目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第14話

「侯爵家の次期当主?」


 そんな話はリーゼリットの耳にはまるで寝耳に水だった。

 現当主がエルシーなのだから、本来ならロザリアかリーゼリットにその役割を譲るのだろうが、なぜこんな大々的に発表する必要があるのか疑問だった。


「実は、私と侯爵の間には息子がおります」


 エルシーはそう言って、急にとんでもない話を暴露した。


 ――私に弟がいたってこと!?


 リーゼリットは驚愕する。

 父とエルシーの結婚は二年前。父が亡くなったのが一年前だ。

 父の死亡原因は不治の病であり、自分の記憶が戻った後でもどうにもできない病気であった。

 エルシーと父がその一年の間に子供ができていてもおかしくはないが、なぜ今まで隠していたのか謎でしかない。


「侯爵家の次期当主は、私と侯爵の息子であるエリオットです!」


 エルシーはそう言って、後ろに隠れていた小さな男の子を抱き上げた。


 ――まぁ、可愛らしい。


 まだ、3歳ぐらいの、可愛らしい男の子である。


 ――エルシーと父はデキ婚だったのね。外聞が悪いから隠していたのかしら。

 あれが私の弟なのね。


 リーゼリットは目を輝かせ、会場は騒然となった。


「エリオット、ご挨拶なさい」


 エルシーがそう促すと、


「エリオット、3ちゃい!」


 そう、恥ずかしげに挨拶した。

 あまりの可愛さに、リーゼリットは倒れそうになる。


「そして、もう一つ発表がございます」


 エルシーの発表大会は止まらない。


「リーゼリットとアークス王子との婚約を、我が娘であるロザリアへと変更いたします!」


 会場は再び騒然とする。

 リーゼリットにとっては願ってもない話だ。


 ――え? 私、婚約破棄されたの? 願ったり叶ったりだけど、ちょっと待って?


「お母様は何を言っているの!?」


 ロザリアも突然の発表だったらしく、顔を青ざめている。


「何を言うんだ! 僕は承服しないぞ!!」


 アークス王子も困惑の声を上げた。


「では、なぜリーゼリットからロザリアに変更するのか、その理由をご説明いたします」


 エルシーはそう言うと、会場中に何かをばらまいた。

 足元に飛んできたそれをリーゼリットは拾い上げ、驚愕した。

 それは、メイド姿で掃除をするロザリアに、リーゼリットが厳しい顔で何かを言い聞かせているかのような写真だった。


「このように、リーゼリットはロザリアをいじめ、私をも恐喝していたのです。継母とその連れ子だからと、あまりの仕打ち。私はこれを告発します。このような悪役令嬢に息子の存在を知られては何をされるかと恐怖の毎日でした。このような素行の悪い娘をアークス王子の婚約者にしておけるわけがありませんわ!」


 エルシーはエリオットを執事に預け、しくしくと泣き始めた。


 ――でたらめである。


 リーゼリットはハメられたことに気づいた。

 ロザリアに雑用をさせていたのは、この写真を捏造するためだったのか。


「み、みなさま違います!! 私は好きで雑用をしていただけで、お姉様はそんな私を侯爵令嬢として相応しくないと注意してくださっていただけで……!」


 慌てて否定してくれるロザリアであるが、その健気さがかえってリーゼリットを悪役に見せてしまう。


「リーゼリット様ってそんな方だったのね」

「見た目もキツそうだし、やっぱりね」

「アークス王子が居るのにシリウス王子も侍らせているあたり、怪しいと思ってたわ」


 そう、色々な悪口が口々に聞こえてくる。

 リーゼリットから血の気が引いた。

 アークス王子に婚約破棄され、そして断罪され、教会に幽閉された時、そして大火に巻き込まれ、熱く苦しみながら死んだ瞬間。

 全てがフラッシュバックのようにリーゼリットを襲った。


 苦しい。息ができない。


 リーゼリットの視線はシリウスに向いた。シリウスも例の写真を見ている。


 ――シリウスにまで疑われている。


 リーゼリットはそんな風に思うと余計に苦しくなり、その場を逃げ出してしまった。


「お姉様!!」


 ロザリアはすぐにリーゼリットを追いかけようとする。


「ロザリア様、大変でしたのね」

「お可愛そうに」

「リーゼリット様のことなど気になさらず」


 そう、憐れんだ様子の令嬢たちに取り囲まれ、ロザリアは身動きが取れない。

 それはアークスとシリウスも同じであった。


「あんな女に騙されて大変だったね」と、口々に言われる。

 その間にリーゼリットはサロンを出て、無我夢中で走った。


 どこをどう走ったのか解らなかったが、たどり着いたのは暗い図書室であった。

 月明かりだけが辛うじて床を照らしている。リ

 ーゼリットは図書室の隅で膝を抱えて丸まった。


 ――破滅エンドは回避できないんだ。

 きっとまた修道院に入れられて、火事で死ぬのだ。

 もしかしたらそれが永遠と繰り返されるのかもしれない。

 私はこのループを抜け出せず、何回も火事で死ぬんだ。


 私が何をしたっていうの?

 ロザリアをいじめたことは悪かったわ。謝ります。

 神様。反省しても許してくださらないのですか。


 そうよね、前世のロザリアはすごく苦しんだんだもの。

 謝ったって許してもらえないわよね。

 私は永遠に火事で死に続ける運命なんだわ……。


 リーゼリットは絶望していた。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?