「あら? もう一本剣があるわね」
「中身、偏ってるな……」
宝箱漁りを再開したところ、カイラさんが剣を発見した。さっきのカラドゥアスも長いとは言えなかったが、それよりももっと短い。
短剣というよりは、包丁に近いかもしれない。
「今度は、ミナギくんが
「やりかたとか、よく分からないんですけど……?」
プラグスーツとか着ればいいの? こちとら14歳じゃなくて、アラフォーだぜ?
「武器なら、握って意識を集中すれば大丈夫よ」
「後は流れでお願いします……みたいな?」
「そんな感じね」
ケモミミくノ一さんの勢いに押され、もう一本の剣を受け取った。包丁なんかとは比べものにならない、ずしりとした重さだ。
緊張しつつ、ゆっくりと剣を抜く。
黒い革の鞘から現れたのは、一片の曇りもない肉厚の刃。緊張か、それとも他のなにかか。ごくりと、喉が鳴った。
「一定のリズムで息を吐いて」
「はい」
「目を閉じて」
「……はい」
「手から伝わる感触にだけ集中して」
「…………」
カイラさんのアドバイスに従い精神集中。
すると、剣を握っている手が熱を帯びてきた。そして、情報が頭に流れ込んでくる。夜眠る前に過去の失敗が勝手に思い浮かぶような感じに近い。自分では、制御できなかった。
「あ、ああ……」
なるほど。
カイラさんの言う通り。そして、それ以外に言いようがないのも理解した。
名前……銘は、ディスポーザー。処分屋ぐらいの意味だろうか?
この剣が真価を発揮するのは、戦闘ではなくその後。モンスターなどを解体する技量がアップする効果が付与されている。
あと、死亡した対象にのみ、切れ味が増す効果もあるようだ。
要するに解体用ナイフということだが、あれ? 今思いついたんだけど、《水行師》のマクロで死体から水分を抜けたら、こいつと組み合わせて解体が相当捗るのでは?
なんということだ。冒険者ギルドの解体担当のおっさんが、俺の天職だったとは……。オルトヘイムに冒険者ギルドがあって、そんな役職があればだけど。
「ミナギくん、どう?」
「だいたい分かりました。戦闘というよりは、後の解体に特化したナイフみたいです」
「なるほど。オーナーが持っていても腐らないですね」
そうだね。《渦動の障壁》を張ってると、直接攻撃できないもんね。というか、マクロ使ったほうが早いし。
「……無理にミナギくんが解体しなくても、いいのではない?」
「そういえば、そうですね」
「やめて! 俺を甘やかさないで!」
《シャドウサーヴァント》を呼んで、これを持たせて解体してもらうほうが早いんじゃないかとか思ってないんだからね!
「はい、次行きましょう、次。楽しみだな」
「……もう、剣はないみたいね」
一人一本あれば良くない? そんなに剣が好きなのかな? 俺も好きだけど。
「装備品らしきものとしては、ネックレスとかブレスレットがありますが」
「アクセサリーか」
電源の有無を問わず、RPGの定番装備だ。
お世話になった人も多いはず。なんでリボンで状態異常防げるのか、よく分からないけど。
「いえ……」
しかし、手袋越しに宝飾品へ触れたカイラさんは首を横に振った。
「この十字のネックレス以外は、ただの宝飾品ね」
「ロザリオ……か」
カイラさんが手にとって見せたのは、銀のシンプルだが品のいいロザリオだ。
ミッション系のお嬢様学校とかが似合う。月とマリア様だけが見てそうな感じ。
「でも……。困ったわね。私とは
「そうなんですか?」
「試してみる?」
と言われて握ってみたが、さっきみたいに情報が流れ込んだりはしなかった。カイラさんと違って、これがマジックアイテムかどうかも分からない。
まさに、豚に真珠だ。
「いったい、どういうことなんでしょうか? レベルが足りないとかですか?」
「レベルというのは、よく分からないけれど……」
エクスのゲーム脳な質問に、カイラさんは答えた。
「例えば、精霊魔術の力を増幅するマジックアイテムは、その才能がない者とは
「なるほど。レベルと言うよりは、能力的なものか」
「今まで
モンスターへの鑑定もあるし、やっぱり欲しいな鑑定シリーズ……。
そうなると、地道に《初級鑑定》をアピールしていくしかない!
