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41.同調するのは

「なるほど、プレコグか。それで、俺のことを知っていた・・・・・んだな」

「は、はい。え? 疑ったり、馬鹿にしたり、理解をしているようなことを言ってマウントを取ったりしないのですか?」

「まあ、辻褄は合うから」


 驚くというよりは混乱する本條さんをあえてスルーし、俺は推測を口にする。


「俺とぶつかったときに驚いていたのは、予知に出てきた相手が本当に出てきたからかな? そして、その予知だと噴水に行けば助かる流れだったりすると嬉しいな」

「すごいです……。どうして、そこまで分かるんですか?」

「年の功ってやつだよ」


 俺だって、ほんの少し前なら彼女の言った通りの反応をしていただろう。

 特に、「うんうん。そういう年頃だよね」とか上っ面の理解を示していた可能性が一番高い。


 違いは、異世界を経験したかどうかというだけだ。

 まあ、タブレット……というか、エクスがいないとなにもできないおまけ・・・の分際だけどね。


 あとは、その昔、とある汎用TRPGの超能力系サプリメントを読みこんで、多少。いや、かなり理解をしていることも大きいかもしれない。


 サイコキネ、テレポーター、サイキックヴァンパイア。

 いろんなキャラを作って遊んだ物だ。敵の心臓潰したり、敵を成層圏までテレポートさせたりして。


 アンチサイで超能力者を殺す超能力者を作ったのは、今にして思うと若気の至りすぎるな……。


 真面目なことを言うと、《オートマッピング》のお陰で地球にも魔力持ちがいるって推測できていたからなんだが。


 まさか、ほんとに超能力者がいるとは思わなかったけどな!


「でも、本当のことだからこそ、軽々しく言わないほうがいいな。今回は仕方ないと思うけど」

「あの、その……。もちろん、最近は誰にも言っていないのですが、頭の中で情報が混ざってしまって、つい予知の内容を口にすることもありまして……」


 恥ずかしそうに、本條さんが目を伏せた。


 清楚だけど魔性の可愛さがある……ので、俺は微妙に目を背ける。


 どういう形で知るのかは分からないけど、本人の中では予知の情報も普通の出来事も変わらないのだろう。

 だから、普通の会話で齟齬が生まれてしまう。


 今までそれで済んでいたのは、ちょっと浮き世離れした雰囲気もあるし、そういうキャラだって受け入れられていたのかもしれない。


 ……っと、彼女のばかり話させるわけにはいかないな。


「実は、俺もちょっとした能力があるんだよね」

「え?」


 大した物が入っていない通勤鞄の中身をスマホのライトで照らしてから、おもむろに手を突っ込んだ。

 そして、無限シュークリーム預金から残高を取り崩す。


 そのシュークリームを食べて見せ、同じようにしてもうひとつ取り出し進呈する。


 勢いに飲まれ、受け取ってしまう本條さん。


「あの……ありがとうございます……え……? 手品ですか? あっ、そのマントもトリックの?」

「実は、種も仕掛けもないんだ」


 ほんとに、そうなんだよなぁ。

 主は、種も仕掛けもないことをお許しくださるだろうか。


「……甘いです」

「別に、本当に食べなくて良かったんだけど」


 そのまま突っ返してよかったんだよ?

