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22.報酬の行方

「報酬なら、先払いしてもらってますよね?」

微少タイニィな魔力水晶のことなら、あれは別よ?」


 カイラさんの部屋で、茶碗を間に挟んで対峙する。


 認識は食い違っていない。

 ただ、真っ正面から激突してしまった。


「なんだか、どっちが店の支払いを持つかでもめているみたいですねぇ」


 エクスもあきれ顔だ。

 しかも、だいたいあってる。


「今のところ、あれで差し引き黒字ですから。追加で報酬とか必要ないですよ」

「プラスなら、それでいいというものではないわ。功績には、それに見合った対価が必要よ」

「それは、正論だなぁ……」


 確かに。

 俺がやっているのは、ブラック企業の温床となる人件費のダンピングに他ならなかった。


 しかし、それでこの里が困窮しては本末が転倒していると言わざるを得ない。


「一番欲しいのは魔力水晶ですけど、あれが全部なんですよね?」

「……小型スモール中型ミディアムのが、いくつかあるわよ」

「それぐらいなら、普通に取引に使ってくれたほうが有益でしょう」


 正直、その程度なら焼け石に水だ。


「じゃあ、オーガの戦利品から俺が優先的に選べる権利とかどうです?」

「あの計画だと、オーガの物資なんて残らないと思うのだけど?」

「ですよねー」


 この程度で、騙されてはくれなかったか。


 ……いや。待てよ。オーガからの戦利品なら、もうすでにあるじゃないか。


「《雷切》だ」

「あの修羅ロード種のオーガ……ヴェインクラルの剣だったかしら?」

「あれを売れば、結構な報酬になるのでは?」

「え?」

「ええ?」


 誰の懐も痛まない、素晴らしい解決法だ。換金できるまで時間がかかることを除けば、完璧と言っていいだろう。


 それなのに、エクスだけでなくカイラさんまで、あり得ない物を見るような目を向けてくる。


 ……なんで?


「オーナー、売るんですか……?」

「使える人がいるなら別だけど、あんなでかい剣いらねえよ」


 マイルームに飾ると好感度が上がるようなアイテムでもないし。


「いえ……。ライバルとの思い出? みたいなものではないですか。それを売るって、人としてどうなんです?」

「ライバルなんかじゃないし」


 普通に邪魔だし。

 でかくて重たいので、向こうの家に戻ったときに取り出して《初級鑑定》をかけることもできなかった。


 ……おかしいな。鑑定、もっと役に立つはずだったんだけど、鑑定。


「相手も、いつか取り返しに来るから持っていろよって言っていたわよね?」

「言ってましたね」

「そのときに、売り払ったなんて言われたら激怒するのではない?」

「あー……」


 怒って我を忘れるタイプ……じゃないよなぁ。

 むしろ、静かな怒りで覚醒するまである。


「とりあえず、《ホールディングバッグ》の肥やしにするか」


 それは現状維持だからいいとして、話が戻ってしまったぞ。


「じゃあ、一段落したら、異世界交易を認めてもらうとか」

「ミナギくんは商人ではないのでしょう?」

「向こうでは、単なる勤め人ですが……」

「なら、報酬になるのかしら? それに、安価で売るつもりなのでしょうし」

「……う、まあ、そうか」


 見抜かれている。


「もう、駄目ですよ。オーナーに任せていたら、この件で納得する答えなんて出てきませんから」


 ええー? そういう評価なの?

 まあ、わりと事実ではあるけども……。


「逆に、そちらからはなにが出せるのか。それを考えたほうがいいと思います」

「エクスさん、さすがね」

「エクスのオーナーですから」


 あれ、そこ逆じゃない?


「そうね……。ミナギくんが受け取ってくれそうなことなら……影人シャドウの修練を受けられるよう、手配できるわよ」

「いいですね、それ」

「やめてください。死んでしまいます」


 そりゃね。ニンジャに憧れる部分はあるよ?

 マンションで育ったからできなかったけど、一戸建てだったら庭に木を植えて、毎日飛んでジャンプ力を鍛える修業とかしたと思うよ?


 でも、今の俺には耐えられない。


 だってあれでしょ? 最後には、同期の仲間たちと殺し合いをして生き残った一人だけが合格する蠱毒的なサムシングが待ってるんでしょ? 俺は詳しいんだ。民明書房の本で読んだもん。


「真面目な話、基礎体力がボロボロなので訓練にはついていけないと思います」

「《レストアヘルス》で回復しても元が元ですからねぇ」

「というか、俺が修業するぐらいなら、カイラさんに付き合ってもらえれば……」

「え? それって……」


 驚いたように、赤い瞳をこちらへ向ける。

 あれ? この件が片付いた後も、暇な時だけ案内とかしてもらえれば……と思ったんだけど、マズかっただろうか?


 う、そういえばカイラさんって、月影の里でもわりと偉い人だったんだよな。そりゃアカンやつだわ。


 どうしよう……?





