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14.これからのこと

「とりあえずの目処は立ったから、これからどうするか決めようか」


 風呂場から戻った俺は、タブレットスタンドをダイニングテーブルに置いてエクスと相談を始めた。


「ご飯を食べましょう」

「こだわるなぁ……」

「だって、オーナー。ご飯食べなかったら、死んじゃいますよ?」


 そんなことないよ。結構、いけるって。

 ソースはブッダ。


 とはいえ、このままではエクスが納得しそうにない。


「分かったって。それは後で買うから。だけど、他にもっと決めておくことがあるだろ?」


 もう、そこまで言われたら食べるしかないなと、俺は覚悟を決めた。


 ……冷静に考えると、なんで俺はこんなに食事を拒否しているんだろうか?


 自分のことが、よく分からない。


「絶対ですからね! あと、ちょっとは寝てくださいよ!」


 と、念押しをしてからデフォの巫女服エクスが腕組みをする。


「……むしろ、食事と睡眠が不要になるアプリを入れれば、万事解決なのでは?」


 さすがに、そんなのはないと思うけど……。


「あー、ありますね……」

「って、あるのかよ! なんでもあるな」


 なんでもはないです、あるものだけですと前置きしてから、エクスが説明を続ける。


「《タイムレスボディ》というアプリがですね」


 直訳すると、時知らずの体? 鮭かな?


「そのままずばり、食事と睡眠が不要。さらに、一般的な病気や毒も無効で、年も取らなくなるそうです」

「……今になって、年を取らないと言われてもな」

「なにを言ってるんですか。オーナーは、今が一番若いんですからね?」


 そうだよね。年を取る一方だよね。時間は進んでいくんだもんね……。


「ちなみに、おいくら?」

「石、100万個ですね」

「はい、解散」


 3億円かよ。生涯年収じゃん。

 不死じゃないにしても、不老になったら老後がいつまで続くか分かんねえじゃねえか。


「物は考えようですよ、オーナー。お金で不老長寿が買えると思ったら、安い物じゃないですか」

「それは確かに……」


 でも、それを買うのって鎌倉の御前とか、そんな感じのフィクサーっぽい老人キャラだよね? 悪役だよ。


「それに、ほら。これで名実ともに、吸血鬼ですよ! やった!」

「古傷を抉って、塩を塗り込むのやめよう?」


 致命傷じゃなくても、痛いものは痛いんだぞ。


「そうですね。石100万個も使うよりは、日々の健康に注意したほうが安上がりですもんね」

「話が一周回ったうえに、追い詰められている……だと……?」


 エクスの掌の上で、転がされてるなぁ。


「不老不死はともかく、目の前のことから片付けていこうぜ」


 スキルかアプリを買うにしても、オーガのトンネルをどうにかするために使うべきだろうしな。


「分かりました。まず必須なのは、ペットボトルの補充ですね」

「スーパーが開いたら、ケース買いしよう。……1万円分で足りるよな?」

「ただ20トンの水を流すだけなら微妙ですが、圧縮された水が一気にですからね。不安なら、もう少し出してもいいですが」


 持ち帰りは《ホールディングバッグ》があるんだし、けちけちしなくていいか。


 余ったら余ったで、使い道もあるだろうし。


 それに、1万円単位で水だけ買う客は珍しいだろうが、怪しまれるほどではないはず。まあ、別に怪しまれてもいいけどな。犯罪ってわけでもないんだし。


「水だけでなく、食べ物も忘れないでください。もちろん、一食分じゃないですよ? この際、菓子パンの類でもいいので、ある程度買って《ホールディングバッグ》に入れておきましょう」

「エクスが本気だ……」

「体があればオーナーの生活支援を行えるのにと、残念でなりません」


 ぷんぷんと、青いツインテールを振って憤りを露わにするエクス。

 エクスに実体か……。


 それはつまり、人類の夢メイドロボということになるのだろうか?


「確かに、メイドロボがいれば、まともな生活送っている自信はある」

「根拠はよく分からないですが、とにかくすごい自信ですね……」


 ある年代の人間にとって、メイドロボは心の中にいた青春の幻影だからな。


「その暁には、是非ドジっ子メイドでお願いいたしたく」

「それは今後の課題として」


 軽く流された。土下座するべきだったか?