 警戒心がなさすぎて、ちょっと心配になる。


「駄目です、秋也さん。出された物は、残さず食べるのが礼儀ですよ」

「ごめんなさい」


 女子高生に頭を下げるアラフォーがそこにいた。

 さっきまで、足音に怯えていたとは思えない光景だ。


 まあ、一時的にしろ、このホラーな状況を忘れられるのならそれでいい。


 実は異世界に行ったりできると言おうかなとも思ったけど、こっちで正解だったみたいだ。


 エクスがいないと、説得力の欠片もないもんな。危ない危ない。


「いえ、こっちこそごめんなさい。謝るのは実は私のほうでした……」

「ん? なにか、あった?」


 こっちが謝るのならともかく、その逆はまったく心当たりがない。


「秋也さんを巻き込んでしまいました」

「それは……仕方ないのでは?」

「いえ……」


 それなのに、彼女は心底申し訳なさそうに、俺のことを見上げる。


「私は、助かりたい一心で、秋也さんに会えるよう動いたんです」

「ああ……。そういう……」


 未来予知ができる。

 それはつまり、その未来を避けることができる。


 普通なら、助かるような未来をさけるはずもないが、他人が関わるとなれば話は別。


 たぶん、助かるにしても危険が発生するビジョンだったんだろう。


 それでも予知通りに動き、俺を巻き込んだことに罪悪感を抱いている……と。


「まあ、なんというか……」


 助かりたいと思うのは、当然。

 大人が子供を助けるのは、義務。


 そんなことを言っても、たぶん彼女は納得しない。


 だから、俺は余計な慰めなんて言わない。


「感謝するのは、こっちのほうだよ。予知のお陰で、この場を切り抜けられるんだからさ」


 噴水が鍵というのが分かっただけで、充分すぎる。

 つまり、カイラさんとエクスは俺のリクエスト通りにやってくれたということ。


 なら、絵柄の分かっているジグソーパズルを組み立てるようなものだ。


 どんなに困難でも、クリアはできる。


「秋也さん……」


 と、思いっきり効率のことしか考えていない俺の言葉を聞いた本條さんが、闇の中でも分かるほど、キラキラと瞳を輝かす。


 ん? いったいなぜ?


 ……なんか、踏み込んだらヤバイ気がするのでスルーだ。


「あー。とりあえず、この場をどうにかすることを優先しよう」


 状況は分からないことだらけだが、やるべきことは整理された。

 あとは、噴水へたどり着くだけで済む。


 済むんだが……。


「問題は、そこまで行けるかどうかだよな」

「それで、ですね……」

「まだなにか、ヒントが?」

「私が見た予知ですと、噴水の回りには、あの変な人たちがたくさんいまして」

「だよねー」


 最初以来出会わなかったのは、戦力を集中させているかららしい。

 他の出口を閉められているということと考え合わせると、俺たちをそこへ追い込むつもりなんだろう。


 それが地下通路の噴水なのは……ゾンビみたいだから集合させるのに分かりやすいランドマークが必要なのか。

 それとも、駅の改札がある方向に俺たちが勝手に行くと見越しての物か。


 さらに、俺たちを捕まえてなにかしたいのか。もっと対象は無差別で、ただ人間を殺したいだけなのかも分からない。


 疑問は尽きないが、外からの助けが期待できない以上、どうにかして噴水……水場へとたどり着かなければならないという命題に回帰する。


「ちなみに、このナイフっぽいのはただの飾りだからね」

「……はい。ちょっと、安心しました」


 視線を感じたので聞かれる前に言ったが、選択肢は間違いではなかったようだ。


「それでですね、予知の中で私は不思議な物を持っていたんです。いえ、物自体が摩訶不思議というわけではなく、自分の物ではないといいますか」


 まさか……。

 思わず、通勤鞄――《ホールディングバッグ》を見る。


 俺にもカイラさんにも使えなかったマジックアイテム。


 あのロザリオが、ここで?


 本條さんなら、確かに同期シンクロできてもおかしくない。超能力から離れてハイファンタジー視点で見たら、予知はクレリック系の専売特許とも言える能力だ。


 それに、ゾンビっぽい相手にロザリオというのは、理に適っている。


「それって、もしかして――」

「見たこともない大きくて立派な本を持っていたんです。古い、一目で稀覯書と分かるような」

「……はい? 本?」


 それも、大きくて立派な稀覯書。


 まさか、あの正気度減りそうなやつ?


 そっちかよっっ! ロザリオじゃねえのかよ!


「心当たりがあるんですか!?」

「ある……けど……」

「見せてください!」


 超美人な女子高生に迫られているのとは別の意味で、俺は汗をかいていた。


 あれ、世に出していいもの? 中身は、まともっぽいけど……。


 ……まずくない?

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