「分かんないものは仕方ないよな。せめて値段だけでも調べようか」
「
一度カイラさんへロザリオを返し、タブレットで撮影。
結果は……。
「金貨7,500枚……だそうです」
「うええええ……」
マジで変な声が出た。
いやだって、これひとつで家一軒だよ? どういう世界だよ。
「でも、正体不明では買い手を探すのも難しそうね」
「……確かに」
カイラさんのお陰で、一瞬で正気に戻れた。そうだよ。なんでも買い取ってくれるNPCがいるわけじゃないんだよ。
「大きな街には鑑定を生業にする者もいるという話だけど……」
「鑑定料払って、買い手を探して……となると、そのまま換金は難しいか」
「下手に急ぐと、買い叩かれる可能性もあるわね」
アイテム系は、基本的に自分で使ったほうがいいんだなぁ。
まあ、使えないから困ってるんだけど。
「とりあえず、ロザリオは《ホールディングバッグ》の肥やしにして、他のアクセサリーを《初級鑑定》してみるか」
「
低めに見積もって150万円ぐらい?
そんなに大したこと……あるよ! めっちゃあるよ! なにが残念だよ。
いかんな。金銭感覚が麻痺しつつある。
「ミナギくん、落ち着いて。これも《ホールディングバッグ》にしまいましょう?」
「そうですね」
「いやいや、オーナー。そこは、いくつかプレゼントするところですよ?」
「そんな高価な物、受け取れないわよ」
俺がなにか言う前に、カイラさんが丁寧な手つきで通勤鞄の中へ投入していった。
「ああっ」
エクスの悲鳴とともに、宝飾品たちは虚空へと消えていく。
いきなり高いプレゼント渡されても引くだけだよなぁ。
……そもそも、俺の鞄にいくら入ってることになるんだ?
怖え……。計算したくない。
「よし。次は、逆に、あんまりすごくなさそうなやつにしよう」
「オーナー、それってフラグでは……」
「そういうことなら、この巻物かしら」
エクスの懸念はスルーし、カイラさんの指摘に従い巻物を手に取った。
蝋で封をされた、厚手の紙だ。
封蝋だよ、封蝋。すげー初めて見た。それに、これが噂の羊皮紙ってヤツなのでは!? うわー。本物だよ。ファンタジーだよ。本物なのかファンタジーなのか、どっちだよ。両方だよ。
「オーナーが、静かにテンションを上げて……」
「少し古いけど、大騒ぎするほどの物ではないわ。ミナギくん、早く中を見ましょう?」
「これが、カルチャーギャップというものか」
そりゃ、カイラさんにとっては封蝋も羊皮紙も珍しくないよね。
「まあ、こっちにいたら、何度でも見る機会はあるか」
そう自分をごまかし、さっきのディスポーザーをペーパーナイフ代わりにして、ぽんっと封を解く。
そして、巻物をみんなに見えるように開いた。
「地図のようですね」
「一番大きいこれは、島……かな?」
「そうね。近くの陸地も描いてあるけど、すぐに特定は難しいわ」
少なくとも、この近くじゃないっぽい。
「それはそれとして、オーナー。島に何カ所か印が付けられているのが気になりません?」
「それはちょっと短絡的じゃないかな」
エクスは宝の地図じゃないかと思ったんだろう。
それはまったく同感なんだけど、証拠がなにもない。確かに、ウィッチャー装備のレシピとかありそうな地図だけど、エビデンスは重要だ。
「あれ? 自動的に《オートマッピング》のアプリが起動しました」
「地図つながりで?」
「ちょっと、エクス的には気味が悪いのですが……」
「気持ちは分かる」
でも、こうなったら確認しないわけにもいかない。
不確定名:宝の地図を《ホールディングバッグ》という名の通勤鞄へしまい、代わりにタブレットを見えるようにする。
「これは、この周辺の地図ね。湖ができてるわ……」
「あれ? 左上に見慣れない矢印があるな」
赤い矢印で、ぴこぴこと点滅して自己主張していた。
それをタッチすると、地図が切り替わり、白地図になった。
でも、赤い矢印は残っている。
さらにタッチすると、また画面が切り替わる……が、白地図なのは変わらない。行ったことがない場所なのだから当然だ。
「……どういうことなの?」
「恐らく、さっきの地図の場所へナビゲートしてくれるのではないかと」
「地図がアップデートされたということでしょうか? 勝手に、エクスの許可なく?」
この地図が特別なのか。全部の地図でそうなるのか。この辺は、要検証だな。
だから、勝手に起動したりアップデートされても怒らないようにしてもらいたい。
フォロー。エクスへのフォローが必要だ。
「しかし、自動的に機能追加されるなんて、やっぱりエクスはすごいな……」
「え? そうですか? それほどのことは……ありますね!」
うん。実際すごいことは間違いない。ちょろくて心配になるけどな。