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23.移動開始

「このペースなら、明日の朝までには現地へ到着するわね」


 猛烈な勢いで景色が流れていく中、カイラさんの余裕と優しさに満ちた声が、後ろ・・から聞こえてきた。


 いや、ほんと速い。ははははは。


「それは、いいんですけど……」

「なに?」

「いつまで、俺はカイラさんに背負われていれば?」


 月影の里を出てからしばらくするが、この状況には慣れない。


「慣れれば、快適ではない?」

「慣れたら、オーナーの大切なものが失われる気がしますが……エクスは止めません!」

「そこまで言うのなら止めようぜ!?」


 あと、快適とかそういう問題でもないと主張したい。


「これが一番合理的な移動方法ですから」

「思い出したようにAIみたいなことを言い出しやがって」


 これではっきりした。

 俺に味方はいない。


 味方がいたら、カイラさんが俺を背負子に乗せようとした時点で止めてくれるはずだもん。


 というわけで、仲間を得るという実績を解除した後、俺たちは里を出ることにした。

 カイラさんは一晩体を休めてからと思っていたようだが、日本で睡眠を取っていたことから話が変わる。


 そのまますぐに出発となり、なぜか用意されたのが背負子だった。


「ミナギくん、乗ってちょうだい」

「それ乗り物じゃないですよね?」


 しかし、俺の常識的な指摘は、ニンジャの圧倒的身体能力の前には通用しなかった。もしかしたら、野を馳せる者セリアンの身体能力ゆえかもしれないけど。


 というわけで、俺とカイラさんは背中合わせになり、木製の背負子に乗せられて森を駆け抜けていた。


 今の俺は二宮尊徳だ。

 いや、薪だ。


 縄で体も固定されてるしね。


 これ、ランダムエンカウントでモンスターと遭遇したらどうなるの……?


「どうしてこうなった……」

「火を付けたのはオーナーですから、そこは甘受すべきかと」

「薪だけに?」

「今、なにか言ったかしら?」

「いいえ。なにも」


 というか、なにがカイラさんのやる気に火を付けたというのだろうか? 心当たりがない。ほんとにない。


 その流れでふと後ろを見れば、ナタのようなもので枝を刈りつつ、森を進んでいくカイラさんがいた。お陰で、移動中になにかがぶつかって怪我をするなんてアクシデントは起きていない。


 驚異的なフィジカルで、なぜか揺れすらほとんど感じなかった。精々、自転車に二人乗りしてるぐらいの感覚だ。


 その無駄に凄いことをしているカイラさんの手には、シンプルな金の指輪がはめられていた。


 俺がはめた物だ。なぜか、左手の薬指に。そこが一番邪魔にならないと言われたら、選択の余地はない。結婚指輪も、恐らくそういう理屈なのだろう。だから、俺も同じ場所に指輪がある。


 自動でサイズが調整されるようで、手袋の上からも問題はない。

 嬉しそうに手のひらをくるくるさせて眺める様は、なかなか可愛らしかった。


 勇者アインヘリアルに憧れ的なものがあったみたいだし、勇者の指輪アインヘリアル・リングという名称にぐっと来るものがあったのかもしれないな。


 そのテンションで、今も森の中を走り抜けているのかもしれない。


 だって、なんか嬉しそうというか、楽しそうだし……。


「……暇だから、《水行師》のマクロの確認でもするか」

「え? この環境でですか?」

「俺、車酔いとかしないタイプなんだよな」

「確かに、電車の中でエクスを使いまくりでしたけど……」


 電車は寝て良しアニメ見て良しと、第二の自室と言っても過言じゃない。家の次に多く過ごしてる空間だよな。会社? ヤツなら殿堂入りだよ。


 ……あ。そういえば、まだタブレットには見ていないアニメが残っていた。


 けど、さすがに、今見るのはアレ過ぎる……。


 初志貫徹で、マクロの確認だ。


 ストラップを着けていたので、すぐに取り出し可能。


「でも、《セーフティゾーン》の中で一通り目を通したじゃないですか?」

「さすがに、あれだけで丸暗記は無理だろ」

「それはそうですが、今さら新たな発見はないと思いますよ?」

「甘いな」


 まあ、甘いのは俺の読み込みという説もあろうが、置かれたシチュエーションが変わると、またマクロへ感じる有用性も変わるものだ。


 これは、TRPGプレイヤーあるあるとして主張したい。


 だって、レベルドレインに対抗するための呪文とか、そういう敵が出てくる前と後じゃ、輝きが違うよ? 全然違うよ。


 まあ、いろんな事情でしばらくやれてない俺が言っても詮無きことだけど。


 だって、休みが取れても、翌日夜勤だといろいろ厳しいんだもん……。


「オーナーがそうしたいなら、エクスは構わないですけどね。恐怖感も和らぐでしょうし」

「それな」


 カイラさんの手前平気な顔をしてたけど、他人の運転する自転車に後ろ向きで乗るのって、結構あれだよね? 青春恋愛映画じゃないんだから、実際は結構厳しいよね?