「というか、それならカイラさんに付き合ってもらえれば……」

「え? それって……」


 とぅんくっと、カイラの心臓が高鳴った。

 影人シャドウの最高位たる黒喰エクリプスにもかかわらず、頬が熱くなるのを止められない。


 思わず、ミナギから目を逸らしてしまった。


「ごめんなさい。カイラさんも、里での立場があるのに無理を言って」

「いえ、それは構わないのだけれど……」


 かなり慎重で遠慮しがちなミナギが、こちらの立場を忘れて求めてくれた・・・・・・


 勇者アインヘリアルの従者になれということだろうか? いや、彼に勇者アインヘリアルである自覚はないので違うはず。


 そうなれば、答えはひとつしかない。純粋に、自分のことを求めているのだ。


 ヴェインクラルには、歯が立たず。

 里の危機にもかかわらず頼り切りな自分を、それでも頼ってくれる。


 これに応えなければ、女ではない。


(女ではない……?)


 カイラは愕然とし、手で顔を覆うのを必死にこらえた。


 端的に言って、自分は年増で嫁き遅れである。そして、それが解消される予定もない。それは客観的な事実である。


 それゆえ、最初から排除していたのだが……。


 カイラ自身を求めている。


 その可能性もあるのではないだろうか? いや、可能性は高いと言うべきだろう。

 そうでなければ、わざわざ付き合ってもらうなどという表現を使う必要がない。


 初めて会ったときから、ミナギの態度は紳士的でまったくそんな気配は微塵も見せていなかったが、それならば里を救うことに固執する説明もつく。報酬を受け取ろうとしない理由にも。


 つまり、カイラのために、危険を冒そうとしているのだ。


 だから、わざわざ英雄界へ戻ってまで準備を整えた。


 先ほどの付き合ってという言葉は、ふと漏れてしまったものではないか。


 そこまで思われていたとは、カイラは想像もしていなかった。


 これに応えなければ、女ではない。 


「ミナギくん、あなたの気持ちよく分かったわ」

「え? あ、はい。分かってくれたのなら……」

「私も、同じ気持ちよ」

「そうなんですか。それは良かった……」


 露骨にほっとした様子を見せるミナギ。

 これは、もう、間違いない。


 もう一度、カイラの心臓が高鳴った。


 それでも、彼女は黒喰エクリプスである。フウゴは苦手としていたが、本来なら自制などお手の物。


「これから、私はあなたの物となって働くことを誓うわ」


 荒れ狂う感情をおくびにも出さず、冷静に。

 それでいて、まごころを込めて告げた。





「ミナギくん、あなたの気持ちよく分かったわ」

「え? あ、はい。分かってくれたのなら……」

「私も、同じ気持ちよ」

「そうなんですか。それは良かった……」


 耳やら尻尾やらをどったんばたんさせていたカイラさんが、不意に平静を取り戻した……と思ったら、前向きな答えを返してくれた。


 良かった良かった。


 暇な時に、エルフの里とか、その先の港町とかに付き合ってもらえたら助かる。


「これから、私はあなたの物となって働くことを誓うわ」


 ん? んんんんん??????


 あれ? ちょっと表現が重たくない? ニンジャだから? ニンジャだからなの?


 今や、カイラさんのケモミミや尻尾は微動だにせず、白皙の美貌は真剣そのもの。冗談を言っている気配はない。


「オーナー、やりましたね。ちゃんと、返事をしてあげてください」

「あ、うん」


 エクスがいいってことは、いいんだよ……な?


「よろしくお願いします。できれば、末永く」

「はい。新たな実績解除です」

「え? 早くね?」

「はいはい、読み上げますよー」


 なんだろう? エクスが有無を言わせず話を進めようとしている気がする……。

 どういうつもりか追及したいところだが、実績解除の内容を確認しないわけにもいかなかった。


『旅の仲間を得る(1/4)の実績解除、おめでとうございます。

 信頼できる仲間を得たため、実績が解除されました。

 つきましては、実績解除特典アイテムをお贈りさせていただきました。

 内容は、ホールディングバッグからご確認ください。

[ホールディングバッグアプリの起動はこちらから]

 それでは、今後ともよろしくお願いいたします。』


「信頼できる仲間……?」

「まあ、カイラさんのことは信頼も信用もしてますから不思議じゃないですけど」

「私だってそうよ」


 なぜか張り合うカイラさん。


 かわいい。


「じゃあ、《ホールディングバッグ》のアプリを開きますね」


 床にそのまま置いたタブレットの画面に、グリッドで区切られたアプリの画面が表示される。


「これは、無限シュークリームと同じパターンか……」

「また、お菓子なのかしら?」


 引き出物かな?


「違いますね。勇者の指輪アインヘリアル・リング……?」


 増えていたのは、指輪のアイコン。

 その指輪のアイコンの横には、数字が2と書かれている。俺とカイラさんの二人分ってこと?


勇者の指輪アインヘリアル・リングとは、すごい名前ね……」

「効果は、どうなんだろ……」


 指輪のアイコンを長押しすると、説明文が出てきた。


《|勇者の指輪(アインヘリアル・リング)》

効果:本人のみを対象とするスキルやアプリ(マクロも含む)の効果を、

  この指輪を装備した者へと適用することができる。

  また、この指輪を装備した者同士は、同じ世界に存在している限り、

  お互いの位置や健康状態を知ることができる。


 あれ? これ一緒に地球へ行けたりするやつじゃない?

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