「他に必要な物ですね……」

「あるといえばあるし、ないといえばないなぁ」


 例えば、今後オルトヘイム。異世界側で冒険だなんだとするんだったら、キャンプ用品があればなんでも役に立つだろう。


 元々持っている物であれば《ホールディングバッグ》に放り込めばいいが、そんなものはない。いや、実家に帰れば埃をかぶってるのがあるかもしれないけど……。


 とにかく、今の時点で買い揃えるのは時期尚早だ。


「《初級鑑定》で大もうけできれば別だけどな」

「掘り出し物は見つけられても、売るルートがないと厳しいですよねぇ」

「ままならねえ……」


 まるで、俺の人生のようだ。


 ははは。


 ははは。


「それにしても、オーナー。キャンプも山登りも楽しそうにアニメで見ていたのに、グッズは持っていないんですね」

「無茶言うなよ」


 さすがに、それは少数派だと思う。

 あと、アニメだけじゃなくてちゃんとコミックスも買ったぞ。


「とりあえず、体を使う方向で影響されることは、今後一切ないと思ってもらおう」

「オーナー……。どうして、不健康な方向へ方向へ……」


 小中高の体育教育がダメなんじゃないかな?


「あんまり広げ過ぎるのも良くないな。とりあえず、タブレット用のストラップは買おう。あと、通話用にブルートゥースのヘッドセットも」

「確かに、ずっと鞄の中というわけにもいきませんね」

「この通勤鞄も、どうにかしたいな」


 片手がふさがるのが痛い。

 最悪、大きめのリュックサックに突っ込まざるを得ないか?


 本末が転倒している感すごいな。


「あとは、異世界用の服も必要では?」

「服か……。靴もかな……」


 アウトドアショップとかいけば、いいのがあるだろうか?

 それとも、その辺は、あっちで用意したほうが?


「なんか、ミスリル繊維を織り込んだ軽量だけど防御力が高い服! みたいなのが売ったりしてそうじゃないか?」

「ですね。そういう服があれば、エクスも購入は賛成ですが……」

「……あ」


 言い淀むエクスの態度で、俺も気付いた。


「俺たち、向こうの貨幣、全然持ってないじゃん……」

「今のところ、控えめに言って無一文です」

「金策か……。どうすればいいんだろ?」


 やっぱり、冒険者ギルド的な組織があったりするんだろうか。

 薬草集めなら、《初級鑑定》で簡単にできそうだよな。タブレットで撮影しつつ、高額な草を集めればいいだけなんだから。


 悪くないな……。

 薬草集めばっかりやって、他の冒険者に馬鹿にされたりしたい。


「現実的なところでは、あの里とこちらの交易でしょうか」

「あんまりお金あるようには見えなかったけど、他に相手もいないか」


 オーガをどうにかする分の報酬は、先にもらっちゃってるしなぁ。

 この辺は、カイラさんと相談かな。


「金策ではありませんが、こっちで買った物資と魔力水晶を物々交換というのは大いにありだとエクスは思います」

「確かに。たぶん、こっちで課金するより、全然お得だろうし」

「一番いいのは、オルトヘイム側でもっと人が多い場所……要するに街へ行くことだとは思いますが」


 さっきは薬草集めしたいって言ったけど、それはそれで不安なんだよな。


 勇者アインヘリアルだってバレたら、どういう扱いをされるか分からない。

 それ以上に、微少タイニィな魔力水晶もまとめて石として扱える《マナチャージ》の存在は、ヤバイ気がする。


 そう考えると、カイラさんの存在は本当に貴重だ。


 ケモミミだし。

 くノ一だし。

 嫁き遅れてるの気にしてるし。


 ……写真、撮っておくべきだったな。


「それは、あんまり関係ないと思いますが……」

「……はい」


 まあ、お金の問題は無限シュークリームでなんとかなりそうな気がするので、深く考えないことにする。


「とりあえず、少ししたら買い物に行って、向こうで売れそうな物もついでに買う感じでいいか」

「そうですね。そのくらいの貯金は余裕でありますもんね」

「なにしろ、使う暇がないからな!」

「エクスに預金残高知られている件は華麗にスルーして、自虐に走るなんて……」


 自棄になった人類の恐ろしさを知るがいい。


「というわけで、シャワーでも浴びて仮眠を取るか」

「……まさか、本当に寝てくれるなんて。オーナー、成長して……」

「いやいや。俺もさすがに、限界だよ?」

「気が変わらないうちに、ごゆっくり」


 釈然としない気持ちを抱えつつ、再び風呂場へ。


 しかし、ふと鏡が目に入った瞬間、俺は部屋へと舞い戻っていた。全力で。


「……エクス!」

「どうしたんですか、オーナー? そんなに、血相を変えて」

「血相どころか、俺、顔が変わってるように見えるんだけど?」


 ベースは、確かに俺。

 でも、別人レベルで顔が変わっていたのだ。


 ……なんで?

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