 というわけで、《水行師》のマクロ一覧を呼び出してもらいチェックし直す。

 エクスも水の衣に着替えて、ちょこんと肩に乗っている。


 やはり、実際使ってバリアのお世話になった《渦動の障壁》や、倒せはしなかったけどヴェインクラルにダメージを与えた《吹雪の|飛礫《つぶて》》は汎用性が高いと感じる。


 ただでさえも強い《渦動の障壁》は、例の指輪でカイラさんにもかけられるようになった。

 まあ、攻撃手段的に直接攻撃する時は邪魔になるので微妙な部分もあるが、できないよりはずっといいだろう。


 もっとも、空気中の水分を集めてレンズを作る《水鏡の|眼(まなこ)》とか、今ひとつ用途の分からないマクロもあるが。

 でっかい虫眼鏡なのか、それとも双眼鏡の代わりなのか。

 まさか、キャンプ中の火起こしのために登録されたわけでもないだろう。


 それはともかく。


 これが本題なのだが、これから地上へ侵攻してくるオーガたちと、洞窟に水を流すという視点に立つと別のパワーが立ち上がってくる。


 例えば、持続時間は(石を使わない限り)それほど長くないみたいだが、効果範囲を霧で満たす《惑いの霧》というマクロがある。

 それを進行方向に敷き詰めたうえで、途中から酸の雲を創造する《爛れし雲霞》を配置したら大混乱間違いなし。


 それから、沼地を作り出す《泥沼の園》も面白い。

 進軍を遅らせることもできるだろうし、洞窟内であれば壁や天井にも使って、強度自体を落とすことができないだろうか?


 物体を破壊するということなら、凍らせて物体の硬度を下げる《脆き結晶》というマクロもある。

 本来なら鎧とか武器とかに使うマクロのようだが、扉や壁の破壊にも使える。


 であれば、落盤を引き起こすことも可能ではないだろうか。


 巻き込まれないようにしないといけないけどね!


「オーナー」

「…………」

「オーナー!」

「ん? エクス? なにかあったか?」

「いえ。なんか黙ったまま考え込んでいたので……」

「ああ、悪い。ほったらかしだったな」

「ちょっと気持ち悪いです」


 ……ごめんよ。でも、俺は正直楽しい。


 とはいえ、エクスをないがしろにもできない。

 主従で言えば、エクスが主で俺が従。

 親を先に殺すと子が生き残るので、子を全部殺してから親を殺すのがプログラマなのだ。


「ん~。じゃあ、《オートマッピング》でも確認するか」

「いいですね。こっちに戻ってから見ていなかったですし」


 早速、エクスが《オートマッピング》のアプリを起動。

 周辺……というか、緑で森が描画されたかと思うと、ものすごい勢いで流れていく。


 その中心には、●と▼を上下二組合わせたアイコンで表現された『Kaira』ことカイラさんだ。


 昔のRPGで言うと、飛空艇で飛んでいくときのマップみたいな感じと表現すれば、お分かりいただけるだろうか?


「というか、これ、カイラさんが進んでる場所が道になってない?」

「……気のせいですよ、たぶん、きっと。メイビー」


 エクスすら引かせるとは、カイラさんやるな。


 見習いたい。


 いや、俺には無理かな……。


「オーナー、ちょっと地図を見てください」

「ん? なにか面白いものがあった?」


 2秒で諦めた俺を、いつの間にかデフォの巫女風衣装に戻ったエクスが、地図へと意識を向けさせる。


「後ろから、『UNKNOWN』というタグの付いたアイコンが、五つ迫ってます」


 マジか。


 慌てて地図上を探すが……マジだった。


 まだ結構離れているみたいで画面端にいたが、少しずつ距離を詰めている。


 これって、もしかしてモンスターかなにかなのでは? 

 ……だとしたら、地球で《オートマッピング》を起動させたときに出てた『UNKNOWN』もモンスターてことに? いや、それは後回しだ。


「カイラさん、なにかが近付いてくるみたいです!」

「……私も、今、気付いたわ」


 急な減速だったにもかかわらず、重圧はほとんど感じなかった。

 どうなってるんだと疑問に思う間もなく、そのままくるりと後ろを向き、『UNKNOWN』と対峙する。


 カイラさんだけが。


 あれれー? おかしいなー?


 俺を下ろす気が皆無に思えるんだけど? 気のせいだと言ってよ、カイラさん。

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