料理人か、ジャーロさんが大皿をテーブルにドンと置く。

「コイツはギルドマスターからの差し入れだ。昇格おめでとう、ってな」

 たっぷりと盛られた燻製肉に、たっぷりと盛られた腸詰めに、たっぷりと盛られた塊肉の煮込み。

 断言する。肉が嫌いな冒険者なんていない。

「あっざーーーす!!!!!」

 また五人の声が重なる。

 早速フォークを突き刺し、口の中一杯に頬張る。

 ああ……肉。肉だ。肉は正義。肉こそ至高。肉は全てを解決する。

「しかしまあ、ゴブリン相手にビビりまくってた連中が、Cランクにまで上がってきたとはなー」

 感慨深そうに、ジャーロさんがうんうんと頷く。

 そう。数年前、俺達がパーティを結成したばかりの頃は、ゴブリンどころかコウモリ相手にビビって大騒ぎしてたもんな。

「だが……気を付けろよ? そこそこ前から、CランクやBランクの連中が行方不明になってるって噂、ちらほら耳にするからな」

「うわ何ですかその噂。俺、その、怖い話とか幽霊とか、そういうの苦手なんですよ……」

 ギリアムが大きな身体を小刻みに震わせる。

 マジでビビりだなこいつ。知ってたけど。

「いや、あくまで噂だからな? そりゃ、気を付けるに越したことはない……」

 そこまで言いかけて、俺は妙な気配を感じた。

 見られているような、観察されているような、注意を向けられているような、そんな気配。

 俺は思わず後ろを振り返るが、妙な気配はもう完全に消えていた。

 エールを片手に盛り上がる一団。

 腸詰めの最後の一個を奪い合ってる連中。

 酒を飲みながらカードに興じてるパーティ。

 酒瓶を抱えながらテーブルに突っ伏して寝ている、酔っ払いのおっさん。

 いつもの、普段通りの、ギルドの酒場だ。

「ねえねえトープぅ、燻製肉の最後の一個、貰っちゃうわよぉー?」

 やけに色っぽい声で、俺の名前を呼ぶマリー。

 完全に酔っ払ってるマリーは、モズのはやにえみたいに、燻製肉をフォークに突き刺している。

「あっ、お前! まだ俺それ一個も食ってねぇんだよ!」

 塊肉の煮込みは六個ほど食ったけどな。

「酒も、食うのも、程々にしとけよ? じゃねーと、いざって時に動けなくなるぞ?」

 笑いながら、ジャーロさんは厨房に戻っていく。

 いつもの、普段通りのギルドの酒場。

 ……だよな? 多分。

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